ちょっと想い出に浸っていると また仏壇が騒ぎ出した
「キハッタ キハッタ トウトウー」
「アア ヒサシブリヤ」
「ド ドウシヨウ ジットシテラレヘン」
などと仏壇がジタバタしだす
考えてもみてほしい
百の仏壇が暴れ出す様子を
それは はっきり言って迷惑でしかない
「頼むから落ち着いていてくれ 動かないでほしい 行儀が悪いと思われてもいいんですか」
すると仏壇達は自分達がよそいきと思っているらしい佇まいになった
ま・・・・
黙って 動かなくなっただけ・・・だけど
仏壇達がいたら 呼び鈴はいらないかもしれないな
ああ この言い方が年寄りくさいと雅子に怒られるんだった
インターホンねえ・・・
玄関ベルのがわかりやすいと思うんだが
馬場の婆様の手を引いて玄関に近づいてくるのは母さんだった
少し離れて 珍しくせかせかした足取りで唐十郎さんが歩いてくる
いつもはゆったりしているのに こういう姿を見るのは初めてだ
ソファーベッドが長椅子として片仮名のコの字に置かれている部屋に通すことにする
そこなら台所が続いているから便利がいい
婆様も腰かけるソファ―の方が楽だろうし
婆様に雅子を紹介し 雅子には婆様と唐十郎さんを紹介する
婆様はコの字の真ん中に 母さんと唐十郎さんは両端のソフアーに腰かけたので 僕と雅ちゃんは婆様の正面に並んで二つある背もたれの無いスツールに座ることになった
出したお茶を一口飲んで 婆様はちょっと笑った
「聞きたいことがいっぱいあるのじゃろ」と僕に言う
「騙されていたと怒ってもいんじゃがな できたお子じゃな」
母と唐十郎さんを見比べて 僕に視線を戻す
「この婆から話すのが良かろう まずは家族だけでなあ」
「あの・・・じゃあ 私は席を外したほうがいいのではありませんか」
遠慮がちに雅子が言い出す
「いいんじゃよ 長い長い話になるが知っておいた方が良いわさ」
今度は婆様は僕と雅ちゃんとを見る
「その昔 古巫女と呼ばれる存在であった頃 夢に教えられた いつかこの村に必要な人間を産めーと
その時はただの夢と思っておった
じゃがー馬場本家の嫁にと言われてーもしやと思おた
馬場本家の嫁になり 唐十郎が生まれ
棺野の和守(かずもり)が嫁さんを連れて村に戻り この家に住むようになった・・・・・
棺野の名前のものでも仏壇が見えるとは限らない
和守も嫁の梅美も見える人間ではなかった
見えないと仏壇の世話はできない
本当ならこの家で暮らす資格はないんじゃ
それでも仏壇は夫婦を許した
何故なら仏壇は知っておった
この松琴が生まれることを 仏壇を見ることができる人間
将来 巫女となる者として この婆が松琴と名付けた
そうして婆はなあ 松琴に謝らねばならん
和守も梅美さんも普通の人間であっただけで 何も悪い事はしておらん
仏壇の祟りで殺されたとか
仏壇に殺されたとか 悪いことをしていたとか噂は全て嘘
悪意ある噂を流した人間こそ 松琴の両親を殺した人間
和守はその人間の秘密を知ってしまい 殺された
仏壇達は松琴だけでもと守ってくれたんじゃ
ーと仏壇達から これは聞いた
娘がおらんこの婆には松琴はいとおしかった
小さな手で教えたことをそのままに覚えて
一つ一つー
唐十郎にもいつしか仏壇が見えるようになり
馬場本家のな 夫の久太郎は唐十郎の将来を早々と決めようとした
唐十郎がこの村から出ることを恐れたのじゃろうが
商売で取引あった縄網の娘の千鶴と婚約させようとし
会社が傾いている縄網の家にも嬉しい縁談じゃった
馬場本家には金だけはあるのでな
じゃがそれは久太郎の考えで この婆には別の思いがあったんじゃ
婆はな 母親じゃからな
息子の 唐十郎の気持ちはよくわかった
娘のように育てた松琴の気持ちもな
それでいいと思っておった
むしろ願っておった
千鶴はな あの娘は性格も素行も良くなかったんでな
手に入らないとなると千鶴は唐十郎に執着したが 面倒なことに
そこで唐十郎は追い詰められる
若い男が追い詰められて どうしたか
婆からは言うまい
それは唐十郎と松琴の間のことじゃ
哀れな松琴は自分を責めた
婆に合わせる顔がないと 思おうておったんじゃな
可哀想に
育ててもらったのに 裏切ってしまたっと
恋に狂ったバカ息子のせいで
松琴が婆に相談してくれていたならー
婆はどうやってでも 久太郎を説得してみせたに
松琴は村を出て行き 身を隠し
唐十郎は松琴を捜しに行き 見つけられず
馬場の金が必要な縄網では 千鶴の父親は呆れたことに娘が気に入らぬなら形だけの結婚でいい
なんとかして傾いた会社を倒産から救ってほしいと 唐十郎をかきくどいた 頼み込んだ
松琴は見つからぬ
唐十郎は父親からと縄網からとの口説きに負けた
なんとなれば縄網は唐十郎が小さい頃から可愛がってくれた人間ではあったゆえ
籍だけの夫の唐十郎
千鶴はよそで子供を作り 娘を産みおった
よその男の子をな 唐十郎の娘と言い張り 金をせびる
その恥ずかしさに千鶴の父親は いくらなんでもーと娘のあくどさに病気になり死んでしもうた
そうなんじゃ松琴
加世子はな 唐十郎の娘ではない
唐十郎は千鶴や加世子と同じ家で暮らしたことすらないんじゃ」
ここまで話して 少し疲れたのか婆様は大きな溜息をついた
「キハッタ キハッタ トウトウー」
「アア ヒサシブリヤ」
「ド ドウシヨウ ジットシテラレヘン」
などと仏壇がジタバタしだす
考えてもみてほしい
百の仏壇が暴れ出す様子を
それは はっきり言って迷惑でしかない
「頼むから落ち着いていてくれ 動かないでほしい 行儀が悪いと思われてもいいんですか」
すると仏壇達は自分達がよそいきと思っているらしい佇まいになった
ま・・・・
黙って 動かなくなっただけ・・・だけど
仏壇達がいたら 呼び鈴はいらないかもしれないな
ああ この言い方が年寄りくさいと雅子に怒られるんだった
インターホンねえ・・・
玄関ベルのがわかりやすいと思うんだが
馬場の婆様の手を引いて玄関に近づいてくるのは母さんだった
少し離れて 珍しくせかせかした足取りで唐十郎さんが歩いてくる
いつもはゆったりしているのに こういう姿を見るのは初めてだ
ソファーベッドが長椅子として片仮名のコの字に置かれている部屋に通すことにする
そこなら台所が続いているから便利がいい
婆様も腰かけるソファ―の方が楽だろうし
婆様に雅子を紹介し 雅子には婆様と唐十郎さんを紹介する
婆様はコの字の真ん中に 母さんと唐十郎さんは両端のソフアーに腰かけたので 僕と雅ちゃんは婆様の正面に並んで二つある背もたれの無いスツールに座ることになった
出したお茶を一口飲んで 婆様はちょっと笑った
「聞きたいことがいっぱいあるのじゃろ」と僕に言う
「騙されていたと怒ってもいんじゃがな できたお子じゃな」
母と唐十郎さんを見比べて 僕に視線を戻す
「この婆から話すのが良かろう まずは家族だけでなあ」
「あの・・・じゃあ 私は席を外したほうがいいのではありませんか」
遠慮がちに雅子が言い出す
「いいんじゃよ 長い長い話になるが知っておいた方が良いわさ」
今度は婆様は僕と雅ちゃんとを見る
「その昔 古巫女と呼ばれる存在であった頃 夢に教えられた いつかこの村に必要な人間を産めーと
その時はただの夢と思っておった
じゃがー馬場本家の嫁にと言われてーもしやと思おた
馬場本家の嫁になり 唐十郎が生まれ
棺野の和守(かずもり)が嫁さんを連れて村に戻り この家に住むようになった・・・・・
棺野の名前のものでも仏壇が見えるとは限らない
和守も嫁の梅美も見える人間ではなかった
見えないと仏壇の世話はできない
本当ならこの家で暮らす資格はないんじゃ
それでも仏壇は夫婦を許した
何故なら仏壇は知っておった
この松琴が生まれることを 仏壇を見ることができる人間
将来 巫女となる者として この婆が松琴と名付けた
そうして婆はなあ 松琴に謝らねばならん
和守も梅美さんも普通の人間であっただけで 何も悪い事はしておらん
仏壇の祟りで殺されたとか
仏壇に殺されたとか 悪いことをしていたとか噂は全て嘘
悪意ある噂を流した人間こそ 松琴の両親を殺した人間
和守はその人間の秘密を知ってしまい 殺された
仏壇達は松琴だけでもと守ってくれたんじゃ
ーと仏壇達から これは聞いた
娘がおらんこの婆には松琴はいとおしかった
小さな手で教えたことをそのままに覚えて
一つ一つー
唐十郎にもいつしか仏壇が見えるようになり
馬場本家のな 夫の久太郎は唐十郎の将来を早々と決めようとした
唐十郎がこの村から出ることを恐れたのじゃろうが
商売で取引あった縄網の娘の千鶴と婚約させようとし
会社が傾いている縄網の家にも嬉しい縁談じゃった
馬場本家には金だけはあるのでな
じゃがそれは久太郎の考えで この婆には別の思いがあったんじゃ
婆はな 母親じゃからな
息子の 唐十郎の気持ちはよくわかった
娘のように育てた松琴の気持ちもな
それでいいと思っておった
むしろ願っておった
千鶴はな あの娘は性格も素行も良くなかったんでな
手に入らないとなると千鶴は唐十郎に執着したが 面倒なことに
そこで唐十郎は追い詰められる
若い男が追い詰められて どうしたか
婆からは言うまい
それは唐十郎と松琴の間のことじゃ
哀れな松琴は自分を責めた
婆に合わせる顔がないと 思おうておったんじゃな
可哀想に
育ててもらったのに 裏切ってしまたっと
恋に狂ったバカ息子のせいで
松琴が婆に相談してくれていたならー
婆はどうやってでも 久太郎を説得してみせたに
松琴は村を出て行き 身を隠し
唐十郎は松琴を捜しに行き 見つけられず
馬場の金が必要な縄網では 千鶴の父親は呆れたことに娘が気に入らぬなら形だけの結婚でいい
なんとかして傾いた会社を倒産から救ってほしいと 唐十郎をかきくどいた 頼み込んだ
松琴は見つからぬ
唐十郎は父親からと縄網からとの口説きに負けた
なんとなれば縄網は唐十郎が小さい頃から可愛がってくれた人間ではあったゆえ
籍だけの夫の唐十郎
千鶴はよそで子供を作り 娘を産みおった
よその男の子をな 唐十郎の娘と言い張り 金をせびる
その恥ずかしさに千鶴の父親は いくらなんでもーと娘のあくどさに病気になり死んでしもうた
そうなんじゃ松琴
加世子はな 唐十郎の娘ではない
唐十郎は千鶴や加世子と同じ家で暮らしたことすらないんじゃ」
ここまで話して 少し疲れたのか婆様は大きな溜息をついた