今日は残暑を通り越して、熱帯のような暑さでした。しかも世間は休日というのに、私は仕事……。
楽しみにしていた「日本以外全部沈没」も観られないような……。
あ~ぁ、という雰囲気で聴くのは、和みのハードバップしかありません。
■Winton Kelly Live At The Left Bank 1967 (Fresh Sound)
ウィントン・ケリーが自己のトリオにゲストスタアとしてハンク・モブレーを入れたライブの発掘音源で、1970年代から再発が繰り返されてきたものです。
録音は1967年11月12日、場所はボルチモアのクラプ「レフトバンク」で、ここのステージからは様々な音源が流出していますので、恐らくは店側が記録用にテープを残していたものと思われます。
メンバーはウィントン・ケリー(p)、セシル・マクビー(b)、ジミー・コブ(ds) のレギュラートリオに加えてハンク・モブレー(ts) という豪華版♪ 惜しむらくはポール・チェンバース(b) がリタイアしていますが、つまり皆様ご存知のとおり、マイルス・デイビス(tp) のレギュラー同窓会の趣があります。
しかも演目が最高ですから、ズバリ、ジャズ者の琴線に触れる1枚です――
☆CD-1
01 On A Clear Day
初っ端から快調なテンポでウィントン・ケリーがスイングしまくりです。しかもドラムスがジミー・コブですから、マイルス・デイビス(tp) の「ブラックホーク」やウェス・モンゴメリー(g) と共演した「ハーフノート」のライブ盤同様の、ドライなグルーヴが満喫出来ます。
そして7分46秒目あたりから、ついにハンク・モブレーが登場し、モブレー節を積み重ねながら和みのアドリブを聴かせてくれますが、やや緊張感に足りない雰囲気です。しかし何のギミックも無く、思いのままに吹き綴るハンク・モブレーは、それはそれで魅力的だと思います。
そこで見かねたジミー・コブが、途中からテンションの高い仕掛けでハンク・モブレーを鼓舞する、おやじギャグのような場面が何度からあって、苦笑してしまいます。
また当時は駆け出しだったベースのセシル・マクビーが、堅実な伴奏とブッ飛んだアドリブソロでキラリと輝いています。さらにラストテーマに入っていくあたりのウィントン・ケリーの上手さも、素敵ですね~♪ オマケというか最後にはバンドテーマまで演奏されるのでした。
02 Hackensack
セロニアス・モンクが書いた過激な名曲が、この和みのバンドでどう料理されていくかが、聴きどころでしょうか。
しかしウィントン・ケリーは、あくまでもマイペースで、ハンク・モブレーも最初は入っていけない場面もありますが、アドリブパートでは快調です。
またジミー・コブのドラムスが凄まじく、ビシバシと攻め込んでいますから、ハンク・モブレーもかなり必死のようです。途中で誰かの唸り声も出たりしますし、これだけアップテンポで激烈なノリになっているのに、ハンク・モブレーはジョン・コルトレーン風のスケールフレーズを出さないのは、流石ですねっ!
そしてウィントン・ケリーは言わずもがなの飛跳ねグルーヴ♪ お馴染みのケリー節がガンガン出て、止まらない雰囲気が最高です♪
そんな熱気の中でアドリブを受け渡されるセシル・マクビーも難儀と思いきや、全く方針転換の新感覚早弾きベースソロが強烈! 最後にはジミー・コブのドラムソロまでが爆裂するのでした。
03 On Green Dolphin Street
マイルス・デイビスのバンドでは定番演目でしたから、ここでのメンツにとっては手馴れたものでしょう、最初からウィントン・ケリーが余裕のピアノソロでテーマを変奏し、インテンポしてからは早くもこのバンドならではという、独自のグルーヴを生み出しています。
それはジミー・コブのブラシによる粘っこいドラムスが源でしょう。セシル・マクビーも暴走せず、基本に忠実なビートを送り出していますから、否が応でもハードバップの楽しさが横溢しています。
もちろんウィントン・ケリーは楽しい歌心が全開♪ ハンク・モブレーはモタレにモタレて最後にキメるという得意技を披露していますから、ジミー・コブのステックも容赦せず、ついにはハンク・モブレーもキレたような前衛フレーズまで出してしまうのは、ご愛嬌でしょう。
う~ん、何かマイルス・デイビスが出てきそうですねぇ~。
等と夢想していると、セシル・マクビーが怒りの最先端ベースソロで現場を締めるのですが、観客からは呆れとも驚きともつかない、茶化しの掛声がっ!
☆CD-2
01 Milestones
そのマイルス・デイビスの代表的モード曲を、このバンドが、どう、演奏するかが興味深い演目です。多分のリアルタイムでは、それほど演奏していなかったと思われるのですが、ここではウィントン・ケリーがテーマをリードし、アドリブ先発がハンク・モブレーという展開です。
そのハンク・モブレーですが、もちろんモードを使った中にも、ついつい十八番のモブレー節を出してしまうので、所謂新主流派のようなゴリゴリなソロにならないところが、確かに物足りません。途中からは本人もどうして良いのか迷い道で、ヤケクソで投げやりなフレーズ、無理した前衛トーンまで繰り出して、このあたりは時代遅れと散々揶揄された見本のような演奏になっています。
しかしそういう必死さがモブレーマニアには、逆に魅力と書けば、贔屓の引き倒しでしょうか……。
一方、ウィントン・ケリーは快調そのもので、単にハードバップに止まらない過激なフレーズも弾きながら、実は心底ファンキージャズという、思わずニヤリという美味しいフレーズを連発しています。
またここでもジミー・コブは絶好調で、クライマックスのドラムソロも飽きさせない熱演になっています。
02 If You Could See Me Now
ウェス・モンゴメリー(g) との共演でもお馴染みという、このトリオの十八番演目で、スローな展開の中に優しい歌心を追求した演奏が、流石です。
ウィントン・ケリーは素敵なテーマメロディを分かり易く変奏し、ハンク・モブレーは前の演奏でミソをつけた汚名挽回に努力しています。しかしイマイチ、冴えが感じられません……。
03 Speak Low
オーラスはハンク・モブレーにとっても十八番のスタンダード曲ですから、まずはトリオの快適なグルーヴに身をまかせて安心の演奏です。なにしろウィントン・ケリーがリードするテーマに絡むハンク・モブレーが、もう待っていられない雰囲気なんです♪
しかしウィントン・ケリーは、まずは俺にっ! という雰囲気で快適なアドリブを披露していきます。もちろんファンキー&グルーヴィン♪ 歌心に満ちたフレーズの連発ですし、背後から強烈なビートを送り出しているジミー・コブ&セシル・マクビーも最高です。
ところがハンク・モブレーが入れ込み過ぎというか、最初っからバランスを失って妙なフレーズばっかり吹くのですから??? これにはジミー・コブも怒りの一撃を連発して煽るのですが、こちらが期待するモブレー節が出ないという迷い道です。
う~ん、こんなハンク・モブレーがあるでしょうか? 目隠しテストでハンク・モブレーと当てる人が何人位いるか、興味が湧くほどです。実際、ギスギスしてハズしてばかりいるんですよぉ……。最後にはジョン・コルトレーンの出来損ないに……。
あくまでも推測ですが、この後半3曲のモブレーの不可解な出来は、悪いクスリによるものか……? なんて事まで思ってしまいますねぇ。
ということで、前半は最高♪ 後半は??? という音源集ですが、終始、絶好調のジミー・コブゆえに最後まで聴いてしまいます。
現実にはウィントン・ケリーもハンク・モブレーも落目になりかかっていた時期ですから、こういう日常のライブでは緊張感が維持出来ず、時にはクスリの功罪で演奏の良し悪しが決まっていたのかもしれません。
その意味では貴重なライブ盤ですが、これだけリラックスして熱くなれる演奏が現在のジャズ界にあるでしょうか? ハードバップここにありっ! です♪