メリー・クリスマス♪
と今日は、言ってしまいます。
しかし12月が憂鬱になったのは、仕事も忙しいのですが、ジョン・レノンの殺害事件があってからですねぇ……。
ということで、本日は刹那の1枚です――
■Stan Meets Chet / Stan Getz & Chet Baker (Verve)
所謂、夢の対決盤です。
スタン・ゲッツもチェット・ベイカーも歌心の天才であり、しかも白人でありながらグルーヴィなノリも得意ですから、ミーハーな私は、このアルバムの存在を知った瞬間から、聴きたくて仕方が無いブツでした。
録音は1958年2月16日のシカゴ、メンバーはチェット・ベイカー(tp)、スタン・ゲッツ(ts)、ジョディ・クリスチャン(p)、ビクター・スプロールズ(b)、マーシャル・トンプソン(ds) となっていますが、あまり馴染みの無いリズム隊は、おそらく当時のシカゴで活動していたメンツではないでしょうか? ちなみにベースのビクター・スプロールズは、後にニューヨークでも活動しています――
A-1 I'll Remember April
モダンジャズでは定番スタンダード曲で、もちろん、ここでも最初はラテンビートで定石どおりのテーマ吹奏♪ もちろん4ビートも混在した楽しいノリです。
ところが、そのテーマ部分からして、チェット・ベイカーが遠くで何となく吹いている感じで、スタン・ゲッツの一人舞台……。
アドリブパートでも好調なのはスタン・ゲッツだけで、もうひとりの主役がパッとしませんから、聴いている私は完全に、なんじゃっ、これっ! という松田優作状態です。しかも途中で演奏メンバー全員が、明らかにチェット・ベイカーを気にかけている瞬間まで聞き取れます。
で、どうにかアドリブを始めるチェット・ベイカーは、やっぱり……。
う~ん、かなり良いメロディを吹いてくれるんですが、生気が無いというか、音色にハリが感じられません……。
ただしスタン・ゲッツが背後から助け舟を出しまくり、リズム隊も懸命の煽りですから、ジャズ的な面白さは充分なんです! 特にピアノのジョディ・クリスチャンが時折、刺激的なオカズを入れています。
そしてラストテーマへの最終章が、これまたダラダラと……。
このスタン・ゲッツは完全にヤル気を失っていると思うのですが……。おそらく、もうワンテイク録るつもりとしか思えないダラケぶりなんですが、それなりに聴かせてしまうところは、やはり天才ですねぇ……。妙に感心♪
A-2 Medley
さて、ヴァーヴ十八番のバーラドメドレーです。
まず「Autumn In New York」を演じるのはチェット・ベイカーなんですが、初っ端からトホホ味が強すぎます……。しかし、それがシミジミした情景に繋がってしまうのは許していいんですかねぇ……。
続く「Embarceable You」はジョディ・クリスチャンのピアノが、じっくりとテーマを膨らませていきます。この人は多分、女性でしょうか、如何にもの演奏がたまりません。本当に気分はロンリーですよ。
そして最後の「What's New」で、スタン・ゲッツが繊細な歌心を存分に発揮♪ 名人芸の極みつきです。ちょっとウェイン・ショーターしている雰囲気もありますが、もちろんそれは、スタン・ゲッツが本家本元という、静謐な魅力なのでした。
B-1 Jor-du
これが私的お目当ての曲で、もちろんデューク・ジョーダン(p) が書いたファンキー・ハードバッブの名曲なんですが……。
結論から言うと、力強く洒落た2管吹奏を期待していたのに、なんとチェット・ベイカーが不参加という背信行為! う~ん、こんなん、ありかっ!?
と初めて聴いた時の私は激怒したんですが、スタン・ゲッツの脱力した吹奏が、逆に妙な耽美的雰囲気を醸し出しています。それにしても、この気抜けした按配は……!
リズム隊にもイキの良さが感じられず、完全に???の肩透かしです。
B-2 Half-Breed Apache
そんなこんなのオーラスは、スタン・ゲッツのオリジナルワルツです。
そして気抜けのようなチェット・ベイカーが結果オーライの安寧吹奏! 適度に緩いビートとフワフワとしたテンポで演じられるテーマが、妙に心地良いんですねぇ。
しかしアドリブパートでは一転して激烈な4ビートになり、スタン・ゲッツが爆裂のアドリブ地獄を聴かせれば、リズム隊も必死の追走で、場を盛り上げていきます。
もちろんチェット・ベイカーも負けじと大ハッスル! モード時代のマイルス・。デイビスのような、一本調子のマシンガンフレーズまで繰り出していますが、やや苦しそうです。しかも途中でネタ切れのような刹那的なところも……。
またリズム隊が古臭いグルーヴに固執しているのも残念……。各々は過激なんですけどねぇ……。
ということで、けっして名盤ではありませんし、おそらくチェット・ベイカーが参加していなかったら、ほとんど価値が見出せないアルバムかもしれません。
そして、お目当てのトランペッターの不調は、おそらく悪いクスリの所為でしょう。決して絶好調とは言えないスタン・ゲッツも、同様です。なんでこんな時にレコーディングをやってしまったのか……? という疑問が消しきれませんが、そこがヴァーヴという、自然発生的グルーヴを大切にするレーベルの特性でしょうか? それもジャズの本質を突いているのかもしれません。
またリズム隊が無名に近いあたりが、マニア心を刺激してくれますし、実際、なかなかの奮闘ぶりには好感が持てるのでした。
如何にもローカルな録音も、逆に新鮮です♪