学年だより「おとめの流儀」
小学校四年から、なぎなた道場に通っていた山下聡子は、進学する中学校に、全国的にもめずらしいなぎなた部が存在するのを知り、中学に入ってからの部活選びには迷わなかった。
ただし、問題があった。先輩が一人しかいなかったのだ。
高野朝子という二年生が言う。「部員が5人そろわないことには廃部になってしまう、なんとかあなたの他にあと3人は連れてきてほしい … 」
こうして聡子の中学校生活は部員勧誘からスタートする。幼馴染みのゆきちゃん、愛想は悪いが俊敏な井川さん、その連れの山根さん、同じクラスの近くの席だったドンくさい男子の岩山君と、なんとか部活見学期間中に人数がそろい、高野部長のもと活動を始めた。
なぎなたを初めてわずか一年の高野朝子先輩は、しかし動きが圧倒的だった。まさに武道家。幼い頃から続けていた剣道が身体のベースにあることを後に知る。
ある日、聡子たち一年生は、部長の朝子に連れられて剣道部に見学に出かけた。その場で朝子は、剣道部への練習試合を申し込む。
驚いたのは一年生だ。試合が成り立つのか、いや成り立つものだとしても、なぎなたを始めたばかりの自分達が、闘えるのか … 。
「剣道部に勝つ!」なぜ朝子先輩は剣道部に敵対心を抱いているのだろう。突然大きく掲げられたなぎなた部の目標を、いぶかしげに見ながらも、一年生達は練習に精を出す。
小学校からやっている聡子は、いわば唯一の経験者部員だ。
最初のうちは、何をやっても飛び抜けていた。しかし、数ヶ月経つうちに、コツを覚えた井川さんから、たまに一本を奪われる。あまりに不器用で向いてないと言わざるを得なかった岩山君も、それなりに形になってくる。それに比べて自分は … 。
根本的に才能が不足しているのではないかと、聡子は考えるようになる。
~ 私は真面目だし、努力もするし、努力したぶん成長することはできるけど、たぶん、そんなに才能はない。岩山君のように不器用というわけじゃないし、ヨウリョウはいいけど、それだけだ。たたかい方にもそこまで特徴がない。ソツがないとかオールラウンダーとかいえば聞こえはいいけど、逆にいえば、そこまでの強みがないということだ。そこそこのセンスと、真面目さと、努力。かんたんな言葉で言ってしまうと、凡人だ。
なぎなた部に入って朝子さんを間近で見るようになって、そう思うようになった。最近は、ゆきちゃんが「なんか、いま打てるかも」でごくたまに一本を取るのを見ても、ときどき思わされる。
… 朝子さんや神谷さんには、自分が凡人だと思う瞬間はあるのだろうか。想像できないけど、もしかしたらあるのかもしれない。でも、やっぱり想像できない。 (小嶋陽太郎『おとめの流儀』ポプラ社) ~
『おとめの流儀』は、女子中学生が主人公の部活小説だが、高校生が読んでも、大人が読んでも、聡子の切実な思いが伝わり、それを乗り越えていこうとする彼女を応援してしまう。
自分は何者でもないことに気づくその日の切なさを、誰もが思い出すからだ。