Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

親切なクムジャさん

2006-05-28 | 外国映画(さ行)
★★★★★ 2005年/韓国 監督/パク・チャヌク

「残酷で美しい絵画」


骨太だなー、パク・チャヌクって監督は。メイキング映像見る限り、テレビ局のすかしたプロデューサーみたいな風貌なんだけど、作品は全然違う。妙なギャップ感じるなあ。

前作オールド・ボーイで、主人公の復讐劇を執拗にを撮りつづけたのに対し、今作ではイ・ヨンエの復讐劇から後半、幼児殺害事件の被害家族を巻き込んでの展開。これには唸りました。そう来たか、と。何よりこの被害者家族が入ってから、俄然映像も物語も重厚になってくるのがすごい。古びた学校の教室で、クムジャが子供たちが殺される瞬間のビデオテープを回しながら被害者家族に淡々と犯人のことを告げるシーン。何ともおぞましいシーンなのに、静謐な雰囲気すら漂う。被害者家族が犯人処罰の返り血を受けるためレインコートを着て一列に廊下に座りうなだれるシーンも非常に印象的。罪や罰をテーマに描かれたヨーロッパの絵画を思い出させる。絵画的と言えば、クムジャの夢でペク先生を犬にしてソリで引く、というシーンがあるのだが、私個人としては、これは近年まれにみる印象深いシーンだった。ブニュエルとか思い出した、といったら言い過ぎ?何かのパクリかな、と勘ぐるほど出来過ぎている。

さて、どうしようもなく暗くて救いのないストーリー展開なのに、この映画は韓国で興行的に成功したと聞くが本当だろうか?だとしたら、韓国の人々の懐の深さは日本人のそれを遙かに越えていると感心せざるを得ない。

イ・ヨンエに関しては、私は例の大河ドラマは見ていないのだが、本当にいい女優だと思う。クムジャの底なしの暗さがすごく伝わってきた。確かにクムジャは被害者であり哀れな存在だが、それ以上に女の恐ろしさ、したたかさがイ・ヨンエからじわじわとしみ出していたもの。マスクをして連行されるシーンは、大韓航空機爆破事件の北朝鮮の女スパイを思い出したが、あれは意図的な演出だろうか?

刑務所内でのエピソードも、関西弁で言うと「えげつない」シーンの連続。でも、こうも真っ向から見せられると、もう白旗をあげるしかない。どうぞ、とことんやっておくれ!と叫びだしたいような気分だった。監督だけでなく、全ての出演者が骨太。ほんとに腹くくって演じてる。その壮絶さが最終的には清々しくさえ思えてくる。本当にパク・チャヌクという人は、次はどんな映画を撮るのだろう、と大きな期待を抱かせてくれる数少ない監督のひとりだ。