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五声のリチュルカーレ 深水黎一郎

最近立て続けに読んでいる著者の本だが、本書で一応過去の作品は一通り読むことができた気がする。本書は、これまでに読んだ美術や音楽に関する薀蓄満載の著者の作品とはかなり異質な内容だが、人間の発生学的な特殊性とか、昆虫の擬態に関する知識などがストーリーに大きく関わっていて、ある意味ではこれまでの著者の作品と相通じる、まさに著者ならではの作品という趣を持っている。それに加えて、本書では現代の小中学校などにおけるいじめ問題について、子どもの視線からみた救いようのない解釈が提示されている気がする。少年法に対する疑問、子どもの頃の心情を忘れてしまった大人の無理解のようなものが読者の心に痛く響く作品でもある。これまで読んできた著者の作品は、ミステリーという分野での問題作にすぎなかったが、本書に関しては、社会問題を扱った別の意味での大きな問題作だと感じた。(「五声のリチュルカーレ」 深水黎一郎、創元推理文庫)

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