いろいろとあって、何度も無駄足を踏まされるってことは、ありがちとはいえ、やっぱり疲れが残ります。
ということで、本日は荒っぽい新感覚ハードバップを――
■Inta Somethin' / Kenny Dorham & Jackie McLean (Pacific Jazz)
ケニー・ドーハムとジャッキー・マクリーンはハードバップの人気者ですから、この2人がレギュラーバンドを組んでのライブとなれば、熱い演奏は“お約束”でしょう。
このアルバムはサンフランシスコでの旗揚げ公演と言われるもので、録音は1961年11月、ジャズワークショップというクラブでのセッションです。メンバーはケニー・ドーハム(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ウォルター・ビショップ(p)、ルロイ・ヴィネガー(b)、アート・テイラー(ds) という、非常に魅力的な面々――
A-1 Us
ケニー・ドーハムのオリジナルで、後にブルーノートへ吹き込んで大ヒットする「Una Mas」の原型演奏です。もちろん、あの魅惑のリズムパターンは出来上がっていますが、ここでのリズム隊が作り出すビートは、まだまだジャズにどっぷりという有様です。
しかしそれが非常にハードエッジな感覚で熱いグルーヴを発散させていますから、メロディのフェイクで山場を作るケニー・ドーハム、逆に攻撃的なジャッキー・マクリーンという可逆的なアドリブパートが冴えまくり♪ もちろんファンキーなウォルター・ビシップのピアノはリズム的な興奮も煽る名演ですし、アート・テイラーのヘヴィなドラミングも凄いと思います。
そして、冷静なバッキングに撤するルロイ・ヴィネガーの存在感が、バンドに確かな纏まりをもたらしているのでした。
A-2 It Could Happen To You
ケニー・ドーハムが主役となるスタンダード曲の味わい深い演奏ですが、ゴリゴリのリズム隊ゆえに甘さに流れていません。
もちろんケニー・ドーハムは歌心優先主義を崩していませんが、西海岸派の名手たるルロイ・ヴィネガーのベースワークが、一連の東海岸ハードバップとは似て非なるノリだからでしょうか、アート・テイラーもゴスペル風のドラミングになっていますし、ウォルター・ビシップもハードなタッチで実に素晴らしいと思います。
本当にリズム隊を中心に聴いてしまう演奏です。
A-3 Let's Face The Music
今度はジャッキー・マクリーンのワンホーン体制による熱血演奏です。しかも曲が人気盤「スイング・スワング・スインギン(Blue Note)」で、ウォルター・ビシップとアート・テイラーを伴って演じていた十八番ですからねぇ~♪ 情熱の“泣き節”が、魅惑のテーマメロディと合致した、心底グッとくるハードバップになっています。
あぁ、このスピード感があって野太いグルーヴの凄さ! 荒っぽくて、なおかつ的確なサポートを聞かせるリズム隊があってこそ、ジャッキー・マクリーンも大暴れできるというもんです♪
もちろんウォルター・ビシップも快演ですし、アート・テイラーはビシバシにギンギンですから、これぞライブの迫力でしょうねぇ。
B-1 No Two People
あまり有名でないスタンダード曲ですが、ケニー・ドーハムがミュートで演じるテーマメロディは、なかなか愛らしいです。
そしてここでもリズム隊が一筋縄ではいきませんから、アドリブの主役となるジャッキー・マクリーンが緊張した雰囲気……。しかし演奏が進むうちに、それが良い方向に作用していくんですねぇ。非常に斬新な感覚が楽しめると思います。
またウォルター・ビシップが如何にも「らしい」名演を聞かせてくれるでした。
B-2 Lover Man
チャーリー・パーカー(as) の歴史的問題録音で有名になっている歌物曲ですから、ジャッキー・マクリーンも気合が入っているのでしょうか、ちょいと力んだ雰囲気が感じられます。
テンションの高いリズムアレンジも面白く、“情緒”よりは“新感覚”が表出した演奏かもしれません。ただしジャッキー・マクリーンが特有の熱いアドリブ、青春の情熱にような“泣き節”は健在ですし、新生ハードバップのような、元祖・新主流派という趣が最高だと思います。
B-3 San Francisco Beat
オーラスは再びケニー・ドーハムのオリジナル曲で、明るく楽しいモダンジャズの典型が楽しめます。
まずテーマからアドリブに入っていくケニー・ドーハムとリズム隊のやりとりが痛快ですし、快調なアート・テイラーがゴキゲンですねぇ♪ ウォルター・ビシップの合の手伴奏も冴えています。
そしてジャッキー・マクリーンがC調寸前のオトボケから、グングンと熱くなっていくアドリブパートは、まさにジャズを聴く喜びそのものでしょう。バックから襲い掛かっていく強烈なリズム隊も最高ですし、絡みながらカウンターのメロディをぶっつけていくケニー・ドーハム!
ということで、ジャケットはケニー・ドーハムなんですが、中身はジャッキー・マクリーンが大活躍! それとリズム隊の物凄いノリが徹底的に楽しめます。なにしろアート・テイラーのビシバシ感が強烈ですし、野太いルロイ・ヴィネガーと力強いタッチのウォルター・ビシップの相性もバッチリでしょう。全体的な荒っぽさが逆に魅力でもあります。
大音量で聴けば聞くほど、ブッ飛びますよ。