ジャズで和みたい! そう思ったら、木管楽器が最適です。そしてそれは、クラリネットでしょう。
そこで本日は――
■Cooking The Blues / Buddy DeFranco (Verve)
クラリネットというと、ベニー・グッドマンに代表されるスイング時代の花形というイメージがありますし、実際、オクターブ・キーの扱いが難しいことからモダンジャズでは敬遠されたのでしょうか、とにかくクラリネットの演奏は古臭いと思われがちです。
ところがバディ・デフランコという人は、クラリネットでチャーリー・パーカー(as) のフレーズを吹いてしまう、バリバリにビバップなプレイヤーです。しかも歌心も満点なんですから、アドリブ名人と言って良いでしょう。
ただし、モダンジャズ特有のビートから、時にはヒステリックな音色のフレーズを出してしまうので、そこが好きになれないという人も、確かにいるのです。
しかしこのアルバムは、和み優先とでも申しましょうか、温か味とグルーヴィな演奏の両面が見事に入った傑作盤だと思います。
録音は1955年8月26日、メンバーはバディ・デフランコ(cl)、ソニー・クラーク(p,org)、ジーン・ライト(b)、ボビー・ホワイト(ds) という当時のレギュラーバンドに、タル・ファーロウ(g) をゲスト扱いとした布陣になっています――
A-1 I Can't Get Started
いきなり、優しくテーマを吹き綴るバディ・デフランコのクラリネットの響きは、どこまでも和みます。そして背後にはソニー・クラークのオルガンがっ!
このアルバムのウリのひとつが、それなんですねぇ~♪ 木管の響きと薄めのオルガンの音色がベストマッチです。
アドリブパートでも、幾分ヒステリックに行きそうになるバディ・デフランコを和みの世界に繫ぎ止める役割を果たしていますし、もうひとり、特別参加のタル・ファーローのギターが、最高の歌心を発揮しつつ、神業の早弾きを披露しています。
ただし残念ながら、ソニー・クラークのオルガンソロはありません。でも、この伴奏だけで満足されるはずです。
A-2 Cooking The Blues
クールで熱いブルースです。そして最初っからソニー・クラークがピアノでファンキー節を奏でます。おぉ、最高だっ!
リズム隊もミディアムテンポで快適なクッションを送り出し、タル・ファーローは太い響きでバリバリ弾きまくりですから、バディ・デフランコもビバップ丸出しのフレーズで対抗せざるをえません。するとソニー・クラークが、ここはオルガンで伴奏するのですよっ♪ あぁ、なんという……。
背後で蠢くタル・ファーローのギターも聞き逃せません。
A-3 Stardust
お馴染みのスタンダード曲を、またまた優しく吹奏してくれるバディ・デフランコです。もちろん伴奏のソニー・クラークはオルガンです。しかもスローテンポながら、ダレがありません。
う~ん、それにしてもバディ・デフランコの歌心、変奏の上手さは抜群ですねっ♪ 何気に聴いていて、つい惹き込まれてしまう名演だと思います。
それと、やっぱりタル・ファーロー! やや荒っぽさはありますが、美味しい部分だけを聴かせようとする姿勢は流石です。
ラストテーマの変奏も聴き物だと思います。
B-1 How About You
イントロからソニー・クラークが快調なイントロを付け、軽快な演奏となります。
アドリブ先発はソニー・クラークのピアノで、もちろんクラーク節が全開の素晴らしさ♪ ファンキーで泣きを含んだフレーズが尽きること無く放出されています。
そして続くタル・ファーローが、これまた素晴らしく、低域から高音域まで、満遍なく音を選び、烈しい上下振幅のフレーズは余人の真似出来る奏法ではありません。これはタル・ファーローの手の大きさだから可能な技だと思います。
肝心のバディ・デフランコは、強烈なノリとモダンなフレーズの大洪水で、もう誰にも止めることの出来ないアドリブ天国を現出させています。正直、唸るしか無い演奏です。しかも、何事も無かったかのようにラストテーマに入るんですからっ♪
B-2 Little Girl Blue
仄かな哀しみを秘めたスタンダードの名曲を、バディ・デフランコは最高の解釈で聴かせてくれます。
まずテーマはソニー・クラークのピアノとのデュオになっていて、ドラムスとベースが滑り込んできた次の瞬間、ソニー・クラークはオルガンにチェンジして、抜群の伴奏を聴かせてくれます。
もちろんタル・ファーローの控えめなソロやジーン・ライトの野太いベースワークも素晴らしく、バディ・デフランコも心置きなくアドリブに専念しているようです。
あぁ、オルガンとクラリネットが、こんなにも相性が良いなんてっ!
そして短いながら、ソニー・クラークのオルガンソロも楽しめるのでした。
B-3 Indian Summer
最後を飾るのは和みのメロディが魅力のスタンダード曲です。快適なテンポを支えるリズム隊も素晴らしく、バディ・デフランコの気持ち良いアドリブが何処までも快感です。
そしてソニー・クラークは、もちろん素晴らしく、後年のような真っ黒なファンキー節では無いのですが、歌心優先のスイング感は魅力たっぷり♪
またタル・ファーローは言わずもがなの神業を連発していますが、それがちっとも難しく聴こえないという恐ろしさです。つまり全部が歌になっているフレーズばかりなんですねぇ♪
ということで、これはハードな日常でホッと一息、仕事を終えての、ささやかな一時にはピッタリのアルバムです。とにかくリラックスして、ひとりホノボノとしたいとき、私は愛聴しているのでした。