昨年のコロナ自粛で読んだ本の中で一番記憶に残ったのは、城山三郎の『落日燃ゆ』だった。伝記的には司馬遼太郎『竜馬がゆく』、史論的には島崎藤村の『夜明け前』と較べることができる。
読んでいる途中でコロナに罹れば読めなくなると思ったので、つい終わりが気になって、ラストを見てしまった。そこには「日本を滅ぼした長州の憲法」の一文が最終行にあった。
読み終えると、この本の中には「長州の憲法」に関わる文章が四ヶ所に出て来る。作者のこだわり、いや、自らの戦争体験の中から、腐った軍部が利用した旧憲法の統帥権こそがこの国を戦争に引きずり込んだ根幹の理由・原因としたのであろう。
「この戦争の責任者は、個人よりも、統帥権の独立を許した憲法の構造そのものに在る」ということを、広田弘毅の口を借りて、城山三郎がこの本で一番言いたかったことなのであろう。