OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ボロボロの佇まい

2006-09-10 17:57:59 | Weblog

実は最近、ストーンズのブートを聴きまくっていますが、1970年代の全盛期でも、そのライブはボロボロ、ヨタヨタの部分があって、楽しい限りです。

本来、そんな部分は公式の録音には残せないので、そこがブートの存在価値♪ そしてボロボロでもそれが「味」や「風格」に転化してしまうのが、天才とか大物の凄みのひとつでしょう。

例えばジャズの世界では、この人が――

Bud Powell's Moods (Norgran / Verve)

1950年代中頃のバド・パウエルの評価は低く、それは残された録音で判断されたものだと思われますが、しかしその前後が凄過ぎたという一面もあるんじゃないでしょうか?

このアルバムは1954年6月と翌年1月のセッションを収めていますが、確かに1950年前後の神がかりも無く、また後年の不思議な和みもありません。ただし腐っても鯛とは言わないものの、凡百のピアニストとは明らかに違う「味」が滲み出ていると思います。

このあたりを文章にする虚しさは、聴いてもらうのが一番なんですが、とにかくバド・パウエルという天才の光と影がソラリゼーションしたような、ある意味では激烈な演奏ばかりです。

メンバーはバド・パウエル(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、パーシー・ヒース(b)、ロイド・トロットマン(b)、アート・テイラー(ds)、アート・ブレイキー(ds) と粒が揃ったトリオです――

A-1 Moonlight In Vermont (1954年6月2日録音)
 原曲は夢見心の美形スタンダードなので、バド・パウエルも、ひたすらに幻想的な解釈に務めています。というか、あえて「務め」なくとも、自然体でそういう演奏が出来てしまうという雰囲気なんです。
 それは両手をフルに使った強靭なテクニックで醸し出される唯一無二の世界で、この時期のバド・パウエルはボロボロという先入観念が、霧散してしまいます。

A-2 Spring Is Here (1954年6月2日録音)
 これもスローな演奏で、有名なスタンダード曲が優雅に変奏されていきます。そこには微妙な「泣き」の味付けがあり、カクテルラウンジのムードピアノと紙一重の厳しいものが感じられるのです。
 う~ん、不思議です。

A-3 Buttercup (1954年6月2日録音)
 バド・パウエル夫人の名前をとった曲で、ラテンリズムで陽気な曲調がウキウキするテーマは、もちろんバド・パウエルが書いたものです。
 アドリブパートでも一抹の哀愁を漂わせながら快調にスイングするバド・パウエルは、所々にミスタッチが散見されますが、それすらも音楽の一部にしてしまう懐の深さを聴かせてくれるのでした。アート・テイラーのシンバルも最高の響きです。

A-4 Fantasy In Blue (1954年6月2日録音)
 アップテンポで不協和音が鳴り響く、バド・パウエルのオリジナル曲です。もちろんビバップ丸出しなので、全盛期には及ばないものの、バリバリのビアノが聴かれます。
 ジョージ・デュヴィヴィエとアート・テイラーのソロ&サポートも素晴らしく、当にモダンジャズ・ピアノのお手本のような演奏だと思います。つまり妥協が無いんですねぇ~♪

A-5 It Never Entered My Mind (1954年6月8日録音)
 マイルス・デイビスの演奏でもお馴染みの静謐な美メロのスタンダード曲を、バド・パウエルは超スローテンポで聴かせてくれます。
 あぁ、この間合いの美学♪ これにはドラムスのアート・テイラーも緊張感が強く、ここから交代しているベースのパーシー・ヒースも必死だったと思います。なにしろバド・パウエルは素直にテーマメロディを弾いているだけなんですからっ! それで素晴らしいジャズにしてしまうという、これも神業だと思います。

A-6 A Foggy Day (1954年6月8日録音)
 快適なテンポでスタンダード曲を演じていますが、ミスタッチが出そうで、リスナーはハラハラさせられるでしょう。
 しかし、そこを寸前で踏み止まってアドリブを続けるバド・パウエルは、良く言えばセロニアス・モンクの影響云々で片付けられるのですが……。意想外に纏まった演奏だと思います。

B-1 Time Was (1954年6月8日録音)
 これもスローな演奏で、なかなかの落ち着きと風格が漂う仕上がりです。原曲はあまり知られていないスタンダートのようですが、完全にバド・パウエルの幻想世界が完成されている名演だと思います。
 もちろん全盛期の神業テクニックとかインスピレーションは出ていませんが、そこはかとない風情が、不思議に良いんですねぇ~♪ 全く不思議です。

B-2 My Funny Valentine (1954年6月8日録音)
 これはお馴染みのスタンダード曲ですから、バド・パウエルがどんな解釈を聴かせてくれるかに、興味深々です。
 おぉ、すると最初からソロピアノの世界♪ そして途中からベースが入ってきますが、最後には再び孤高の世界に突入してのクライマックスが!

B-3 I Get A Kick Out Of You (1955年1月12日録音)
 アート・ブレイキーの叩き出すラテンリズムに煽られて、バド・パウエルが力強くテーマを演奏しています。そしてそれが破壊的なものに繋がっていくあたりが、刺激です。
 しかしアドリブパートではフレーズかブチキレ、唸り声も苦しく、自己の感性に指がついていかない……。もどかしさに必死の思いが、スピーカーから伝わってくるのでした……。あぁ……。

B-4 You Go To My Head (1955年1月12日録音)
 これも初っ端からミスタッチの連続です。本当に絶不調で、こんな状態でレコーディングに臨んだバド・パウエルの気持ちは如何ばかりか……。
 等と不遜なことまで思ってしまうボロボロさが聴かれます。2分6秒目あたりの絶望の呻き声が、本当に悲痛で、直後にはモールス信号のようなSOSがっ!
 これではロイド・トロットマンのベースもツッコミをいれらず、ただ、そこに居るだけの伴奏になっているのでした。最後の雑音は何だっ!

B-5 The Best (1955年1月12日録音)
 アップテンポの楽しい曲になるはずが、バド・パウエルの外れたノリで台無しです……。こんな演奏を聴くと、前半の1954年のセッションが、実は好調だったことが分かります。
 ちなみにこのアルバムは、元々は前半の8曲を入れた10吋盤を12吋盤にするために、最後の3曲を付け加えた経緯がありますので、さもありなんですが……。

ということで、バド・パウエルの幻想的な演奏を楽しむのなら、最初の8曲、つまり1954年の録音を聴くに限ります。本当にタイトルに偽りなし!

厳しい事も書いてしまいましたが、A面は個人的に大好きなアルバムです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする