さて、本当に今年も終りに近づきましたが、雪国で生活していながら、今年は雪が無いので、年末という雰囲気がありません。
昨年の今頃は、家の2階まで雪に埋もれていましたからねぇ……。
ということで、今日も宴会がありますが、私のノリはイマイチです。そこで、これを聴いて馬力をつけましょう――
■Dark Magus / Miles Davis (Sony)
マイルス・デイビスが最も過激に突進していた時代のライブ盤です。
確か最初は日本だけで1977年頃に発売されていたブツでした。そしてブッ通しのライブ音源を2枚のアナログ盤LPに収めるために4パートに分断し、それぞれに勝手なタイトルが付けられていますが、CD時代になると、さらに細かく編集が入っているようです。
録音は1974年5月30日、カーネギーホールでの実況録音で、メンバーはマイルス・デイビス(tp,key)、デイブ・リープマン(ss,ts,fl)、レジー・ルーカス(g)、ピート・コージ(g)、マイケル・ヘンダーソン(el-b)、アル・フォスター(ds)、ムトゥーメ(per) という当時のレギュラーに加えて、この日はエイゾー・ローレンス(ts) とドミニク・ガーモント(g) がゲスト参加というのが、ウリになっています――
A-1 Dark Magus - MOJA
当時のマイルス・バンドではお約束の、ドカドカうるさいビートがたっぷり! いきなりビシバシと始まる爆裂演奏は、前年の日本公演から、さらにスピード感がアップしたノリが強烈です。
もちろんマイルス・デイビスのトランペットには電気のエフェクトがついていて、ワウワウとかリミッターの裏ワザが使われていますし、おそらく右チャンネルがレジー・ルーカス、左チャンネルがピート・コージという2本のギター、隙間を埋め尽くすムトゥーメのパーカッションが、混濁のジャズファンクを生み出していて、もう最高です♪
またマイルス・デイビスの背後で執拗に絡んでくるデイブ・リーブマンとエイゾー・ローレンスのサックス2人組も侮れません。
そして続くパートではピート・コージの宇宙空間を切り裂くようなサイケでファンクなギターソロが怖ろしい限りです。
リズムパターンが少し変化した後半では、マイルス・デイビスが保守的な一面を聴かせてくれますが、リズム隊の恐さに変わり無し! 車の中で流していると、異次元へ飛ばされそうになります。
B-1 Dark Magus - WILI
これも暗闇地獄というか、ヘヴィファンクの嵐に包まれるスタートから、マイルス・デイビスの過激なオルガンが印象的! 対峙するパーカッションも三途の川の響きです。
そして思わせぶりなラップ風のトランペットが鳴り出せば、あたりは刹那のファンクロックに満たされていくのですが、右チャンネルから聞こえるレジー・ルーカスのワウワウで蠢くリフがプログレしています。
さらに中盤からはピート・コージの激ヤバのギターが炸裂し、アル・フォスターも大暴れ! マイルス・デイビスのオルガンは宇宙からメッセージという、ほとんど有り得ない熾烈な演奏になっています。
またデイブ・リーブマンのモード全開サックスが、妙に安心感を引き立たせるあたりも、計算づくなんでしょうねぇ♪ 最高です!
で、後半は一転してムード歌謡の世界が出たり、ハードボイルドなファンクになったり、静寂と混濁が下世話な宇宙で煮詰められていく展開で、非常に疲れてしまうのですが、主役のテナーサックスは、おそらくエイゾー・ローレンスでしょう。
なんか松田優作の映画サントラみたいな雰囲気もありますねぇ~♪ 終盤で聴かれる2本のギターの絡みが、強烈至極ですよ♪ マイルス・デイビスも泣いています。
C-1 Dark Magus - TATU
ここからが、もうひとりのゲストであるドミニク・ガーモントが参加した演奏で、いきなり3人のギタリストが炎の共演です。
まずレジー・ルーカスが右チャンネルで変態リズムギターのようなソロを聴かせれば、背後ではマイケル・ヘンダーソンのベースが暗く蠢きます。
そして続くディストーションたっぷりのギターが、ドミニク・ガーモントでしょう。これがジミヘン敬愛丸出しで、憎めません。ちなみに、この人は黒人ですが、フランス在住の18歳! 当時のジャズ雑誌にもグラビアで紹介されていたんですが、すぐにフェードアウトしています。イジメでもあったんでしょうか……、非常に勿体無い人材だと思いますねぇ……。
で、このドミニク・ガーモントに絡みつくピート・コージのギターが、左チャンネルから聞こえるという全く怖ろしい空間が、たまらなくファンキーです。もちろんブレイクでもロックギターのリックを全開させる若造に対し、おやじ系のサックス2人組、さらにマイルス・デイビスまでもがジャズ本来のスジの通し方を教えつつ、演奏は果てしなく盛り上がっていくのでした。
車の中で流していると、事故りそうです……。危険ですよ。
D-1 Dark Magus - NNU
最後のパートは、いきなりピート・コージの変態エフェクトギターから、フリーな空間が広がり、各々のメンツが好き勝手をやりつつ、ひとつのベクトルを求めてさすらう、つまりジャズの基本が追求されていますが、はっきり言って楽しくありません。
それでもドミニク・ガーモントのロック丸出しのギターが出てくると、ウキウキしてくるんですから、どうしようもありませんねぇ、私は……♪ まあ、体調が良くないと聴けない演奏ではありますが……。
ということで、マイルス・デイビスが最後の絶頂期を究めていた時代の記録です。
これ以降の「アガルタ」とか「パンゲア」も、確かに素晴らしいですが、それは完成された様式美だと思います。逆に、ここで聴かれる混濁した爆発力、試行錯誤と迷走の入り混じったウルトラファンキーな演奏には、未完成ゆえのエネルギーの噴出が感じられ、凄いなぁ~! と天邪鬼な私も素直になってしまうのでした。
ちなみにこの音源には、もちろんプロデューサーのテオ・マセロが、いろいろとテープ編集やダビングを施しているはずなんですが、それが自然体に近いところも好感が持てます。