クリスマスイブって、楽しいのは、ある時期だけでしょうか?
昔っから、懐疑的でした。
だって、キリスト教でもないのに、クリスマスに意味があるのか!?
まあ、そういう天邪鬼なことを言っているから、女の子にもソッポを向かれていましたし、今では若い者にも呆れられ……。
ということで、ロンリーなクリスマスイブには、これを――
■Bud Powell At The Golden Circle Vol.5 (Steeplechase)
1970年代末に突如発売され、ジャズ者を驚愕させたのが、ストックホルムの「ゴールデンサークル」という店で残されていたバド・パウエルのライブ音源でした。
それは当時、LP5枚に分散収録されていましたが、CD時代になって、また新たに未発表音源が追加収録され、編集しなおされて発売されるなど、何時までも興味深々の作品になっています。
本日の1枚は、もちろんその中のひとつですが、これがマニアックに侮れません。録音は1962年4月23日、メンバーはバド・パウエル(p) 以下、地元の俊英であるトルビョン・フルトクランツ(b) とスーネ・スポングベリィ(ds) のトリオ編成です。
01 Hot House
ビバップ時代にデューク・エリントンの影響をモロ出しにして活躍した作編曲家のタッド・ダメロンの代表曲です。
個人的には、どういう訳か、アドリブしやすいの? と思うほど、誰が演じても、この人が書いた曲は良い演奏ばかりになる気がしています。
でも、ほとんどが、スタンダード曲のコード進行を使った、替え歌メロディなんですよねぇ……。この曲だって、多分、元ネタは「What Is Thing Called Love」だと思われますが!
で、ここでのバド・パウエル・トリオはミディアムテンポで快調に飛ばしています。ドラムスとベースは、必ずしも一流ではありませんが、バド・パウエルにとっては、そんな事はお構いなしに自己のペースで弾きまくり♪ 例の唸り声も、芸の内にしている凄みがあります。
02 This Is No Laughin' Matter
このアルバムの目玉演奏が、これです。
それはバド・パウエルのボーカルが聴けますから!
曲はあまり有名でないスタンダード曲で、スローな展開から哀愁が滲み出る演奏になっており、お目当てのバド・パウエルの歌唱は、ほとんど鼻歌ではありますが、なんとも味があります。聴いていて、シミジミと人生を感じると言っては大袈裟かもしれませんが、最近の私には心に染み入るの一言です……。
またピアノ演奏の部分が、テーマを変奏しているだけにもかかわらず、その間合いの取り方やビートに対するディープなノリが、余人の真似出来る境地では無いと思います。
尤も、告白すれば、若い頃聴いた時には、トホホの演奏としか思えなかったのですから、時の流れは怖ろしくもあり、偉大でもあります。
03 52nd Street Theme
セロニアス・モンクが書いたビバップ曲の極みつきで、曲名の「52番街」とは当時、様々なクラブが密集していたニューヨークの歓楽街を指しているようです。
で、今日の歴史では、ビバップ=モダンジャズは、その一角から生まれたとされていますから、この曲のエキセントリックなメロディラインが、リアルタイムではアングラ音楽の真髄を表現していたのでしょう。現在でも過激だと思います。
バド・パウエルは、もちろん、その創成者のひとりとして、ここでの演奏でも貫禄を示しています。
04 Straight No Chaser
これもセロニアス・モンクが書いた、エキセントリックなブルースで、ヤクザな風情がモダンジャズそのものの魅力を体現している所為でしょうか、多くのジャズメンの名演が残されている定番曲です。
ここでのバド・パウエルは、何と20分に渡って自己のブルース魂を吐露! それはけっして黒人そのものの泥臭いものでは無く、完全に「パウエル節」になっているところが、凄いです! もちろん全盛期に比べれば指はもつれ、呻き声が大きくて、同じ様なフレーズが頻発されていますが、あぁ、この泣きと哀愁! これもまたブル~スですねぇ♪
終始、快適なビートを送り出しているドラムスとベースも、単調なところが逆に効果的です。
05 Thanks By Bud Powell
これは演奏ではなく、バド・パウエル自身により、短い最後の挨拶です。
ということで、決して名盤ではありません。珍しいバド・パウエルのボーカルが聴かれるところに価値があるのが、本当の所です。
しかし、全体に漂う諦観と安逸の空気が、妙に心地良い♪
今の私にとっては、それが何よりも貴重なのでした。