人々の視線の先にいるのはー
僕の母と雅子の周囲を何か振り撒きながら千鶴さんがぐるぐる回っている
「動くんじゃないよ 逃げたら火をつけるよ ほうらほうら
これはよく燃えるんだよ
マルから出たらアウトだよ
ほ~ほっほほほほ~~~~」
千鶴さんは肩から大きなカバンを提げていて そこから何か入った瓶を取りだしては地面に撒いている
「動いたら松琴 お前と連れの娘にもふりかけるよ
お誂え向きにいい風が吹いている
火がついたらどうなるか 楽しみだねえ
ふははははは
ああ 楽しい
もっと早くこうすれば良かったんだわ
どうして思いつかなかったんだろう
そのつんとした 会うたびに人をバカにしたように見る冷たい瞳も
唐十郎が優しく見るその姿ぜ~~~んぶ 燃えてしまうといい
焼けただれて醜くなって・・・・・・
お前がこの世からいなくなったら 唐十郎はどんな顔をするだろう
いい気味だ
これも全部 お前が悪いのさ
戻ってきたりするから
馬場本家の持ち物は財産は全部 加世子ひとりのモノになるはずだったのに
だから加世子を産んだのに
どうしてお前は息子を送り込んだ
いつもいつも どうしてお前は邪魔をする
軽々と人のモノをかっさらっていってしまう
こっちはずうっと そのせいでイヤな思いをしてるのに
死んでしまえ 死んでしまえ
お前など~~~~~~」
けたけた笑っていたかと思うと地の底からの唸り声のような暗い響きの声になる千鶴さん
その頭上には黒い鴉が集まってきているのに気づいていない
ああ そうか 千鶴さんは見えない人だった
他の人にはこの異様な空が見えていないのか
鴉達は静かに そして異常な熱心さで千鶴さんを凝視(みつ)めている
僕は初めて鴉達を恐ろしいと思った
ーあ!暢気にしてる場合じゃないんだ
千鶴さんは母さんと雅ちゃんを燃やそうとしているようだし
僕が何かできないか考えている間に・・・・・・
唐十郎さんが千鶴さんが何かの液で作った輪の中に飛び込んできて母さんと雅ちゃんを背中に庇う
それは更に千鶴さんを逆上させた
「もう一緒に燃えてしまえ お前達みんな居なくなってしまえ」
どばどばと残りの壜の中身も地面にぶちまけ 千鶴さんは高笑いする
風は母のいる方へ吹いている
千鶴さんはニヤリと笑うとライターの火を持っていた何かの塊に移し 燃える塊を地面に投げつけた
炎は唐十郎さんや母へと向かうはずだった
一瞬 母がいる方へ向かった炎の壁は真逆へ方向を変える
炎は千鶴さんを包む・・・・・そうして勢いよく燃え上がる
千鶴さんの全身を焦がす
「ぎゃああああ~~~~~~!!!!!!」
千鶴さんの叫びが響く
千鶴さんが転げ回る
だが実は 炎は千鶴さんの心の中だけにしかない
空を覆う鴉達が見せている幻影
鴉達の羽ばたきで炎は消えていた
喚きながら転げ回る千鶴子さんを居合わせた人々は茫然と眺めている
人々には千鶴さんを包む炎は見えない
駆けてきた加世子さんが狂ったような千鶴さんの姿に悲鳴をあげた
自分の中での現実感の無さに僕は 自分が現実と夢の世界の両方と同化していることに気付く
ーよく気付いたー
声の方を振り向くと着物を粋に着崩した色っぽい女性が立っていた
ーこの姿で会うのは初めてになる 仏壇姿から鴉に戻り 鴉の姿に戻れたことで人であった時のことも思い出せた
全部 守人のおかげだ
だから教えにきた
我等は鴉として夢使いに引き取られたが それでも守人とはつながっている
いつでも行き来ができる
殺された鴉を扱う男と鴉達の話を覚えているか
鴉使いは守っていた村に恋人がいた
村の生き残りの中にはその娘もいて 娘のお腹には鴉使いの男の子どもがいた
だから漂う怨霊となったわれらは 鴉使いに従っていた鴉達は その娘と子供を守った
その子供の子孫が 鴉使いの男の血を引くのがお前だ 守人
更に言えば 鴉使いの男はな その前世のはるか昔に
非業の死を遂げてその魂が大きな鴉に変じたものでもあった
その者の幾度も転生した現在の魂の持ち主が夢使いの深空野 真夜(みそらの しんや)
だから お前達はリンクしている
我等は怨霊では無くなったが しかし縄網の家の千鶴は許せぬ
なんとなればな 昔 時の権力者にこびて その機嫌とりで
鴉使いとその鴉達を殺すと言い張り他の者を言いくるめたのが縄網の家のものであった
縄網の千鶴は棺野の血を引く松琴と守人に害そうとした
ゆえに千鶴への呪いは解かぬ
時に我等は非情のものとなるが なるが
これまでのいろんな経緯は別にしても我等はな 守人が好きじゃ
これだけは覚えていてほしい
それでな守人ー
「うん?」
ーまた遊びにきてもよいか こうして人の姿で来るゆえにー
僕の母と雅子の周囲を何か振り撒きながら千鶴さんがぐるぐる回っている
「動くんじゃないよ 逃げたら火をつけるよ ほうらほうら
これはよく燃えるんだよ
マルから出たらアウトだよ
ほ~ほっほほほほ~~~~」
千鶴さんは肩から大きなカバンを提げていて そこから何か入った瓶を取りだしては地面に撒いている
「動いたら松琴 お前と連れの娘にもふりかけるよ
お誂え向きにいい風が吹いている
火がついたらどうなるか 楽しみだねえ
ふははははは
ああ 楽しい
もっと早くこうすれば良かったんだわ
どうして思いつかなかったんだろう
そのつんとした 会うたびに人をバカにしたように見る冷たい瞳も
唐十郎が優しく見るその姿ぜ~~~んぶ 燃えてしまうといい
焼けただれて醜くなって・・・・・・
お前がこの世からいなくなったら 唐十郎はどんな顔をするだろう
いい気味だ
これも全部 お前が悪いのさ
戻ってきたりするから
馬場本家の持ち物は財産は全部 加世子ひとりのモノになるはずだったのに
だから加世子を産んだのに
どうしてお前は息子を送り込んだ
いつもいつも どうしてお前は邪魔をする
軽々と人のモノをかっさらっていってしまう
こっちはずうっと そのせいでイヤな思いをしてるのに
死んでしまえ 死んでしまえ
お前など~~~~~~」
けたけた笑っていたかと思うと地の底からの唸り声のような暗い響きの声になる千鶴さん
その頭上には黒い鴉が集まってきているのに気づいていない
ああ そうか 千鶴さんは見えない人だった
他の人にはこの異様な空が見えていないのか
鴉達は静かに そして異常な熱心さで千鶴さんを凝視(みつ)めている
僕は初めて鴉達を恐ろしいと思った
ーあ!暢気にしてる場合じゃないんだ
千鶴さんは母さんと雅ちゃんを燃やそうとしているようだし
僕が何かできないか考えている間に・・・・・・
唐十郎さんが千鶴さんが何かの液で作った輪の中に飛び込んできて母さんと雅ちゃんを背中に庇う
それは更に千鶴さんを逆上させた
「もう一緒に燃えてしまえ お前達みんな居なくなってしまえ」
どばどばと残りの壜の中身も地面にぶちまけ 千鶴さんは高笑いする
風は母のいる方へ吹いている
千鶴さんはニヤリと笑うとライターの火を持っていた何かの塊に移し 燃える塊を地面に投げつけた
炎は唐十郎さんや母へと向かうはずだった
一瞬 母がいる方へ向かった炎の壁は真逆へ方向を変える
炎は千鶴さんを包む・・・・・そうして勢いよく燃え上がる
千鶴さんの全身を焦がす
「ぎゃああああ~~~~~~!!!!!!」
千鶴さんの叫びが響く
千鶴さんが転げ回る
だが実は 炎は千鶴さんの心の中だけにしかない
空を覆う鴉達が見せている幻影
鴉達の羽ばたきで炎は消えていた
喚きながら転げ回る千鶴子さんを居合わせた人々は茫然と眺めている
人々には千鶴さんを包む炎は見えない
駆けてきた加世子さんが狂ったような千鶴さんの姿に悲鳴をあげた
自分の中での現実感の無さに僕は 自分が現実と夢の世界の両方と同化していることに気付く
ーよく気付いたー
声の方を振り向くと着物を粋に着崩した色っぽい女性が立っていた
ーこの姿で会うのは初めてになる 仏壇姿から鴉に戻り 鴉の姿に戻れたことで人であった時のことも思い出せた
全部 守人のおかげだ
だから教えにきた
我等は鴉として夢使いに引き取られたが それでも守人とはつながっている
いつでも行き来ができる
殺された鴉を扱う男と鴉達の話を覚えているか
鴉使いは守っていた村に恋人がいた
村の生き残りの中にはその娘もいて 娘のお腹には鴉使いの男の子どもがいた
だから漂う怨霊となったわれらは 鴉使いに従っていた鴉達は その娘と子供を守った
その子供の子孫が 鴉使いの男の血を引くのがお前だ 守人
更に言えば 鴉使いの男はな その前世のはるか昔に
非業の死を遂げてその魂が大きな鴉に変じたものでもあった
その者の幾度も転生した現在の魂の持ち主が夢使いの深空野 真夜(みそらの しんや)
だから お前達はリンクしている
我等は怨霊では無くなったが しかし縄網の家の千鶴は許せぬ
なんとなればな 昔 時の権力者にこびて その機嫌とりで
鴉使いとその鴉達を殺すと言い張り他の者を言いくるめたのが縄網の家のものであった
縄網の千鶴は棺野の血を引く松琴と守人に害そうとした
ゆえに千鶴への呪いは解かぬ
時に我等は非情のものとなるが なるが
これまでのいろんな経緯は別にしても我等はな 守人が好きじゃ
これだけは覚えていてほしい
それでな守人ー
「うん?」
ーまた遊びにきてもよいか こうして人の姿で来るゆえにー