ふくい、Tokyo、ヒロシマ、百島物語

100% pure モノクロの故郷に、百彩の花が咲いて、朝に夕に、日に月に、涼やかな雨風が吹いて、彩り豊かな光景が甦る。

ベニスに死す

2008年03月12日 | 千伝。
ドイツの大作家トーマス・マンが、ベニスに滞在した時の自伝を基にデフォルメした作品である。

展開は、老作家が、ベニスに滞在中に10代初めの美少年に魅せられて、ストーカー行為を行う物語である。

最近、埼玉の高校校長が、教え子の20代の女性に脅迫メールを送りつけたりする世相である。

ただ、老いらくの恋にしろ、色恋に狂う欲望の顛末は、相手を苦しめ、周囲を泣かせ、悲哀がつきまとう。

他人事だと冷静に観察できるが、自分事になると、色恋というもの・・誰もが自分自身を見失うようである。(笑)



さて・・水の都「べネティア」もしくは「ベニス」には、妙な思い出がある。

宣伝をしなくても世界中から観光客が、訪れる「水の都」ベニスである。
だが、ベニスは、写真で見た方が、何倍も美しい。(笑)

迷路のような路地と入り組んだ橋が運河の上を結んでいる。

ちょっと傾いたピサの斜塔を思わせる小さな教会が、ベニスにある。

その教会の裏手から路地に入ると、漁港のような一角に入る。

その辺りは、殆ど観光客が足を運ばない、とても静かな入り江のような浦がある。

そんな場所で、ボケ―と座って時間を過ごしていたら、東洋人の女性二人が歩いてきた。

まさか、こんな場所でと・・・向こうも同じように考えていたかもしれない。
日本人かなぁ、と思いながら、お互いに「コンニチワ」というと、日本人だった。

姉妹で、妹さんの方が、地元のベニス人と結婚して、ベニスで暮しているとのことだった。
お姉さんは、たまたま東京から妹さんに会うために旅行で来たとか・・・

ベニスに憧れて、ベニスに来て、伴侶を見つけて、ベニスで暮しているとか・・。

人生目標の達成度を心得た達人の部類に入る。(笑)

その場で、30分から1時間ぐらい、そんなお話をしたのかと思う。


「ベニスは、楽しいですか?」と、ぼくが尋ねる。

逆に、「ベニスは、楽しいですか?」と聞かれた。(笑)

正直、楽しい街「水の都」とは思えなかったが、ベニスに暮す相手に対して、そんな事は言えない。

「不思議な街ですね」と答えた。

「暮してみたいですか?」と聞かれた。

「・・・」と、ぼくは、沈思思考。


彼女のお姉さんが、間を取り繕うように笑った。

妹さん想いのお姉さんである。

その場を去ったあと・・夕方、偶然、観光客でゴッタがえす大きな橋の近くで、バッタリ出会った。

イタリア人の御主人共々、三人で、これから観劇に行くと言う。

冗談めかしで誘われたが・・楽しそうな雰囲気をみるだけで嬉しくなった。


「ベニスに死す」という小説、映画がある。

人生という旅の終りの場所は、「死」である。

手の届かない若さ、妄想、甘美の世界・・。

ベニスは、ある意味で彼岸の場所のような佇まいがある。

今でも、あの人生の達人は、ベニスに暮しているのだろうか・・ 。