うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

技術資料・植物維持管理の方向と海辺周辺の自然環境--天王洲アイル⑨

2009年02月10日 05時44分05秒 | 天王州アイル Project

この天王洲アイルのシリーズは1月22日から始めて10回目になりましたが、今回でひとまず終了します。なお、ある方の要望もあり、不確定ながら現地での見学会を催す予定です。季節は、やはり、5月連休前後の青葉繁れる頃になるでしょうか。その時はここでは触れていなかった建物内部の紹介もおこないます。
 いずれ、このブログにてお知らせしますのでご参加ください。興味のある方々はご連絡をください。

この文章は過去10余年にわたって緑のメンテナンスを、造園業者任せにせず当時の社員である作業員を使い直接おこなってきたもののレポートである。それに、まわりの都市、水辺の自然景観、微環境の経年変化を言及した。オリジナルな発想のもとにおこなってきたが、関係する担当者各位にとって、植物の維持管理の業務の上で、なんらかのヒントが得られれば幸いである。

 --植物維持管理の方向について--

 わたし自身にとって植物の維持管理業務を本格的に担当したのは天王洲アイルが初めても同然であったが、それなりの努力をしてきた。しかし改めて今おもうに、植物に目の前でさわって扱えるというのもこの造園業界では意外にも稀有なことに属するとおもわれる。毎年、樹種ごとおよび単木ごとの成長量がまじかに目視で確認できる。こういうふうに自然を相手に日常的に植物管理ができるというのはそんなに多い仕事の機会とは言えないだろう。貴重な経験である。

 【維持管理業務の考え方と作業ローテーション】
 日本は一年を通じはっきり春夏秋冬の四季が明瞭であり、その季節の移ろいの中に人間のくらしがある。旧暦の太陰暦にもとづく作業設定の区分はそれと密接に結びついている。そしてこのことは植物にとり、栽培・ 育成上の目安として作業暦である農事暦がこのカレンダーを基本に作業計画が立てられていることによって証明される。これは昔からの周知の事実とされている。この着眼点は植物と自然現象と人文環境に原点を持っており見過ごせない。太陰暦は日本人独特の生活感情を自然のなかで表現しており、植物の管理・ 栽培のための作業時期、それに鑑賞時期もあらわしている。
 維持管理計画の作業時期、作業ローテーションの設定は旧暦の太陰暦にもとづき農事暦を援用している。したがって作業時期は一年を通じて、季節変化による植物の成長に準じ 第一期・ 第二期・ 第三期・ 第四期と設定される。維持管理作業の日常業務は除草・散水・緑地内清掃があり、定期的な業務は管理範囲にもとづき作業頻度・作業量の多寡に対応した剪定/ 刈込み・芝刈り・目土かけ・施肥・薬剤散布がある。
 この場合わたしたちにとって、植栽時の適地適期の可否、施工技術は問えないが、一般的に言って都市の緑地管理には植栽工事に比し竣工後の無管理が多く、しかも実施された場合維持管理作業のなかでウェイトを占める剪定内容に無雑作、無頓着なケースが少なからず見受けられる。樹種ごとに異なる剪定技術と植栽地ごとにふさわしい剪定樹形といろいろな剪定方法がある。公共工事の植栽樹木はおもに自然樹形のものが多用される。その場合、生長を止めることと、邪魔になる樹幹・枝葉の切除と、罹災した樹木のケアを剪定作業の第一目的にしている傾向がある。道路工事である街路樹の場合は交通災害を避けるため、また公園の場合はヤブ化をを防ぎ住民の快適な利用を保持するためである。言うならば、それは物理的に彼我それぞれの損傷を予防的におこなっているに過ぎない。都市の生活空間である街路と広場において、人々の交わり合う場所のなかで良好な植物景観を保っているのはほんのわずかである。植物の経年的な自然の遷移をサポートし、その都市の快適なオープンスペースを実現するとしたら、管理上の課題として以下の点が重要であるとおもわれる。
 ①植物の生きた知識による管理上の技術・管理作業頻度の適正・コスト。
 ②気象災害による被害樹木の復旧・軽減等の緊急作業。
  ③植物景観的にセンスのある維持管理作業を心掛ける。
 ④緑地の生物・小動物の棲み家としての生態系の環境保全を考慮に入れる。

 【発生材のリサイクル・補修と運営体制】
 以上のように、これからはいかに緑の特性を生かしたメンテナンスプランを取り込むか、試行錯誤をくりかえしながらも、新しい視点から緑の都市空間における景観の再生と成熟を目指していく必要がある。
 天王洲アイルでは処分費用の低減と発生材のリサイクルを重視した。緑地内を清掃するという従来の考えをやめて、むしろ落ち葉, 剪定枝葉を敷きつめている。それは、マルチングにより緑地土壌の乾燥防止と腐殖分の供給のためである。
 ほかに自家製の堆肥の製造をおこなった。地中にボックス状に穴を堀り剪定枝葉を積みかさね, その間に米ぬかを混ぜ散水しブルーシートで密封する。完熟するまで切り返し作業をおこない完成する。この肥料は有機性堆肥となり冬期の元肥となる。
 また、予想していなかった新たな作業としては根元部分の締結箇所である地中支柱バンド(商品名: ㈱東邦レオ‘グランドサポート') の切断をした。モリシマアカシアの株元・根鉢が締めつけによる伸根不良が原因で枯れが確認され、あわてて天王洲アイル全域をチェックしその処置をおこなうことになったものである。
 その後、天王洲アイルは当初の計画時にビル風の影響を見込みながら、その年ごとの通年の気象の変化とともに管理業務のなかで生育状況を見続けて来た訳だが、シーフォートスクエアの京浜運河に面した東北端部とJALビルディングの京浜運河と天王洲運河の合流点にある南東部の緑地は、天王洲アイルの全体のなかで最も風が強い区域であり、したがって樹木の支柱は半永久的にはずせない。ここは風の集中発生時は来訪者にとっては勿論、植物にとっても厳しい植栽地である。
会社としてここの維持管理の開始直後は各作業ごとに業者に発注していたが、施主の要請もあり、平成 5年 6月15日付けで作業形態を当社の作業員を使っての直営方法に切り替えた。施主の意向をダイレクトに伺いながら、効率の良い作業運営が可能になり結果的に好判断であった。常駐作業となり緊急時にも即応できる。作業員に対する技術教育とともにその運営体制づくりをおこなったものである。

 【都市空間における新たな緑地景観の再生と海辺周辺の自然環境】
 こういう植物を10年という長い期間にわたり、生物学的関心で樹木の移り変わりを追跡しているが、そういう経年変化の視点から色々な面白い知見が得られたとおもう。例えば、造園樹木にリストアップされている中でも植生的に雑木類に区分されるものがある。いわゆる雑木林という野性の樹木が潮風に弱く、経年的に樹勢が徐々に衰弱する現象が見受けられる。そのなかで、特に難しい樹木の病気として、やまもものこぶ(癌腫)病・さくらの根頭癌腫病があり、また新病害として学会から発表されたほるとのきの萎黄病は伝染性のファイトプラズマ(細菌の一種) によるものとされが、いずれも完全な治癒に至っていない。
 現況の植生を調査するとおびただしい草本植物の帰化した雑草の侵入がみられる。実生樹木については、風散布種として あきにれ.  いろはもみじを別にしたら、その内訳は種子の落下による重力散布種に該当するのは、ほるとのき.  つばき.  なんきんはぜなど区域内に見られる植栽樹木がほとんどである。鳥散布種の場合は、区域外の例えば かくれみの.  くすのき.  くろがねもち.  とうねずみもち. やつで.  あかめがしわ. あおぎり.  えのき.  えんじゅ.  やまぐわ他が出現している。天王洲アイルに飛来する鳥類の場合,おおむね運河対岸の東京水産大学他の樹林が小さなコロニー(集団営巣地) になっており、野鳥に対する種子供給源となり当エリアに侵入し発芽したものとおもわれる。食餌木と鳥種の相関関係については、留鳥である すずめ. ひよどりの採食行動が採餌量の豊富な状態で適しており最も個体数が多いものとおもわれる。
 一般的に言って、花粉による交配作用を含め、そういう生態系の一面である、植生的に繁殖して形成された都市の各樹林の実態を見るとは小規模で連続しておらず、街路樹や個人住宅の庭木の植栽樹木が多用されている現状ゆえに、本来の関東の雑木林を植生的に構成する種組成が見られないことになるとおもわれる。
 この高浜運河には目黒川が注ぎ込んでいるが、周辺の運河一帯は塩水と淡水が混じり合う汽水域を形成し種々の魚類が生息している。たとえば、 すずき. ぼらなどが集団で回遊しているのを見ることができる。運河内の水面は海につながる潮の干満作用に流され, 梅雨もあけるとクラゲが浮かんでくる。雨が降らない日々が続くと、魚が水上でジャンプ(ライズ) する姿が見られる。留鳥のかもがブループで棲みつき泳いだり潜水してえさを取っているのを見かける。秋の長雨が終わると、渡り鳥の ゆりかもめ. 海鳥の うみねこが群れをなし飛来する。翼を広げて飛びホバリング(停空飛翔)をくりかえすすがたが見られる。天王洲アイルで一年を通じ, よく観察される場所は京浜運河と天王洲運河の合流地点であり、潮の満ち干によってあらわれる干潟には水棲のえさが見つけやすいことによる。
まわりの運河と緑地が相関して、ここには様々な鳥類の生息がみられる。多く見かける鳥類の個体数は、すずめ. ひよどり. どばとの順である。水鳥は、ほしばじろ. かるがもが多い。営巣行為をする鳥は現在のところ、 はしぶとからすのみ確認されている。

 【天王洲アイルの街と集客効果の状況】
 この天王洲アイルの上空は、羽田空港への進入、着陸コースにあたり晴天時には飛行機の飛ぶのが望見される。また運河は、見物客で人出が増える花火大会、夕闇に運河を行き交う納涼船、と解放感溢れる臨海の都市の空間になっており、夏場の風物詩となりつつある。一方、商業施設での代表的な夏祭りをはじめとする各イベント・セールのスケジュール、芸能・芸術鑑賞の場としての劇場・アートスフィア(新・天王洲劇場)の催し物がある。
計画段階では、ここの外部空間は公開空地として不特定多数の来訪者が見込まれており、その利用者にとって導線としての園路、休憩・散策のための機能をもった空間が期待されている。現在、テレビドラマ・CMの商業写真等のマスメディアの撮影のロケ、または愛好グループの写生会の場面を提供したり、水辺の景観・植物の開花を撮影目的としたカメラ持参の植物愛好家が見受けられる。
 天王洲アイルのアクセスは近年便利さを増し、平日は近所の幼稚園児、精薄者の野外学習に手頃なロケーションとして利用する目的を持った人達で占められており、週末、休日は若いカップル, モノレール沿線に住む家族連れなどがリピーターとして利用している。                  以上
    〈天王洲アイル・メモランダム--植物維持管理p21-p24所収 H14/3/28〉
 
 現在の状況はどうなっているか、下のサイトをクリックしてみてください。
     天王洲アイル

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【手元の参考資料】
 ・「天王洲アイル・メモランダム 平成14年 3月28日発行 事業主へ提供」
 ・「天王洲アイル・品種名調査報告書(サクラ・ツバキ・オリーブ)平成13年 9月発行 事業主へ提供」
【出版書籍】
 ・「東京人- 東京湾ウォーターフロント特集号 緊急増刊 昭和62年10月1日発行 (財)東京都文化振興会」
 ・「新建築- 都市空間へ-RIAの計画と技法 臨時増刊 平成 8年11月発行 ㈱建報社」
 ・「都市再開発- 建築計画・設計シリーズ32 平成 8年11月10日発行 ㈱市ヶ谷出版社」

 ほかに、天王洲アイル開発計画に関する建築設計図書・その後の経過等の資料など、お問い合わせ、ご質問に際して、連絡方法は下段のコメント(0)をクリックするか、少々面倒ですがこちらのH・P 有限会社グリーンワークスから入り、お問い合わせフォーム、メール等でお願いいたします。
        
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