学校も始まった。
体育館で始業式、そして全国選抜への出場を決めた、テニス部、卓球部、少林寺部の壮行会。
教室にもどり、実力テスト。試験監督中に、三学期分の予習はだいたいめどが立ったぜぇ。
1学年だより「新年おめでとうございます」
冬休み中に読んで最も心動かされた本は、平田オリザ『幕が上がる』という小説だ。
主人公は、北関東の高校に通うさおり(高橋さおり)。
高校2年の秋大会が終わり、3年生たちが引退したあと、部長を務めることになった。
他の4人の部員と話し合って「地区大会突破、県大会出場」を目標に掲げ、新体制での活動をはじめた。
とは言え、顧問は演劇については専門外の先生で、自分たちでなんとかしていかねばならない。
新体制になってからの寒い季節、みんなで基礎練習などにとりくんでみたものの、運動部のように練習試合があるわけではないので、実力がついているのかどうかの実感がわかない。
日が経つにつれて、部員のモチベーションも目標を決めた時ほどのものではなくなってくる。
新年度を迎え、さしあたり新入部員を確保しなければ、5人のままでは出来ることがあまりに限られてくる。
同時に、三年生になった3人は、自分たちの進路についても考えなければならない状況になっている … 、といった、みなさんにとっても人ごととは思えないであろう設定のお話だ。
そんな彼女たち(男子部員は2年の1名だけ)の転機は、新任で赴任してきた美術の吉岡先生が、大学で演劇をやっていたことを顧問の先生から聞いたときだった。
「副顧問になってほしい」と頼みに出向いたさおり達を、吉岡先生はコーヒーをいれて迎えてくれた。新入生オリエンテーションでの、さおりたち演劇部のパフォーマンスを、吉岡先生も興味をもって見ていたようだった。
毎日じゃなくてもいいから練習を見てほしいと言うさおり達にこう答える。
~ 「美術部のこともあるし、新人だから、いろいろ研修とかもあるのね。 … まず、私も高校演劇 のこと、少し勉強してみるよ」
「ありがとうございます」
「大会があるんでしょう?」
「秋です。秋までに、頑張りたいんです。地区大会で三番以内になって、県大会が目標です」
「何だ、小っちゃいな、目標」
「え?」
「行こうよ、全国大会」(平田オリザ『幕が上がる』講談社) ~
その夜、インターネットで吉岡先生の名前を検索したユッコ(演劇部の看板女優)は、彼女が学生演劇界で相当有名な存在だったことを知る。
二人のスタッフ希望を含め7人の進入部員を迎えることができ、計12名にふくれあがった演劇部の挑戦がはじまった。
生徒さんにも紹介したいと思った『幕が上がる』だが、演劇部の先生的な方には薦めにくい本のような気もしてきた。「よく書けた小説だよね」って素直にほめないんじゃないかな。
細かいところを指摘して、こういうところが事実と違うとか、ほんとはこんなテンションじゃないんだよねとか、この吉岡先生て存在はありえないとか、著者は小劇場のことわかってんのかな(さすがにそれはないか)言う人がいるようで。
でも、顧問とかじゃなく、プロとしてお芝居にかかわっている人は素直に読んでくれるかもしれない。いや、読まないか、役者さんは。
じゃあ、誰が読むの? お芝居の本当の当事者じゃなくて好きな人。高校の部活に関わっている人。青春時代へのあこがれと喪失感を感じることのできる人。なるほど、今の自分にはハマる要素がすべてある。
高校時代の自分が読んでたら、どうだろう。演劇部を一回だけのぞきにいったり、福井市文化会館でやってた大会を見に行ったり、つかこうへいを愛読するくらいには芝居に興味があった高校時代だが、何かに対して素直にがんばるということ自体が一番できない時代だった。だから、たぶん … 、いやだからこそ昔ものめりこんだかもしれない。そういえば、あのころ没頭した「赤頭巾ちゃんシリーズ」みたいな本が、今はないな。