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ムラブリ 伊藤雄馬

知人に勧められて読んだ一冊。タイ北部の少数民族ムラブリを研究対象としている言語学者のエッセイ。現時点でムラブリ語を使用するのは500人ほど、消滅の危機に直面する「危機言語」とのことで、著者がその言語を後世に伝えるべく奮闘する様が描かれている。この言語は、使用する人が少ないだけでなく、文字を持たない、人柄がシャイで外部の人間に対する警戒心が強いといった特徴があるため、その研究は困難を極める。また、それが何の役に立つのかという根本的な問題もあって読んでいて、言語学というのは大変だなぁとつくづく感じた。また、この言語には、過去形や未来形がない、「持つ」と「ある」が同一語、上という言葉が否定的な意味を持つ、数が4までしかないなど、他の言語には見られない際立った特徴がいくつもあり、著者はそうした特徴を通じてこの言語を使用するの人々の生活や価値観を浮き彫りにしていく。面白いのは、そうした研究を通じてこの言語を操れるようになった著者が、ムラブリの民の価値観に惹かれてムラブリ特有の身体性を獲得し、さらに自らの生き方を変えていってしまうという話。言語学の奥深さと言語の持つ力を教えてくれるような内容だった。(「ムラブリ」 伊藤雄馬、集英社インターナショナル)
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