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雪の花 秋吉理香子

少し前に著者の長編を読んで面白かったので、本書を読んでみることにした。本書に収められた4つの短編は、それぞれが違った光を放っている。特に最初の2編が素晴らしい。両親の離婚をけなげに受け止めようとする中学生を父親の目から描いた最初の作品、突然の妻の失踪の謎を追いかける老人を描いた2つ目の作品、全く違う世代の心情をここまで細やかに描くことができる作者の力量に、まず驚かされる。著者の略歴をみると、小説家であると同時に映像関係の仕事もしているという。映像関係の仕事と小説の両方を手掛ける作家の作品はこれまで何冊も読んだが、期待外れのことが多かった気がする。映像化されることを意識したり、視聴者の反応を意識的に操作しようという下心が透けて見えるようでどうしても好きになれない部分があるからだ。本書は、そうしたわざとらしさとは無縁なところにある。物事を人に伝える時にその媒体を何にするか、著者がそれをよく知っているからだろうと思う。これで、著者の作品は、長編と短編を一冊ずつ読んだことになる。作風などから考えると、次の短編集というのは当分期待できないのかもしれないが、自分としては短編集の方が断然作者の良さを感じられるような気がした。(「雪の花」  秋吉理香子、小学館文庫)

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