三段落 〈 第一場面 御坂峠 〉
「お客さん! 起きてみよ!」かん高い声である朝、茶店の外で、娘さんが絶叫したので、私は、しぶしぶ起きて、廊下へ出てみた。
娘さんは、興奮して頬を真っ赤にしていた。黙って空を指さした。見ると、雪。はっと思った。富士に雪が降ったのだ。山頂が、真っ白に、光り輝いていた。御坂の富士も、ばかにできないぞと思った。
「いいね。」
とほめてやると、娘さんは得意そうに、
「すばらしいでしょう?」といい言葉使って、「御坂の富士は、〈 これ 〉でも、だめ?」としゃがんで言った。私が、かねがね、こんな富士は俗でだめだ、と教えていたので、娘さんは、内心しょげていたのかもしれない。
「やはり、富士は、雪が降らなければ、だめなものだ。」〈 もっともらしい顔をして、私は、そう教え直した。 〉
私は、どてら着て山を歩き回って、月見草の種を両の手のひらにいっぱい取ってきて、それを茶店の背戸にまいてやって、
〈 「いいかい、これは僕の月見草だからね、来年また来て見るのだからね、ここへお洗濯の水なんか捨てちゃいけないよ。」娘さんは、うなずいた。 〉
場面設定
場所:御坂峠 時:富士に雪が降った朝 人物:私・娘さん
Q「御坂の富士は、〈 これ 〉でも、だめ?」の「これ」について、
Q32「これ」とは何か。(20字以内)
A32 雪で山頂が真っ白に光り輝いている富士
Q33「これ」を見たとき、「私」はどう思ったか。15字以内で抜き出せ。
A33 御坂の富士も、ばかにできないぞ
Q34 この場面の色彩感を説明せよ。
A34 空の青、山頂の白、娘さんの赤のコントラスト。
事件 娘さんが興奮して富士を指さす
「これでもだめ?」としゃがんで … 「私」にあまえるようなしぐさ
↓
心情 自分の富士批判に内心しょげていたのか
∥
「娘さん」の自分への好意に気づく
傷つけていたことを反省
↓
行動 もっともらしく説明する
来年も来るよ
Q35「もっともらしい顔をして、私は、そう教え直した」とあるが、「私」の心情を説明せよ。
A35 御坂の富士を見下す自分の言葉を、思いのほか娘さんが気にしていたことに気づき、自分の言葉はあくまでも筋の通ったものであり、御坂峠がきらいなわけではなかったと慰める気持ち。
Q36「 「いいかい、これは僕の月見草だからね、来年また来て見るのだからね、ここへお洗濯の水なんか捨てちゃいけないよ。」娘さんは、うなずいた。」というやりとりには、どういうことが表現されているか。
A36 また訪れるつもりだという「私」の気持ちと、それを聞いて安心する娘さんの思いが表現されている。