「この男をどう思う」15歳の誕生日に緑矢(みどりや)あきひは祖父の克雅に尋ねられた
何かの会で発言している若い男の動画を見せられて
ー周囲の人々を見おろす長身 優し気な顔立ちなのに 毅然としており それによく通る響きの良い声
とても眩しく見えた
「どう?と言うのはー」あきひが問い返すと 克雅は笑った
「この男は新垣連(しんがき れん) 丁度お前と10歳ほど違う」
それから間もなくして あきひは克雅に連れられて 新垣連の父の豊造の見舞いに行った
敵に回せば随分と恐ろしい男になるのだと 道々克雅は言いもした
その豊造は しかし「これは まあ・・・・聞きしに勝る美しいお嬢さんだ」と笑顔で 病室にあきひを迎えたのだった
緑矢克雅は豊造に言った「この娘は あながち無縁ではありません 息子の雅弘は阿美津村に行ったことがあります
そこで滝見まりこさんと恋に落ちた」
「滝見の家の・・・!」豊造は頷いた
「運命を感じましたよ」ほろ苦く克雅は笑う
そのやりとりは あきひには分からないものだったが
時々あきひは豊造の見舞いに行くようになった
それを克雅も豊造も喜んでいるようであった
新垣豊造という人間は あきひにとっても興味深い人物だった
かつては村長をしていたから阿美津村には詳しく知る限りの村のこと 滝見の家に関することもあきひに教えた
その話が聞きたくて あきひは毎日のように豊造の病室へ通う
豊造の息子の連とは不思議なくらいのすれ違いで会えずにいたけれど
あきひのいない時に連は緑矢克雅とも豊造の病室で会って この二人からあきひの話も聞いていた
連の両親と同じく あきひの両親も阿美津村の例の医者に{注射}をされていた
縁談を受ける受けないを別として 連はあきひを守り将来を見届けるべき人間として思うようになる
姉の蓮や自分と同じく「変化する」可能性のある人間ゆえに
克雅も阿美津村の医者については調べていた
その情報を克雅は連に惜しみなく与えたし 孫娘のあきひの「これから」を それほどに憂えていた
ここで連とつながりを持てたことは僥倖に他ならない
例の医者の{注射}を受けた者の子供の中には行方不明となり死んだことにされている人間もいるという
ただあきひは自分が何を両親から受け継いだか知らなかった
克雅はあきひが受ける衝撃を思うと話せずにいたのだ
「僕は 自分がどうなるかわからない身です だから妻を持つということは考えられません
けれど この身に代えてあきひさんをお守りしましょう」
克雅はその言葉だけでも心強かった
自分に何があろうと この頼もしい若者がいる
あきひは独りぼっちにはならない
人一倍健康だった息子とその妻に急な体質変化があって 呆気なく死んでしまった時 克雅はその原因を探さずには調べずにはいられなかった
何が起きたのかとー
阿美津村 いまは存在しないかつては美しかった村
そうした事情が無くても孫娘を託すに 連は望ましい青年だった
そして連は会社の経営に関する知識を 豊造と克雅から吸収する
二人の話は連にとって楽しくもあった
二人は若くなく 自分たちに残された時間があまり長くはないことも気づいている
連は叔父の新垣忠明の「このままではすまさない」という言葉を忘れてはおらず 付き添いとして護衛を病室に置いている
そのうちに何かをしかけてくるかもしれないーと連は案じていた
それもあり少しでも時間があれば 豊造の病室へ通うようにしていた
病院の駐車場から中庭を突っ切り 渡り廊下から病棟へ入るのが 豊造の病室へ行く近道で その日も連は中庭から渡り廊下に向かって歩いていた
逆に病棟から渡り廊下へ出てきた人間がいる
額にかかる前髪 肩先より少し長い髪が歩くたびに揺れる
意志の強そうな光放つ瞳
美少女と美女のはざまにあるあやうい年頃の輝き
ーやっと会えたーと その時 連は思い その人ーあきひの姿を眺めていた
別な方向からは奇妙な雄たけびあげて 飛び出してきた影がある
あきひに向かって走っていた
新垣忠明ー手に何か持っている
あきひは呆然と自分に近づく男を見た
血走った目 無精髭の・・・・一体?!
無意識のうちに手に持った鞄を構える
ーと広い背中が前に立った
ぶつかって来る人間をどうやったのか転がした
抜いた自分のネクタイで後ろに回した男の両手首を器用に縛っている
手際がいい
その頃には 病院の警備員が走ってくる姿が見えた
駆けつけてきた警備員に連が説明する
「僕は新垣連 父の見舞いに来たところです この男は新垣忠明 恥ずかしいことに僕の叔父です
で何故か叔父が このお嬢さんへ そこに落ちているナイフで襲い掛かったんです」
今頃 落ちているナイフに気づいたあきひはゾッとした
ーあんなもので刺されていたらー
「有難うございます」あきひが礼を言うと 連はちょっと片頬に笑みを浮かべた
「こちらこそ申し訳ない いつも見舞いに来てくださって有難う その上 こんな怖い思いをさせました」
幾度か克雅は連の容姿も褒めていたがー
「うまく言えんが 美しい男だ かといって女性的なわけじゃないぞ」
こちらの心の奥底まで見透かすような深い瞳
優しい物腰
連が自分を見ている それだけのことだ それだけなのに
あきひは言葉を失っていた
すぐに言葉が出てこない 何か言わなければと焦るほどに言葉が出てこない
それは・・・・・あきひには初めてのことだった
がくがくと体が今になって震える
「この人もショックを受けていますし 父の病室に行っております -何かありましたらー」
そう警備員に頼むと 連は自分の上着を脱ぎ それであきひの体を包んだ
そっと背中に手を回す「あとで警官と話す必要があるかもしれません
それまで父の病室で休んでいて下さい」
守られている 何も考えなくていい
それがこれほど心地よいものなのだと あきひは知った
何かの会で発言している若い男の動画を見せられて
ー周囲の人々を見おろす長身 優し気な顔立ちなのに 毅然としており それによく通る響きの良い声
とても眩しく見えた
「どう?と言うのはー」あきひが問い返すと 克雅は笑った
「この男は新垣連(しんがき れん) 丁度お前と10歳ほど違う」
それから間もなくして あきひは克雅に連れられて 新垣連の父の豊造の見舞いに行った
敵に回せば随分と恐ろしい男になるのだと 道々克雅は言いもした
その豊造は しかし「これは まあ・・・・聞きしに勝る美しいお嬢さんだ」と笑顔で 病室にあきひを迎えたのだった
緑矢克雅は豊造に言った「この娘は あながち無縁ではありません 息子の雅弘は阿美津村に行ったことがあります
そこで滝見まりこさんと恋に落ちた」
「滝見の家の・・・!」豊造は頷いた
「運命を感じましたよ」ほろ苦く克雅は笑う
そのやりとりは あきひには分からないものだったが
時々あきひは豊造の見舞いに行くようになった
それを克雅も豊造も喜んでいるようであった
新垣豊造という人間は あきひにとっても興味深い人物だった
かつては村長をしていたから阿美津村には詳しく知る限りの村のこと 滝見の家に関することもあきひに教えた
その話が聞きたくて あきひは毎日のように豊造の病室へ通う
豊造の息子の連とは不思議なくらいのすれ違いで会えずにいたけれど
あきひのいない時に連は緑矢克雅とも豊造の病室で会って この二人からあきひの話も聞いていた
連の両親と同じく あきひの両親も阿美津村の例の医者に{注射}をされていた
縁談を受ける受けないを別として 連はあきひを守り将来を見届けるべき人間として思うようになる
姉の蓮や自分と同じく「変化する」可能性のある人間ゆえに
克雅も阿美津村の医者については調べていた
その情報を克雅は連に惜しみなく与えたし 孫娘のあきひの「これから」を それほどに憂えていた
ここで連とつながりを持てたことは僥倖に他ならない
例の医者の{注射}を受けた者の子供の中には行方不明となり死んだことにされている人間もいるという
ただあきひは自分が何を両親から受け継いだか知らなかった
克雅はあきひが受ける衝撃を思うと話せずにいたのだ
「僕は 自分がどうなるかわからない身です だから妻を持つということは考えられません
けれど この身に代えてあきひさんをお守りしましょう」
克雅はその言葉だけでも心強かった
自分に何があろうと この頼もしい若者がいる
あきひは独りぼっちにはならない
人一倍健康だった息子とその妻に急な体質変化があって 呆気なく死んでしまった時 克雅はその原因を探さずには調べずにはいられなかった
何が起きたのかとー
阿美津村 いまは存在しないかつては美しかった村
そうした事情が無くても孫娘を託すに 連は望ましい青年だった
そして連は会社の経営に関する知識を 豊造と克雅から吸収する
二人の話は連にとって楽しくもあった
二人は若くなく 自分たちに残された時間があまり長くはないことも気づいている
連は叔父の新垣忠明の「このままではすまさない」という言葉を忘れてはおらず 付き添いとして護衛を病室に置いている
そのうちに何かをしかけてくるかもしれないーと連は案じていた
それもあり少しでも時間があれば 豊造の病室へ通うようにしていた
病院の駐車場から中庭を突っ切り 渡り廊下から病棟へ入るのが 豊造の病室へ行く近道で その日も連は中庭から渡り廊下に向かって歩いていた
逆に病棟から渡り廊下へ出てきた人間がいる
額にかかる前髪 肩先より少し長い髪が歩くたびに揺れる
意志の強そうな光放つ瞳
美少女と美女のはざまにあるあやうい年頃の輝き
ーやっと会えたーと その時 連は思い その人ーあきひの姿を眺めていた
別な方向からは奇妙な雄たけびあげて 飛び出してきた影がある
あきひに向かって走っていた
新垣忠明ー手に何か持っている
あきひは呆然と自分に近づく男を見た
血走った目 無精髭の・・・・一体?!
無意識のうちに手に持った鞄を構える
ーと広い背中が前に立った
ぶつかって来る人間をどうやったのか転がした
抜いた自分のネクタイで後ろに回した男の両手首を器用に縛っている
手際がいい
その頃には 病院の警備員が走ってくる姿が見えた
駆けつけてきた警備員に連が説明する
「僕は新垣連 父の見舞いに来たところです この男は新垣忠明 恥ずかしいことに僕の叔父です
で何故か叔父が このお嬢さんへ そこに落ちているナイフで襲い掛かったんです」
今頃 落ちているナイフに気づいたあきひはゾッとした
ーあんなもので刺されていたらー
「有難うございます」あきひが礼を言うと 連はちょっと片頬に笑みを浮かべた
「こちらこそ申し訳ない いつも見舞いに来てくださって有難う その上 こんな怖い思いをさせました」
幾度か克雅は連の容姿も褒めていたがー
「うまく言えんが 美しい男だ かといって女性的なわけじゃないぞ」
こちらの心の奥底まで見透かすような深い瞳
優しい物腰
連が自分を見ている それだけのことだ それだけなのに
あきひは言葉を失っていた
すぐに言葉が出てこない 何か言わなければと焦るほどに言葉が出てこない
それは・・・・・あきひには初めてのことだった
がくがくと体が今になって震える
「この人もショックを受けていますし 父の病室に行っております -何かありましたらー」
そう警備員に頼むと 連は自分の上着を脱ぎ それであきひの体を包んだ
そっと背中に手を回す「あとで警官と話す必要があるかもしれません
それまで父の病室で休んでいて下さい」
守られている 何も考えなくていい
それがこれほど心地よいものなのだと あきひは知った
恐怖映画でもアクション映画でもやっぱり根底にドラマがないと感情移入できませんもん☆
自分で書いていながら「あきひ」という少女が掴めなくてー
どう書くかに時間がかかりました^^;
次は新垣忠明さんを書きます
ちょっとホットしながら読みました。
おじさんの忠明さん、今後どんな問題を起こすのかしら・・・?
↓、ご長男さん、「修士課程修了」おめでとうございます。
後3年ですか? すぐですよ~
親って、どんなに大変でもその時期はがんばれるんですよね~
で、今になってあ~あんなお金良く出せれたな~
どうせ2人きりになってしまうんだったら、取って置けばよかった?なんて
グチグチ言っているんです。
我が家も、長男も大学・大学院で10年(+1年浪人)
次男も大学だけで4年(+1年浪人)
共に、家から出ての1人暮らし・・・重なった年が4年間
長男は現役で私学3校受かってましたので、早大と慶大は入学金納めて辞退・・・
親は猫まんまたべても仕送りしてました・・
悠々自適に、老人ホームで暮らせるくらい掛けました。
今になってみると、息子2人なんて・・・・さみしいものですよ~~
理性が勝って恋に落ちたことにも気づけない少女と 自分を律して異性を好きにはならないようにしてきた青年
恋愛に進めるかどうかわかりませんがー
息子の死を知った忠明が自滅に至った成り行きを少し入れたいなと思っています
そちらを先に書くつもりでしたがーそうすると「あきひ」のことが唐突なものになりそうでしたので^^;
時間がかかってしまいました
ごめんなさい
書くのでも色恋は苦手なんです・笑
{我が家も、長男も大学・大学院で10年(+1年浪人)
次男も大学だけで4年(+1年浪人)}
それは!大変でしたでしょう ねこママ様
私は両親と同居で 母の仕事を手伝っておりましたので 経済的なことは両親のおかげです
子供さんを育てあげられて その子供さんたちがきちんと生活してられる
お嫁さんもらって子供さんもできてー
ねこママ様ご夫婦がやりとげたことはー誇りに思われる何よりの財産かと思います
じきに主人が定年ですし(まだまだ働いていただくつもりですが・笑)
自分たちの老後
か 考えないようにします・・;
ねこママ様のように賢く人生をゆとりをもってたのしむー
そういうふうに生きていけたらー
と憧れております