ようやく涼しくなってきましたが、仕事は地獄です。
でも、こういう時に強引に時間を作って更新作業をするのは、案外楽しかったりします♪ 時間を無題にしない緊張感が良かったりして!
ということで、本日は――
■Art Farmer Ouintet Featuring Gigi Gryce (Prestige)
ハードバップ期から活躍した黒人トランペッターのアート・ファーマーは、その実力の証明として吹き込んだ作品も数多いのですが、何故か知られているのは、極一部、しかも名盤と認定されたブツだけというのが、現実ではないでしょうか?
例えばベニー・ゴルソン(ts) と組んだ「ジャズテット(Argo)」やワンホーンの秀作「アート(Argo)」、あるいはビル・エバンス(p) の参加が嬉しい「モダンアート(U.A.)」、さらにハードバップの基本形を作った「ファーマー・メット・グイラス(Prestige)」、そしてジム・ホール(g) との双頭バンドでは「スウェーデンに愛をこめて」あたりが、それです。
しかし今では忘れられた作品の中に隠れ名盤が多いというのも、この人ならではの個性というか、あまりにも平均点が高すぎて逆に損をしてしまった感があります。
このアルバムは当にそうした1枚で、録音は1955年10月21日、メンバーはアート・ファーマー(tp)、ジジ・グライス(as,arr)、デューク・ジョーダン(p)、アディソン・ファーマー(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、非常に興味をそそるクインテットです。
ちなみにアート・ファーマーとジジ・グライスは盟友として、当時、実際にバンドを組んでいたと言われており、その最良の成果が現在では、前述した「ファーマー・メット・グイラス(Prestige)」という、2枚の10吋盤をカップリングしたアルバムに纏められていますが、この作品はそれに続くセッションとなっており、一段と進化した新しいハードバップを模索した内容です――
A-1 Forecast
ここに参加したピアニストのデューク・ジョーダンが書いた素敵なテーマメロディが、まず最高です。もちろん作者本人が、すでにピアノトリオで吹き込んだ愛らしいバージョンも存在していますが、ここでの溌剌したイントロを使ったハードバップ・バージョンにも別な魅力があります。
なにしろアート・ファーマーのアドリブには、原曲に秘められた哀愁を増幅再生しているような響きがありますし、ジジ・グライスも黒人らしからぬ灰色の音色で、滑らかなソロを聴かせてくれます。
そしてやっぱりデューク・ジョーダン! 作者ならではのツボを押さえた「泣き」のフレーズの連発には、グッときます。
それとフィリー・ジョー! ステックで奔放にビートを叩き出し、ブラシでスマートにサポートするという、ノリにノッたドラミングは本当に良いですねっ♪
A-2 Evening In Casablanca
ここからの5曲は全てジジ・グライスの作編曲によるもので、まずこれは哀愁の名曲として永遠のジャズオリジナルになっている名演です。
テーマをリードするアート・ファーマーは、その幾分ハスキーな音色で歌心を滲ませ、アレンジされた部分ではジジ・グライスが全体をリードするという役割分担も、素晴らしいバランスです。
実際、スローな展開の中に力強い部分を入れ込んだアレンジは本当に素晴らしく、デューク・ジョーダンもその意図を充分に汲み取って、哀愁のアドリブで魅力を全開させるのでした。
全体にハードバップらしくない、アレンジ偏重の演奏にも聞こえますが、その凝り方は半端ではないのです。
A-3 Nica's Tempo
如何にもハードバップらしいテーマメロディですが、どことなく爽やかな風が吹いてくるフィーリングが絶妙です。
そしてジジ・グライスのアルトサックスがクールな音色なのも特徴的で、アドリブソロのメロディにも余計な熱気が無いという、不思議な展開となります。
う~ん、これではデューク・ジョーダンも持ち味のウェットな情感を表出させることが出来ずに苦戦気味……。アート・ファーマーも煮えきりません。
これがジジ・グライスの狙った新しい感覚なんでしょうか? 良く聴くと、後年のブッカー・リトル(tp) あたりがやりそうな曲調でもありますが……。
B-1 Satellite
穏やかな印象のテーマメロディが、アドリブパートでは立派なハードバップに変換されるという、捻った印象です。
アート・ファーマーは穏健な吹奏に終始し、ジジ・グライスは珍しくも鋭角的な音色を使ってコントラストを付けますが、デューク・ジョーンダンは何時ものマイナーモードに入れずに苦しみます。
いったい、これは、何だろう???
B-2 Sans Sousi
ラテンビートを入れた楽しくもホロ苦いテーマが魅力的です。
アドリブパートでも各々が哀愁を潜ませたソロを聴かせてくれますが、特に先発のジジ・グライスが不思議な存在感を示しています。
なにしろアート・ファーマーはミュートで勝負、デューク・ジョーダンも持ち前の繊細な歌心を存分に発揮しているだけに、それが一層、際立っているのですが……。
B-3 Shabozz
これもアフロのリズムを取り入れたハードバップで、フィリー・ジョーの頑張りが最初から目立ちます。
しかしテーマ・メロディはマイナー調なので、アドリブパートでは一転して哀愁モード大会♪ 特にアート・ファーマーは、自己の資質を存分に発揮した素晴らしいアドリブを聴かせてくれます。こういう穏やかな歌心こそが、この人の魅力だと、つくづく思いますねぇ。
またデューク・ジョーダンも、そういう点においては全く遜色無い出来栄えです。
ということで、やはり地味な演奏が多いのですが、それはジジ・グライスの作風が勝ちすぎた所為かもしれません。なにしろ皮肉なことに、ここで一番良い演奏なのが、デューク・ジョーダンが書いた「Forecast」なんですからっ! その溌剌したアレンジと演奏は、間違いなくハードバップの名演になっていて、流石、アルバムのトップに納められたのも納得です♪
その所為か、否か、このバンドはアート・ファーマーがホレス・シルバーの新グループに引き抜かれる形で終焉を迎えます。そして残されたジジ・グライスは、ドナルド・バードと組み直して、新たな展開を模索するのですが、良く考えみると、ホレス・シルバーのバンドとトランペッターの引き抜き合戦をしただけという……。
う~ん、やっぱり忘れられるだけのアルバムには、それなりの意味が潜んでいるのでしょうかねぇ……。
とは言え、A面ド頭の「Forecast」だけは、ぜひとも聴いて下さいませ。ジャケットも素敵だと思いませんか?