ついに雪が……!
まあ、雪国なんで、不思議では無いんですが、やはり、ねぇ……。
早いもので、雪国の冬も4回目かぁ……。
ということで、本日は――
■Watkins At Large / Doug Watkins (Transition)
ベーシストには、例えばスコット・ラファロやレイ・ブラウン、ポール・チェンバースのように、積極的に花形になった人もいれば、がっしりと土台を支えていくタイプの人がいて、本日の主役であるダグ・ワトキンスは、どちらかと言えば後者でしょう。
しかし立派な家を見ると土台が気になるように、ダグ・ワトキンスのベースは、常に大黒柱的な存在感で、演奏をブリブリとドライヴさせて行くという、それはハードバップの根幹を成すものでした。
その録音上のキャリアは、いきなりホレス・シルバー(p) やハンク・モブレー(ts)、そしてアート・ブレイキー(ds) といった、ジャズメッセンジャーズ人脈のセッションからスタートしており、もちろんジャズメッセンジャーズの栄光ある初代ベーシストも、この人でした。
そしてハードバップの中心人物としてポール・チェンバースと双璧の存在となりますが、交通事故で1962年に早世しています。享年27歳でした。ちなみに、この2人は従兄であり、ともに若死にしているという因縁もありますが……。
で、このアルバムは数少ないリーダー盤のひとつであり、ハードバップの名作として歴史に屹立する1枚です。
録音は1956年12月8日、メンバーとドナルド・バード(tp)、ハンク・モブレー(ts)、ケニー・バレル(g)、デューク・ジョーダン(p)、ダグ・ワトキンス(b)、アート・テイラー(ds) という、言う事なしの凄腕が揃い踏み――
A-1 Return To Paradise
ケニー・バレルのコード弾きのイントロが雰囲気を設定し、ドナルド・バードが優しくテーマを吹奏しただけで、気分は完全にハードバップですが、それはもちろん、ダク・ワトキンスのベースが背後から図太いドライブ感を演出しているからでしょう。
そんなムードの中でスラスラ~っとアドリブに入っていくハンク・モブレーも素晴らしく、途中の独り倍テンポ吹きから、全く唯我独尊のモタレまで、モブレー節が全開です。
そして続くドナルド・バードが、また素晴らしく、柔らかな歌心が楽しめますし、ケニー・バレルも安定感があります。さらにデューク・ジョーダンのピアノが仄かなマイナー性で、本当に泣けてきますねぇ~♪
全体がミディアム・テンポで、ひとつ間違うとダレる危険性がある長尺演奏ながら、タイトなアート・テイラーのドラムスとダグ・ワトキンスのずっしりと思いベースによって、グルーヴィな雰囲気が横溢した名演だと思います。
何よりも自然体というか、気負いの無いところが、逆に凄みではないでしょうか?
A-2 Phinupi
一転してアップテンポの強烈なハードバップです。
テーマの中から強烈に絡み合うメンバーの存在感は、アドリブパートでも意地の張り合いというような雰囲気で、最高です。
中でもハンク・モブレーは何時よりはツッコミが鋭く、ドナルド・バードもハッスルし過ぎて加熱気味! ケニー・バレルもパキパキのピッキングで迫っています。
さらにデューク・ジョーダンのピアノソロのバックでは、ダグ・ワトキンスのウォーキングベースが強烈なウネリで目立ちまくり! そしてそのまんま、リズム隊だけのグルーヴを聴かせてくれるのですから、たまりません♪ ジャズの最もジャズらしいエッセンスが、ここだと思います。
あぁ、リズム的興奮! アート・テイラーも恐いほどです。
B-1 Phil T. McNsaty's Blues
このアルバムの目玉演奏という、スローなブルースです。
まず、イントロからデューク・ジョーダンとダグ・ワトキンスが絶妙の黒~い雰囲気を作り出し、ドナルド・バードがグサリっとキメのフレーズを入れてくるのですから、これこそモダンジャズ王道の響きです。
またケニー・バレルが雰囲気満点♪ 決して派手なフレーズは弾いていませんが、選び抜かれた単音弾きからダク・ワトキンスのベースソロに受け渡し、バックでコードを付けていくあたりは、最高です。
そしてハンク・モブレー! この人も独特のタメとモタレで演奏を締めてくれるのでした。何回聴いても、シビレます♪
B-2 More Of The Same
そして、続くこの曲の快適さがクセになります。
テーマに仕込まれたキメのリフが最高ですし、ドナルド・バードのトランペットとケニー・バレルのギターが交互に出るあたりは、歓喜悶絶です♪ とにかくカッコイイ! ケニー・バレルにしても畢生の名演でしょう。
またデューク・ジョーダンが、これまた最高なんですねぇ~♪ つい「第三の男」を弾いてしまうノリの良さから、十八番のフレーズを連発してくれます。もちろん背後ではダグ・ワトキンスがビシッとキメを入れ、アート・テイラーが応える呼吸もバッチリです。
さらにハンク・モブレーが、モタレまくりの快演! この味はモブレーマニアには快感以外の何物でもないでしょう♪ もちろんドナルド・バードも負けていません。なかなか丁寧にフレーズを綴りつつ、要所で弾ける若さが魅力です。
う~ん、これも名演中の名演でしょうねぇ♪ 個人的にはアドリブレーズを覚えているほどに、聴きまくったトラックです。
B-3 Panonica
オーラスはデューク・ジョーダン作曲の哀愁演奏♪
ドナルド・バードが魅惑のテーマを吹いてくれるだけで、シンミリしてまいります。短い演奏ですが、いつまでも心に残る名演だと思います。
ということで、実はこのアルバムはマイナーレーベル製作ゆえに、1970年代までは幻の名盤の筆頭格でした。もちろんジャズ喫茶の中には、このアルバムを看板にしていた店もあり、そして日本盤が出る時には、ちょっとした騒ぎにもなったほどです。
ちなみにオリジナル盤には、ここに掲載したのと逆の構成、つまりAB面が反対のブツもあると言われていますが、真相は定かではありません。
現在ではCD化もされており、それはリマスターも素晴らしく、ベースの軋み、シンバルの炸裂音が特にハードバッブ味満点になっています。