ヤフオクで、何気に安~い金額を入れていたら、昨夜、なんと落札してしまったです♪
こんな事もあるんだなぁ~、相場の1割にも満たないんですから、ルンルンです。
というか、吃驚仰天が本音、なんか出品者に悪いような……。
ということで、本日はこれです――
■Bud Powell Trio At The Golden Circle Vol.1 (Steeple Chase)
落目になったジャズメンほど、聴いていて悲しくなる存在はありません。
なにせジャズは瞬時の閃きが勝負の世界……、そこで体力的な衰えで楽器が自在に操れなくなったり、あるいは想像力や気力の衰えから、マンネリ以前に自己のデッドコピーに終始する姿は、悲痛です。
しかし稀に、そういう姿であっても真実のミュージシャン魂を表現してしまう天才が存在しています。
例えばバド・パウエルという黒人ピアニスト!
皆様ご存知のように、この天才はビバップの創成に深く関わり、その時には当に神がかりという演奏を残していますが、やはり天才と●●●●は紙一重……。精神状態が不安定だったり、悪いクスリに溺れて体調を崩したりの連続で、その絶頂期は短いものでした。
しかし、ここからがバド・パウエルの魅力というか、全盛期に比べると明らかに輝きが失せたインスピレーション、あるいは指の縺れ、ミスタッチと音の外し……等々が散見されるにも関わらず、それらの演奏からは間違いなく、ある種の風格に彩られたバド・パウエルだけの「節」が溢れ出しているのです。
それが何故なのか、説明不能というあたりが、また凄いところでしょう。まあ、これは感性の問題と言えば、それまでなんですが……。
で、このアルバムは、そんなバド・パウエルが本国アメリカから欧州に移り住み、地道に活動していた時期に、ファンがプライベートに残していた音源の発掘物で、公になったのは1970年代末頃、スティープルチェイス・レーベルから、LP5枚に分散されて発売されましたが、これはリアルタイムでは、ひとつの「事件」でした
もちろんCD時代になっても復刻され続け、しかもリマスターにボーナストラックまで追加してあるんですから、たまりません♪
録音は1962年4月19日、ストックホルムの有名なライブハウス「ゴールデン・サークル」でのセッションで、メンバーはバド・パウエル(p)、トーヴィヨン・フルトクランツ(b)、スーネ・スポングベリ(ds) のピアノトリオ♪ そしてここには次の曲が収められています――
01 Swedish Pastry
いきなり、これはCD化に伴う未発表のボーナストラックです。
曲はバーニー・ケッセルが書いたビバップのブルースで、快適なテンポの中、10分を超える長い演奏として、バド・パウエルはひたすらに自分だけの「節」を模索していきます。それはブルースというよりも、悲しい歌ような泣きを含んでいるんですねぇ~。もちろん全盛期の閃きは望むべくもありませんが、何度聴いても、普遍の良さが感じられます。
バックを務めるベースとドラムスは現地のミュージシャンで、失礼ながら、明らかに二流ではありますが、直向なジャズ魂は本物! 特にブラシで健闘するドラムスは気持ち良く、これだけ聴いていても楽しめます。
02 There'll Never Be Another You
これもCD化で追加された未発表トラックで、曲はバド・パウエルが十八番のスタンダード♪ これまでにも幾つかの録音が残っていますので、聴き比べも楽しいところですが、結論から言うと、テーマの変奏~アドリブの構成と展開が、ほとんど同じです。
特に山場のブロックコード弾きなんか、モロに同じなんですが、個人的には、そこが大好きなので嬉しくなります。
あぁ、ここでも「泣き」のフレーズが頻発され♪ もどかしいモタレも「味」として許せます。
しかしこれがお蔵入りしていたのは、演奏といっしょに食器のガチャガチャいう音が入っている所為かもしれません。
03 Move
これも代表的なビバップ曲で、アップテンポの迫力ある演奏になっています。
ドラムスはステックでビシバシやっていますし、時折、止まってしまうバド・パウエルのアドリブの隙間を上手く埋めていく手腕は、大したものだと思います。
またベースも、けっこうジコチュウというか、さり気無くツッコミを入れますので、バド・パウエルもコーラスを重ねる度に調子が上がっていくようで、緊張感があります。実際、その放出される「音」の裏側まで聴き入ってしまうような雰囲気なんです。
04 Just A Gigolo
バド・パウエルのソロピアノですが、全く短い演奏です。
この曲は皆様良くご存知のとおり、セロニアス・モンクの愛奏曲なので、ちょいと敬意を表した「いただき」なのかもしれません。かなり良く似た雰囲気になっていますよ♪
05 Relaxin' At The Camarill
バド・パウエルと共にビバップを作り上げた天才のチャーリー・パーカー(as) が書いたブルースを、ここではタイトルどおりにリラックスした雰囲気で演奏しています。というか、そうなってしまったという……。
終盤ではトーヴィヨン・フルトクランツのウォーキング・ベースも披露されますが、バド・パウエル本人は、やや不調ゆえに偶然のような気もします。
06 I Remember Clifford
説明不要の人気モダンジャズ曲を、バド・パウエルは異様な空間処理で聴かせてくれます。それは超スローテンポ!
原曲の味わいである哀切の鎮魂歌を、ここまでじっくりと感動的に、しかも、さり気無く盛り上げたバージョンは、珍しいと思います。
多くは書きません。畢生の名演です!
そして、もちろんこれは、落目になっても漂う「バド・パウエルだけの風格」という、不思議な現象の証という演奏なのです。
07 Reets And I
これもお馴染みビバップ曲で、もちろんバド・パウエルの十八番でもありますから、ここでも快調な演奏が聴かれます。
しかもオリジナルLPではフェードアウトされて2分程度の演奏だったものが、このCDでは完奏した9分近いバージョンになっているのですから、要注意です。
ということで、決してジャズ入門用のアルバムではありませんが、バド・パウエルのファンにとっては、なかなか魅力的な1枚ではないでしょうか? もちろんビアノトリオの愛好者とか、モダンジャズ中毒者にも喜んでいただける、不思議な魅力がある作品だと思います。
ちなみにこの音源は、CDもオリジナルアルバムと同じく5枚にして再発されていますが、欧州盤と日本盤では収録曲の構成が違っているようです。
で、ここに紹介したCDは、私が所有している日本盤(VACE-1121)ですので、入手の際にはご注意願います。