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希望荘 宮部みゆき

前作で突然主人公を襲う「家庭の崩壊」という悲劇。シリーズ作品を読み進めていて、こうした展開があるとは予想していなかっただけにびっくりしたのだが、それが次作でどう展開していくのか、それが気になって本書を待ち望んでいた読者も多いだろう。自分もその一人だけに、本書は読む前から期待が膨らむ。しかも本書は短編集だという。短編集という形式で、シリーズの本筋はちゃんと進展するのだろうか?もしかしたら、本書では前作の悲劇は何となく棚上げにされ、普通の短編ミステリーになってしまっているのではないかという不安も脳裏をかすめる。まさに、作者の術中にはまった感じで、期待と不安を持って読み始めた。本書では、心機一転新しい人生を歩み始めた主人公の探偵としての活躍が描かれているが、上記の心配をよそに、その主人公の境遇の変化がうまくそれぞれの事件解決と絡み合っていて、ミステリーの楽しさとは別のテイストをしっかり醸し出している。さすがに作者のストーリーテラーとしてのすごさ、どんなシチュエーションからでも物語を紡ぎ動かせるんだなぁと感心させられた。最初からこの劇的な変化を構想していたのかどうかは謎だが、本書では主人公の過去までが詳細に語られていて、ますます人物の造詣そのものへの愛着も生まれ、次回作への期待も膨らむ。(「希望荘」 宮部みゆき、小学館)

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