女手一つで育ててくれた母と幼い息子と暮らす医師の椎名梓
一緒に暮らす恋人の定岡彰と近々結婚するつもりでいた看護師の硲瑠璃子
地域医療に関わり地元の人々からの信頼も厚い長峰邦昭
70代の長峰は同じく医師の息子から引退を考えてはーと 言われもしていた
ごく平凡な生活を送っていた彼らは それぞれの立場でコロナ禍〈中国武漢発 世界中に迷惑をかけ 死をばらまいた病気〉と向き合い 奮戦する
その死闘は患者の命を救う為のみならず 世評とも闘うこととなる
小説という形はとっているが 医師でもある著者が・・・
その医師という立場で眺めた「世間」も描かれている
医療に携わる方々は患者から感染し 命を落とされた方々も
この病気が出現しなければ 消えなくて喪われなくてよかった命
必要なマスクの医療機器の不足
感染を予防しなくてはいけないのに
完全に防ぐことができない
夏の暑い盛りにも 宇宙服のような姿で治療しなくてはいけない
従弟の一人が内科医で 往診にも出向いていた
どれほど多忙でも 持病ある私のことを気遣ってくれる優しく明るく冗談も得意な人間だ
その従弟は自分の大変さを自分からは言わない
従弟の父である叔父から その奮闘ぶり生活の大変さを聞くばかりだ
コロナと呼ばれるこの病気は まだ死滅したわけではない
罹患する人も多い
他の親戚にも「入院していた」という声は まだ聞く
医療に関わる方々が貶められてはならないーと思う
物語に話を戻そう
梓は家族と離れて暮らすことを選択
家庭に病気を持ち込んで 持病ある母やまだ幼い息子が感染することを防ぐためにも
自身が感染し死ぬこともありうる
それでも医師として 目の前の患者を見捨て逃亡することはできない
使命感持ち看護師としての職に向きあっていた瑠璃子も厳しい生活の中で心がすり減っていき 遂には自身も感染
結婚を考えていた恋人との生活も壊れてしまう
瑠璃子の心を救ったのは 母であり父の言葉
そして母の手料理
病気の後遺症で 失われていた味覚
彼女は医療の現場に立つ「心」を取り戻すことができた
そして以前の自分と同じように心がぼろぼろになっている同僚に気づく
クラスターを出した病院を責めるマスコミ
我慢できずに瑠璃子の放つ言葉は 実際の現場の医師たちも言いたい言葉なのではないだろうか
はっきりした治療方法が見つからず 混乱する現場
ワクチンに見出される希望
そのワクチンを否定するデマを流す一派
そのデマに躍らされネットで暴れる「自分こそ正しい」と思い込む人間
そのデマを信じ込みさらに拡散する「自分は賢い」と「思いあがる」人間もいる
外出から帰宅したら手を洗う
うがいする
なんてのは昭和の子供なら 家庭でも学校でも教わった「常識」であったはずなのだが
風邪を引いたら 人に移さない為にもマスクをする
自分を守り他人にも迷惑をかけないように生きる
他人に迷惑かけても それを考えず「自分の自由のみ」主張するのは ただの我儘だと思う
自己中心的でみっともないと
あなたにはあなたの権利があるかもしれないが その権利は他の人の「権利」を侵害してはいまいか
作中には様々な人が登場する
どう思って 読むかは 読む人一人一人により異なるし 感想もまた異なるだろう
ただ「あの時代」は 確かにこうであった
そういうこともあったね
そう振り返り 読むこともできる小説です
コメント欄は閉じております
ごめんなさい