またまた台風で大被害が出てしまいました。
被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。
さてその影響下、実家から赴任地に戻ってみたら、フェーン現象で真夏の出来事でした。やれやれ……。
ということで、本日はやや、暑苦しいハードバップ盤です――
■The Curtis Fuller Jazztet (Savoy)
何ともキッチュなジャケットですが、中身はバリバリのハードバップ!
タイトルに「ジャズテット」とありますが、これは後にアート・ファーマー(tp) &ベニー・ゴルソン(ts) が中心となって運営された有名バンドで、そこには当初、この盤のリーダーであるカーティス・フラーも参加していたことから、おそらくこのセッション時には主要なアイディアが固まっていたものと思われます。
もちろんその主幹はベニー・ゴルソンでしょう。その特徴である、ふくよかなハーモニーを駆使したアレンジはゴルソン・ハーモニーと称された癒し系でした。それがここでも楽しめるのは、言わずもがなです。
録音は1959年8月25日、メンバーはリー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)、ベニー・ゴルソン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、チャーリー・パーシップ(ds) という、一時のディジー・ガレスピー楽団の同僚が集合しています。
また、リー・モーガンの傑作盤「Vol.3 (Blue Note)」と重なるメンツでもありますが、どちらもカーティス・フラーは蚊帳の外というのがミソで、それゆえに新鮮な気持ちで聴けるのです――
A-1 It's Alright With Me
コール・ポーター作曲によるお馴染みのスタンダードが、軽快に演奏されています。
テーマメロディはカーティス・フラーとベニー・ゴルソンの2管のユニゾンで演奏され、中音域を活かした温か味が最高♪ しかもそれがステレオ盤だと左にトロンボーン、右にテナーサックス、そして真ん中には、弾みまくりのウィントン・ケリーのピアノという配置ですから、たまりません。
そしてアドリブパートに雪崩込むところには、ちょっとした仕掛けが施され、カーティス・フラーがキメのフレーズからハードバップ真っ只中に炸裂します。
続くベニー・ゴルソンも、幾分暑苦しい音色でモリモリと吹きまくり! そして、お待たせしました! いよいよリー・モーガンがファンキーな突進力でバランスを失ったアドリブを展開しますが、それは若気の至りで憎めません。
それよりもリズム隊の充実度は驚異的で、颯爽としたウィントン・ケリー、手堅いチャーリー・パーシップ、アグレッシブなボール・チェンバースと、底力を発揮しています。
ちなみにこの曲は後年、前述した「ジャズテット」の旗揚げアルバムで再演されますので、聞き比べも楽しいかと思いますが、そちらはカーティス・フラー中心なので、物足りないかもしれません。
A-2 Arabia
これも後年、カーティス・フラーが参加したジャズメッセンジャーズで再演される、永遠のジャズスタンダードです。もちろんタイトルどおりに中近東モードが使われているのがミソです。しかし決して難しいものではなく、不思議な哀愁があるので人気曲になっているわけです。
ここでの演奏はリー・モーガンがミュートでテーマをリードし、ベニー・ゴルソンとカーティス・フラーがハーモニーをつける王道の展開が心地良く、アドリブパートでも快適なリズム隊のグルーヴで、それが持続していきます。
中でもリー・モーガンのミュートによるアドリブは出色で、その横溢するファンキー・ムードには完全脱帽です。カーティス・フラーとベニー・ゴルソンも健闘していますが、ややマンネリです。
しかしウィントン・ケリーは流石ですねっ♪ まさに全盛期の輝きで珠玉のフレーズとノリを存分に聴かせてくれますし、またリズム隊全体が素晴らし過ぎです!
A-3 I'll Walk Alone
スタンダート曲のスローな解釈で、ベニー・ゴルソンがサブトーンを駆使したムードテナーでメロディをリードし、カーティス・フラーがそれを変奏しつつ絡んでいくという名人芸が、たまりません。
ベニー・ゴルソンは作編曲家としての評価ばかりが優先していますが、テナーサックス奏者としては、こういうムード系が和みますねぇ。もう少し刺激があれば、バラード集もOK、かもしれません。
また、ここでもリー・モーガンが最高で、独特のタメとリズムに対するノリが、こういうスローな展開では、ますます冴えています。もちろんウィントン・ケリーはイントロの作り方から伴奏、アドリブソロに至るまで、ケチのつけようがありません♪
B-1 Judy's Dilemma
イントロはハードバッブの定番という蠢き系のベースから、ファンキーなテーマが始まれば、気分はすっかりゴキゲンです。ラテンビートを入れたリズム隊が躍動的ですし、アドリブ先発のカーティス・フラーはツボを外していません。
また要所に仕掛けられた刺激的なリフは、我国の作編曲家である菊池俊輔がパクッて、いろいろな映画やテレビドラマのサントラに使っています。おぉ、キイ・ハンター♪
という余談はさておき、リー・モーガンは少しばかり暴走しつつも、卓越したリズム隊の好演に助けられています。
B-2 Weatleith Hall
オーラスは弾けるウィントン・ケリーのピアノに導かれたハードバップのブルース大会で、ジャズではお約束のリフを使ったジャムセッションのスタイルですが、これも要所にキメが仕込まれていますので、纏まりがあります。
アドリブ先発はミュートで迫るリー・モーガンが、もう最高! 思いっきり溜め込んで、一気に吐露するダークでファンキーな心意気には、心底グッときます。
続くベニー・ゴルソンは柔軟な音色でモリモリと吹きまくりですが、やや精彩がなく、あぁ、これがハンク・モブレー(ts) かジョニー・グリフィン(ts) だったらなぁ……、等と不遜なことが心を過ぎるあたりに、この人の限界があるようです。
しかしカーティス・フラーは絶好調で、十八番のフレーズ、お約束のキメを連発して場を盛り上げていきます。しかもリズム隊が絶妙で、ここではウィントン・ケリーが様子を覗うように休止する部分があったりして、緊張感漂うジャズの醍醐味を満喫させてくれるのでした。
ということで、これは典型的なハードバッブが満載されたアルバムですが、同時にマンネリもたっぷりです。それは安心感と言い換えても良いのですが、このあたりを突き破らんとして、ベニー・ゴルソンやカーティス・フラーは、所謂3管編成のバンドを結成したのでしょう。前述の「ジャズテット」が正式発足しての初レコーディングは1960年の2月となっています。
そしてそれは忽ち流行となり、名門ジャズ・メッセンジャーズでさえ、先駆のジャズテットからカーティス・フラーを引き抜いて、その編成による演奏を行うのですから!
その意味で、このアルバムは雛形の1枚として、機会があれば聴いてみて下さいませ。