久々に実家に戻りました。
うむ、やっぱり新車のドライブは楽しいなっ♪
途中、雪がだいぶあったところもありましたが、全体的に昨年よりも暖冬ですね。まあ、今日はかなりの荒れ模様でしたが、冬らしくないと、正月気分もありません。
ということで、本日の1枚は――
■Sing Me Softly Of The Blues / Art Farmer (Atlantic)
アート・ファーマーは詩情溢れる演奏が十八番なので、穏健派と思われがちですが、実は第一線に登場して以来、ハードバップ~ファンキー~3管編成モード~ジャズロック~ボサノバ~擬似フリー、そしてフュージョン~ハードバップリバイバルまで、常に時代の先端で活動して、バリバリのトップでした。
このアルバムは、そんなアート・ファーマーが有能な若手リズム隊を得て、過激に、そして優雅に己のジャズ魂を吐露した名作だと思います。
録音は1965年3月という、ジャズが最も過激に燃え上がっていた時期のニューヨークで、メンバーはアート・ファーマー(flh)、ステイーブ・キューン(p)、スティーブ・スワロー(b)、ピート・ラロッカ(ds) という、今もって超えられない最高のワンホーン・セッションです――
A-1 Sing Me Softly Of The Blues / ブルースをそっと歌って (1965年3月16日録音)
ジャズ界の過激な美女=カーラ・ブレイが書いた名曲の中の大名曲で、タイトルどおり、不思議なブルース・フィーリングがたまりません。そして何よりも、誰がつけたか、そのものスバリの邦題が素敵ですねっ♪
肝心の演奏はスローで重たいビートの中を、アート・ファーマーがフリューゲルホーンで丁寧にテーマを提示し、新感覚のブルースを追求していきます。
バックのリズム隊も3者が各々、隙間を埋めていくような絡みが新鮮で緊張感に溢れ、徐々にビートを確立させていきつつ、アート・ファーマーのアドリブをリードしていくかのような素晴らしさです。
それはリズム隊だけのパートになって、一層鮮やかとなり、静謐な空間の中で展開されるインタープレイは、ビル・エバンス・トリオも顔色無しの緻密さで起承転結を作り出すという、当に新時代のジャズを聴かせてくれるのでした。
A-2 Ad Infinitum (1965年3月16日録音)
これもカーラ・ブレイが書いた激情の名曲ですから、ここでの演奏も過激なベクトルを持って、無手勝流に盛り上がっていきます。
その原動力は、ここでも凄いリズム隊の暴れで、もちろんアート・ファーマーも力演ですが、まずはブッ飛びのフリーなソロを展開するスティーブ・キューンのピアノが、物凄い炸裂ぶりです。
また背後ではピート・ラロッカがヤケクソ気味のブッ敲きで痛快ですし、スティーブ・スワローの達観した蠢きも迫力があります。
そしてアート・ファーマーの思慮深い吹奏が、これまた絶妙なコントラストで、流石だと思います。
A-3 Petite Belle (1965年3月30日録音)
一転して和みのボサノバで、アート・ファーマーの優しい泣きが、もう最高です♪
あぁ、この愁いに満ちたアドリブ・フレーズは、とても即興とは思えません♪ フリューゲルホーンのソフトな音色を活かしきった吹奏は名人芸です。
さらにスティーブ・キューンも、ここでは過激な姿勢を押さえて歌心優先の実力を存分に聴かせています。
B-1 Tears (1965年3月16日録音)
B面に入っては、またまた過激な姿勢で突進するバンドの勢いが、たっぷりと楽しめます。
曲はピート・ラロッカのオリジナルですが、アート・ファーマーはそのキモをしっかり掴んで猛進し、若手リズム隊の過激な煽りに負けていません。
するとスティーブ・キューンは、これならどうだっ! と大暴れし、特に3分目あたりからの暴発、続くピート・ラロッカの自爆的ドラムソロが強烈です。
ただし最後には、冷静にテーマメロディを吹奏するアート・ファーマーの貫禄に負けてしまうんですけど、そこがまた、憎めないところです♪
B-2 I Waited For You (1965年3月16日録音)
このアルバムでは唯一のスタンダード曲で、穏やかなテンポで始まりますが、徐々にビートを強めていくリズム隊の緻密な絡みと煽りには、完全降伏です。
実はこの3人は、翌年にスティーヴ・キューンをリーダーとして「スリー・ウェイブス(Contact)」という傑作アルバムを吹き込んでいますが、既にここでは、ビル・エバンス・トリオとは似て非なる、完成された新しいスタイルを聴かせています。
そしてアート・ファーマー♪ やっぱり凄いですねぇ~♪
過激なリズム隊を存分に遊ばせておいて後、完璧な歌心でアドリブを紡ぎだしています。
B-3 One For Majid (1965年3月30日録音)
オーラスはちょっと変則的なブルースで、クールな情感に溢れたハードバップになっています。そして初っ端から背後で正統派ウォーキングベースに専念するスティーヴ・スワローが、なかなか良いですねぇ♪ もちろんアドリブソロも流石です。
肝心のアート・ファーマーは手馴れたフレーズから新しい感覚まで、満遍なく吹きまくりながらも、ツボを外していませんから、和みます。
ということで、アナログ盤AB面の構成、曲の流れも素晴らしい名盤だと思います。雰囲気のあるジャケットデザインも、良いですねぇ~♪
しかもこれが、現在、我国だけの紙ジャケット仕様でCD復刻されており、リマスターも、かなり良好です。
思えばこれも、ジャズ喫茶の名盤です。なにせ内容が過激で、しかも和みもあるという充実度ですから♪ 文句無しにアート・ファーマーの代表作ですが、実は何よりもリズム隊を聴いているだけで満足というのが、私の本音です。しかしこの蜜月セッションは、これだけしかありません。それ故に、なおさら愛着の1枚なのでした。