OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

モブレー大好き宣言!

2006-02-18 18:17:12 | Weblog

伯父の見舞いに行った病院に、偶然にも中学時代の同級生が入院していることを知りました。もちろん、ついでながらお見舞いしてきましたが、どうやら不治の病らしいので……。

全く、この歳になると、そういう場面に曹禺する機会が増えますね、避けて通れない道ではありますが、ますます一期一会を大切になんて、そんな気持ちになりました。

で、気分転換にジャズ喫茶に入り、リクエストしたのが――

Workout / Hank Mobley (Blue Note)

私が一番好きな黒人テナーサック奏者はハンク・モブレーですが、コルトレーンが神様だった1970年代前半までのジャズマスコミでは、そのアンチテーゼとして、なんとなくバカにされた存在でした。

それはR&Bをルーツとするそのスタイルが、バリバリのハードバップでありながら、如何にも古く、また音色がソフトで滑らかなくせに、時としてコルトレーン流の音符過多なフレーズを入れたモード曲をやったりするモブレー自身のわからなさ、というあたりから来たものかもしれません。

しかし、そういう部分は、逆に言えばモブレーだけの魅力で、そのタメのあるフレーズの妙、ふくよかなのにパワフルなドライブ感満点のアドリブは、虜になると抜け出せません。当にジャズらしいジャズを演じては最右翼の存在だと思います。

そのモブレーの人気盤のひとつがこれです。メンバーはハンク・モブレー(ts)、グラント・グリーン(g) というブルーノートの2大看板スターをメインに、ウイントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) という、極上のリズム隊がついています。

録音は1961年3月26日で、実はこの直前の3月7日にマイルス・デイビスの録音に参加したハンク・モブレーは、コルトレーンと共演となった「いつか王子様が」で、コルトレーンに差をつけられたという、今日まで有名な伝説が残されています。実際、そのトラックを聴いてみると、確かにコルトレーンの爆発的な情念が噴出したアドリブ・ソロには圧倒されますが、モブレー中毒者にとっては、その歌心を秘めた温か味のあるモブレー節にも心が和むのです。それは、まあ、負け惜しみと受け取られても仕方が無い面もあるのですが……。

で、このセッションは、そういう世間の冷たい見方をぶっ飛ばす快演の連続です。しかもモブレー自身は、前述したマイルス・デイビスとの録音と、基本的には同じ姿勢で臨んでいるのです。その内容は――

A-1 Workout
 歯切れの良いフィリー・ジョーのドラムスと掛け合いのようなテーマの提示から、いかにもハンク・モブレーらしいファンキーな雰囲気を漂わせ、アドリブソロでは何時ものモブレー節が全開するアップテンポの痛快な曲です。滑らかなフレーズと単音強調のブロー、さらにリズム隊にコール&レスポンスを求めるノリの良さが聞き物です。
 もうひとりのスタア、グラント・グリーンも切れの良い単音弾きで奮闘、またウイントン・ケリーも猛烈なドライブ感で楽しませてくれるのでした。

A-2 Uh Huh
 このアルバムで私が一番好きな演奏です。そしてこれを聴くと、ついテーマのところで「ラ~、ラブミ~、ドゥ~」と歌ってしまうとおり、ビートルズの「Love Me Do」そっくりの素敵な曲なんですよ、これは♪ もっとも、発表はこちらの方が早いんですが、このあたりにもモブレーの魅力のひとつである、作曲の上手さが表れています。否、もしかしたら、なにか元ネタがあるのかもしれませんが……。
 で、モブレーの演奏はもちろん最高の楽しさで、ゴスペル調のリズム隊に煽られて、最初から最後まで歌心とファンキーな雰囲気に満ち溢れた快演を聞かせてくれます。こういう楽しさは、コルトレーンには絶対無理な世界で、これは資質の違いではありますが、モブレーだって偉大なのだっ! と声を大にしてしまう私です。
 もちろん、こういう曲想はグラント・グリーンも望むところだったのでしょう、これまた快調♪ とにかく素晴らしい演奏です。リズム隊の快適さは言わずもがな!

B-1 Smokin'
 モブレー自身がリードする素晴らしいブレイクのイントロからスタートする、アップテンポで物凄くカッコ良いハードバップ曲です。煽りまくるリズム隊を逆に引張るモブレーのノリは強烈です。よくもまあ、これだけ素晴らしいフレーズが出るもんだっ! としか言えません。そのフレーズのひとつひとつが、確実にモブレー節になっているのですから♪
 と、思わず力が入ってしまいましたが、続くグラント・グリーンも淀みなくパキパキいう、例の針飛びフレーズを聞かせてくれます。もちろんこれは、ピッキングのシャープさが極限状態の証なのです。そしてウイントン・ケリーの弾けっぷりも最高です。おまけに終盤でのモブレー対フィリー・ジョーの対決も興奮度が大!

B-2 The Best Things In Life Are Free
 このアルバムで唯一取上げられたスタンダード曲は、まさにモブレー節がたっぷり聞かれる名演になっています。テーマの展開のさせかたやタメのあるアドリブフレーズの上手さ、この和み感覚が一度虜になると、もう、たまらん状態なんですよ♪ 
 グラント・グリーンも相変わらず好調ですし、ウイントン・ケリーも楽しいフレーズばかり弾いておりますが、フィリー・ジョーのクッションの効いたブラシ中心のドラムスも素晴らしいと思います。

B-3 Greasin' Easy
 妙な明るさが魅力なファンキーなブルースで、作曲はもちろんハンク・モブレーです。ちなにこのセッションでは「B-2」を除いて全てがモブレーのオリジナルになっていますが、この人は本当に作曲が上手くて、モダンジャズ的な名曲を沢山書いています。
 肝心の演奏は粘っこいモブレーに対して、倍テンポで挑みかかるグラント・グリーンが面白く、リズム隊の機転の効いたノリも最高です。しかも山場を作った後に、ブルース魂全開のキメまで聴かせてくれますからねぇ♪

ということで、これは人気盤以外の何物でも無い作品です。もちろんジャズの歴史上で云々という代物でもありません。実はジャズが好きになった当時、私はジャズ喫茶で良く、この盤をリクエストしていましたが、その頃は前述したようにコルトレーンが神様でしたし、ジャズマスコミでもハンク・モブレーはほとんど取上げられず、ましてアルバムも廃盤状態のブツばかりでしたので、こんな人のファンじゃ、ダメなのかなぁ……、なんて悩んだりもしました。

しかし現実には、ジャズ喫茶でモブレーはけっこう鳴っていましたし、もちろんこのアルバム以外にも名盤・人気盤は幾枚も存在しています。個人的にはコンプリート・コレクションを目指しているほど好きな人なので、これからもいろいろとご紹介していこうと目論んでおりますが、まずはこのアルバムを、ぜひとも聴いてみて下さい。
 

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ヨレヨレ人気盤

2006-02-17 18:36:36 | Weblog

なんだか忙しない1日で、昼飯も食いそこねました。しかし先日の義理チョコが意外にも役にたったという、はははっ、バレンタイン反対論者の私がねっ♪

ということで、本日の1枚は――

Bud Powell In Paris (Reprise)

歴史的名演でも傑作でも無いけれど、ジャズには所謂ジャズ喫茶の名盤というのがあって、これもその1枚です。

主役のバド・パウエルはモダンジャズでは説明不要、ピアノのチャーリー・パーカー(as) というべき存在で、パウエル派というジャンルまで存在する天才ですが、けっして長かったとは言えないその活動は浮き沈みが激しく、精神病院や麻薬治療施設とシャバを往復していた時期もありました。

そして晩年、とは言っても30代ですが、演奏の場を求めて渡欧、もちろん全盛期の迫力は望めないものの、何故かこの時期前後に作られた作品が人気を集めています。このアルバムはその最右翼かもしれません。

メンバーはバド・パウエル(p)、ジルベール・ロベェール(b)、カール・カンサス・フィールズ(ds) のトリオで、録音は1963年2月といわれております。ちなみにプロデュースはデューク・エリントン! その内容は――

A-1 How High The Moon
 スタンダード曲ですが、モダンジャズ的には面白くアドリブ出来るのでビバップ以降は定番になっています。パウエルは快調なテンポで飛ばしますが、それにしてもドラムスがうるさいなぁ……。実はそこがこのアルバムのミソなんですが♪ で、演奏はこの時期のパウエルにしては指のもつれも少なく、ノリにノッた挙句、最終コーラスではこの曲を元ネタに作られた「Ornithology」というビバップ曲を弾いて有終の美を飾ります。このあたりは狙ったのか、つい、やってしまったのかは不明ながら、本当に楽しいです。

A-2 Dear Old Stockholm
 日本のジャズファンに特に人気がある北欧民謡をパウエルが演じるというだけで嬉しくなる趣向です。演奏はもちろん期待どおり、パウエルが哀愁のフレーズを弾きまくります。なにしろこの当時のパウエルは神がかったところが消えた代わりに、何故か、そこはかとない哀しみや寂寥感が、その演奏から滲み出るようになっていたのですから、もう最高です。

A-3 Body And Soul
 お馴染みのスタンダードをパウエルは心をこめて弾いています。しかし、悲しいかなミスタッチが目立ち、往年のインスピレーションも出てきません。ただし、この哀愁はどうしたものか!? これがジャズの不思議で恐いところです。ヨレヨレの哀しみとでも申しましょうか、本当に惹きつけられる演奏です。ちなみにこれをセロニアス・モンクの影響で云々という人もおりますが、私はテクニックの乱れからそうなっているにすぎないと思います。もちろんモンクの影響は否定しませんが……。

A-4 Jor-Du
 ご存知、デューク・ジョーダン(p) の人気曲ですが、この手の哀愁曲が多く演奏されているのも、このアルバムの人気の秘密です。しかし演奏そのものはテーマの提示からしてミスが目立ちますし、ドライブ感の衰えは隠しようがありません。これで初めてパウエルを聴くと、本当にこの人が天才なのか……、と必ずや疑問を抱くでしょう。しかし本物の天才なのです、パウエルは! それでなくては、こんなヨレた演奏でアルバムを出せるはずが無いと言ってしまえば、贔屓の引き倒しですが……。

B-1 Reets And I
 パウエルが十八番のビバップ曲ですが、悲しいかなインスピレーションに反比例して指が動きません。しかしパウエルは必死でフレーズを綴り、今や名物の唸り声にも、そのもどかしさが滲み出ています。それでもバックの暖かい盛り立てがあって、コーラスを重ねる毎に調子を上げていく演奏は、なかなか楽しいものがあります。

B-2 Satin Doll
 プロデュースをしてくれたエリントンの有名曲で、多くのジャズメンによる夥しい演奏が残されておりますが、残念ながらパウエルのバージョンは優れているとは言えません。冴えがないと言うか、完全にボロボロですが、妙に聞かせてしまう説得力が魅力です。

B-3 Parisian Thoroughfare
 パウエルが作曲したもので、「パリの大通り」という邦題がついています。作者自身、何度か録音を残していますが、ここでは短いながら快調な演奏になっています。

B-4 I Can't Get Started
 これまた人気スタンダード曲で、パウエルはスローテンポでじっくり聞かせてくれますが、1音1音に感情がしっかり込められた演奏だと思います。まさか指の動かなさを逆手に取ったわけでもないでしょうが、このあたりに私は天才の片鱗を感じるのでした。

B-5 Little Benny
 オーラスは、これもビバップの定番曲で、アップテンポで快調に聴かせます。ただし指の縺れは相変わらずで、所謂パウエル節も乱れがちですが、ドラムスがやたらに調子が良いので、楽しい演奏になっています。

ということで、これは傑作ではありません。しかし妙に耳ざわりが良いというか、ジャズ者の琴線に触れる演奏ばかりが収められています。はっきり言って、ここにいるパウエルは天才でもなんでもなく、ただの落剥したジャズピアニストですが、神様が地上に降りてきたかのような不思議な親しみがありますし、全体に漂う哀愁は、やはり天才だけが醸し出せるものかもしれません。

録音そのものもドラムスとベースが大きく、ピアノが引っ込んでいるあたりがライブ演奏っぽくもあり、そのドラムスが絶妙に調子の良いオカズを入れてくるので、最初は煩いと思っていたドラムスが、最後には快感に転じているという隠し技も含まれています。

いずれにせよ、これは人気盤で、酒が入っていたりすると、痺れた頭にますます心地良い魅力に溢れています。案外、パウエル、否、ジャズ入門用にぴったりのアルバムかもしれません

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気楽な神業

2006-02-16 17:52:25 | Weblog

今日は何故か霊柩車に後をつけられました。その答えは、目的地の側で葬式があったという単純なものなんですが、30分位その状態が続くと、流石に良い気持ちはしませんですね。葬儀社の皆様、ごめんなさい。

で、本日の1枚は――

The Artistry Of Tal Farlow (Norgran)

アドリブ名人シリーズの第3弾は、白人ギタリストのタル・ファーロウを取上げました。この人は物凄いテクニシャンなんですが、そのほとんどを独学で身につけたというあたりも愕きです。やはり素質があったんでしょうねぇ、生まれつき手が大きいという身体的な特質も充分に活かされてるのです。

その最たるものが、ギターでは弾きこなすのが難しいフレーズを高速でやってしまう神業、もちろん早弾きそのものも得意で、しかも極力ごまかしをやりません。おまけにその音色が太くてふくよかなんですから、まさに人間国宝級! 私は聴くたびに完全降伏状態です。おそらくギターの弦も太いものを使っていたと思われます。

ただしタル・ファーロウの魅力はそうしたテクニック的なものだけではなく、むしろそれを土台にしたアドリブ展開の上手さ、メロディフェイクの素晴らしさという、歌心に満ちた演奏を聞かせてくれることです。そしてこのアルバムは、そのあたりのバランスがとても良い傑作だと思います。

録音は1954年11月15~16日、メンバーはタル・ファーロウ(g)、ジェラルド・ウィギンス(p)、レイ・ブラウン(b)、チコ・ハミルトン(ds) という夢のような超一流のカルテットです。

A-1 I Like To Recognize The Tune
 チコ・ハミルトンの歯切れの良いブラシにノセられてバンドが軽快に飛ばします。タル・ファーロウは全くの自然体で物凄い難フレーズを弾いており、もちろん歌心は満点♪ これは神業ですから演奏は一人舞台になっています。

A-2 Strike Up The Band
 これもアップテンポで、まずチコ・ハミルトンのブラシが最高の気持ち良さです。そしてタル・ファーロウは早弾きで期待に応えるのですが、スケール練習になっていないのは流石です♪ ほとんど無い隙間をついて鋭いコードを入れるジェラルド・ウィギンスのピアノにも耳を奪われます。

A-3 Autmn In New York
 最初からタル・ファーロウのソロでテーマがフェイクされていきますが、コードワークの展開はセンスが良く、リズム隊が加わってからもマイペースで美ロメ満載のアドリブを聞かせてくれます。こういうスローな有名スタンダードは雰囲気だけの演奏になりがちですが、タル・ファーロウは所々に驚異の早弾きや刺激的なフレーズを入れて、全くダレることがありません。

A-4 And She Remembers Me
 ちょっとエキゾチック趣味が入ったタル・ファーロウのオリジナル曲ですが、テンポは快調、アドリブは強力という素晴らしさが満喫出来ます。それにしても凄い音の跳躍をギターで軽々と表現してしまうタル・ファーロウは、恐らく毎日が猛練習だったと思われますが、聴き手にそれを感じさせないあたりは凄みがあります。

B-1 Little Girl Blue
 ムード満点のスローな解釈が見事です♪ バンドとしての一体感が絶妙なスロー・グルーヴを生み出しているのです。そして終盤には完全なタル・ファーロウのソロになる展開まであって、スリルとサスペンスに満ちているのでした。

B-2 Have You Met Miss Jones
 これまた軽快なノリで骨太なタル・ファーロウのギターがたっぷりと楽しめます。流れるようなアドリブフレーズのバックでは、ちょっと黒っぽいリズム隊の煽りまでありますが、この天才ギタリストは馬耳東風で豪快にスイングしまくっています。
 それに業を煮やしたジェラルド・ウィギンスが、このアルバムでは初めてアドリブパートに突入してグリグリと攻め立てますが、再び登場するタル・ファーロウの前では道化にすぎませんでした……。

B-3 Tal's Blues
 このアルバムのハイライト♪ 完全に黒~いリズム隊を従えてタル・ファーロウがブルースの心情を吐露していきます。もちろん早弾きフレーズや絶妙なチョーキング、力強いピッキングでの太いグルーヴが圧巻で、凄いっ! の一言です。
 続くレイ・ブラウンのベースソロも流石ですが、珍しくもステックで勝負するチコ・ハミルトンも自然体で好感が持てます。

B-4 Cherokee
 モダンジャズ演奏者ならば必ず挑戦しなければならないのが、この曲です。もちろんタル・ファーロウは超アップテンポで臨んでいますが、一糸乱れぬチコ・ハミルトンのブラシがまず、見事です。そして太い弦でこんな高速フレーズを弾いてしまうタル・ファーロウは、本物の紙一重!

ということで、ほとんどタル・ファーロウのソロパートしか無いアルバムです。それゆえに神業が満喫出来るのですが、そこに全く力んだところが無く、むしろ飄々と楽しんでいるかのような佇まいさえ、感じられます。

ちなみに現在復刻されているCDはリマスターが最高で、エッジが鋭い音がたっぷり楽しめるという余禄までついていますので、激オススメの1枚です。

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大らかなロリンズ

2006-02-15 18:35:56 | Weblog

今日はPCトラブルで大切なファイルを失い、作り直しに時間を取られてしまいました。さらに若い者の仕事ミスなんかが重なって、仕事場の雰囲気も硬直、精神的にも不安定……。

そんな時はこれを聴くようにしています。大らかな気分になれるんですよ――

Sonny Rollins & The Comtemporary Keaders (Comtemporary)

ジャズでアドリブの大名人と言えば、黒人テナーサックス奏者のソニー・ロリンズを外すわけにはいきません。天衣無縫のリズム感に支えられた大胆なアドリブ・メロディの組み立ては、即興の神髄でもあり、また最初っから緻密に練り上げられていたのか? と思わせる完成度があるのです。

その実力は超名盤「サキソフォン・コロッサス(ブレスティッジ)」を筆頭に数多く残されていますが、その天才性ゆえか、時には???という録音があるのも、また事実です。特にこのアルバムは好き嫌いと賛否両論がはっきりしている最右翼の1枚でしょう。

メンバーはソニー・ロリンズ(ts) 以下、共演者はバーニー・ケッセル(g)、ハンプトン・ホーズ(p)、リロイ・ビネガー(b)、シェリー・マン(ds)、ビクター・フェルドマン(vib) という、タイトルどおりにコンテンポラリー・レーベルでリーダー盤を出している猛者達で、録音は1958年10月20~22日とされています。

この頃のロリンズはハードバップ黄金時代に歩調を合わせたかのような絶頂期でしたが、何故か特定のレーベルに所属しておらず、ここでも単発の契約によるセッションとなりましたが、それゆえにレーベルサイドはオールスターのメンツで一期一会の録音を目論んだのですが、その結末は――

A-1 I've Told Ev'ry Little Star
 悠然とテーマを吹奏するロリンズを快適なスイング感で支えるリズム隊の出だが、まず出色です。続くアドリブパートでも、ロリンズは何時ものペースで豪快に、そして変幻自在に吹きまくりますが、面白いのはそれが突如終了したかのような雰囲気で、リズム隊が延々と伴奏だけを続けてしまうパートがあることです。これは打ち合わせ不足か、それとも何かの勘違いか? しかしそこがまたジャズを聴く楽しみで、その場にサッと漂う緊張感がたまりませんし、それを巧に演奏のスリルに繋げていくメンバーの場馴れした態度は、貫禄の成せる技でしょう。ここではシェリー・マンのドラムスが刺激的ですし、よしっ、とばかりに出てくるハンプトン・ホーズやバーニー・ケッセルも好演です。そして再登場するロリンズが、これまた強烈です。

A-2 Rock-A-Bye Your Baby With A Dixe Melody
 これもいきなりロリンズが悠然と楽しいテーマメロディを吹き始めますが、それにピシッと合わせるリズム隊のタイトなノリも最高♪ ですからロリンズもその上で自由に飛翔と急降下を繰返すアドリブ構成で勝負しています。特に元メロディを巧に崩す技は抜群の上手さで、本当に楽しくなる演奏です。

A-3 How High The Moon
 実は録音テスト用のリハーサル音源らしいです。したがってロリンズも適当に吹いているだけなのですが、これが逆に面白いというか、間のとり方とかリズムに対するアプローチが唯一無二のロリンズ節になっています。共演者はバーニー・ケッセルのギターがロリンズのバックでつけるコード弾きに神髄を発揮、またリロイ・ビネガーのベースも素晴らしいと思います。
 というように、この演奏はロリンズ、ケッセル、そしてビネガーの3人だけで演じられているのですが、それがロリンズの奥義の秘密を解き明かすかのようなところがあって、個人的にはとても好きです。

A-4 You
 これまた、いきなりロリンズが吹き始めるという、強烈なアップテンポのアレンジになっていますが、アドリブ先発のビクター・フェルドマンのバイブラフォーンが痛快です。もちろん続くロリンズも爆発的にドライブしています。そしてこの2人によるアドリブの応酬が山場を作り出していくのでした。

B-1 I've Found A New Baby
 このアルバムのハイライトはこの曲だと思います。と、いきなり結論を出してしまいましたが、まず絶妙なドライブ感でロリンズがアドリブでイントロを作り、そのまんまの勢いでテーマを吹奏、快適なリズム隊の伴奏に煽られて何処までも飛んでいってしまいそうな、まさに即興演奏を聞かせてくれます。特に1分28秒目からのコーラスでは執拗に単音を繰返す、所謂モールス信号フレーズに突入! これはロリンズ以外の者がやると完全にイモ扱いになる危険な遣り口なんですが、抜群のリズム感とそれをさらにフェイクしていく天才的なアドリブの力量で、もう、これなくしては聴いていられないという名演を生み出しています。
 また途中にはコルトレーンを意識したかのような、ウネウネモリモリの過剰音までも繰り出すロリンズには、他のメンバーがつけ入るスキもなく、全篇がロリンズの一人舞台になっているのでした。

B-2 Alone Together
 ハンプトン・ホーズのイントロからリズム隊によるテーマ提示、さらにバーニー・ケッセルのアドリブが続くので、あれっ? と思わせますが、思いっきりハズシながら突如として現れるロリンズはやっぱり鮮やかです。その後の展開もかなり破天荒なフレーズの連発で、またまた突然演奏を止めてしまうあたりは、一筋縄でいかない雰囲気が横溢しています。
 つまり物凄く纏まりの悪い演奏なんですが、ジャズとしてのスリルは一級品! 実はこれを畢生の名演と高く評価しているファンもいるんです……。が、正直、私には???です。

B-3 In The Chapel In The Moonlight
 このアルバムでは唯一のスロー曲ということで、じっくりとロリンズの歌心に浸りたいところですが、イマイチ、この天才にしては完成度が低いように思うのは、私の気のせいでしょうか……。

B-4 The Song Is You
 急速調の展開にテンポが乱れに乱れる???の仕上がりです。シェリーマンのドラムスも、リロイ・ビネガーのベースも全くスイングしていません。ハンプトン・ホーズも一人相撲ですし、ロリンズはやりたい放題というか、早く終わって帰りたいよぉ~、というような雰囲気が感じられるのです……。おまけに途中で思いっきりコルトレーンしているフレーズまで出すロリンズは、完全に我を失ったかのようです。

ということで、アルバムの後半で突如としてペースを乱しているロリンズは、と言うよりも、3日間に及ぶセッションから作られたこのアルバムの編集意図はなんでしょう? この最後のメチャメチャな雰囲気は、ジャズと言ってしまえミもフタも無いのです。

実はロリンズはこのセッションの翌年夏あたりから、いっさいの仕事を断って隠棲状態に入るのですが、それにはプライベートな揉め事や、当時グングンと注目されていたコルトレーンに対する嫉妬とライバル意識のバランスの悪さ等々があったと言われています。そして見失った自分自身を取り戻すため、マンハッタン橋の上で独り、テナーサックスを吹く日々を続けていったらしいのですが、このアルバムが発売されたのはちょうどそれが表沙汰になった時期と重なるようです。つまり、もしかしたらロリンズの不安定な精神状態を表そうとしたアルバム編集方針だったのかも……、等と穿った聴き方までしてしまうのです。

とはいえ、アルバムとしては楽しい曲ばかりですし、名演・快演もあるというのことで、個人的には愛聴しているのでした。ちなみに現行CDは没テイクのオマケ付き♪

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バレンタインにコニッツを

2006-02-14 17:21:00 | Weblog

バレンタインディなんて、クソっくらえだっ! こんな義理貰ったって、何が嬉しいもんかっ! まぁ、だからと言って、ひとつももらえなければ気分はロンリーなんですが、全体としての風習が無くなれば、問題なしでしょう。

実は告白すると、本命なんて貰ったことはないし、たとえ義理でも欲しかった年齢時にはもらったことはないんですよ……。結局、僻みとイジケの思考なんですがねぇ。あ~ぁ、情けない!

だいたい、本場アメリカじゃ、男が思いを寄せている女に奉仕する日なんですよ、バレンタインディは! 全く日本がお得意の完全な本末転倒が、今日というわけですね。

ということで、本日の1枚は何の脈絡も無く、これを――

Lee Konitz In Harvard Square (Stryuville)

リー・コニッツは、1950年代から活躍する白人アルト奏者としてはアート・ペッパーと同等のアドリブ名人だと思いますが、一般的な人気はアート・ペッパーに大きく差をつけられています。

それはコニッツの紡ぎ出すアドリブメロディが難解というか、常識的な感覚に訴えてこない、素直に琴線に触れるところが極めて少ないという持ち味があるからだと思います。

しかしそのアドリブ感覚は物凄いの一言で、ほとんど原曲を感じさせない極端な分解と再構成、さらにウネウネクニャクニャと思わせぶりを続けた次の瞬間、思い切った音の跳躍を聴かせるという、スリルに満ちているのです。ただしそれか、所謂「歌」になっていないところが、一般ウケしないわけですが、それでも一端そのスリルに取り付かれると、もうコニッツでなければダメという中毒症状を呈するのです。

このアルバムは、そんにコニッツの中では比較的聴きやすい仕上がりで、最高傑作の呼び声もある名盤です。録音は1955年2月、ボストンでのライブを収録したものですが、拍手は見事にカットされています。メンバーはリー・コニッツ(as)、ロニー・ボール(p)、ピーター・インド(b)、ジェフ・モートン(ds) という、コニッツにとっては師匠にあたるレニー・トリスターノの薫陶を受けた者ばかりですので、気心の知れた名演になっています。

ちなみにレニー・トリスターノとは、ビバップ全盛時代の1940年代半ばにして、すでにその影響力から脱したクール・スタイルを確立した天才白人ピアニストで、流れるような曲想&ピアノソロのスタイルが、全く黒人的なエモーションを感じさせないという、極めて反黒人的なジャズを創生した人です。それは忽ちトリスターノ派と呼ばれるモダンジャズの一派を形成していき、コニッツもその門下生というわけです。

しかしコニッツはアルトサックス奏者ということで、実は同時にチャーリー・パーカーを尊敬し、そのスタイルの奥義を究めんとしていましたので、結局、反ビバップを推進する師匠の怒りをかって破門されかかっていた時期の演奏が、ここで聴かれるわけです。その内容は――

A-1 No Splice
 軽快なリズムで演じられるコニッツのオリジナル曲ですが、そのテーマメロディはビバップをより難解にした雰囲気です。というよりも、まるっきりアドリブの一節を合奏したという感じでしょうか……。しかしそのまま、アドリブパートを演じるコニッツのスリルに満ちたメロディ展開は最高です♪ もちろん十八番のウネウネフレーズが中心ですが、それをチャーリー・パーカー的なウネリが強いドライブ感で演じるので、強烈に刺激的です。続くロニー・ボールのピアノも一抹の哀愁があって、シミジミと心に残ります。

A-2 She's Funny that Way
 このアルバムの目玉というよりも、ジャズ史上に残る名演です。曲は1920年代のヒット曲で、この頃にはスタンダード化していたらしいのですが、それにしてもここでの悲しくせつない雰囲気は、筆舌に尽くしがたいものがあります。とにかく何度聴いても飽きない演奏で、個人的には自分の葬儀で流して欲しいと要望までだしてあるほどです。ぜひとも皆様には傾聴していただきとうございます。

A-3 Time On My Hands
 前曲のせつない雰囲気をそのまんま引き継いだような、これも心に染み入る演奏です。かなりビートが強いミディアムテンポでテーマが吹奏され、アドリブが展開されるのですが、これでもかと美メロが繰り出される様は、とても即興とは思えないほどです。琴線にふれまくる刺激フレーズは本当に見事です。

A-4 Foolin' Myself
 これもスタンダード曲ながら、後々までコニッツが演じる十八番♪ 快調なテンポで哀愁のテーマが奏でられ、原曲を巧に活かしたアドリブがたっぷりと楽しめます。独自のツボを全く外さないそのスタイルは唯一無二で、それが好きな人には地獄までもついて行こうと決心させるほどなのです。

B-1 Ronnie's Tune
 ピアニストのロニー・ボールのオリジナルで、アップテンポのトリスターノ派モダンジャズの典型が演じられています。それは抑揚の少ないメロディをどこまで刺激的に聴かせるかが勝負どころというような、偏屈極まりないものですが、そこで強烈なドライブ感を生み出すのがコニッツの天才性の表れで、ここではその真骨頂が聴かれます。それはけっしてクールという範疇には納まらないものだと思います。ぜひともそのあたりをお楽しみ下さい。

B-2 Froggy Day
 これも前曲と似たような曲調のロニー・ボールのオリジナルで、またまたコニッツのブチ切れたようなアドリブが物凄い勢いです。聴いているこちらに鋭角的に突っ込んでくるそのフレーズは、本当に油断出来ず、もちろん和めません。このあたりがコニッツの一般的人気の障害になっているんでしょうが、ジャズを聴く楽しみのひとつであることに間違いはありません。

B-3 My Old Falme
 お馴染みのスタンダードですが、コニッツは巧みにテーマメロディを変奏して哀切の雰囲気を作り上げていきます。このあたりの上手さは余人には真似の出来ない、本当のアドリブ名人の域です。コニッツは後年、スタンダードを取上げてもテーマを吹かないで、アドリブだけ演じることが多くなるのですが、それは最初からテーマを変奏するという意図があってのことと、この演奏を聴くと理解出来ます。

ということで、ここでのコニッツはトリスターノ影響から逃れ、パーカーに近づいていた自身の趣味性が100%、良い方向に作用していると思います。

そして全7曲収録のこのアルバムは、実はオリジナルが10インチ盤なので、各曲の演奏時間は3分前後なのですが、その密度の濃さは天下一品です。残念ながら別ジャケットですが、現在はオマケ曲入りでCD化されておりますので、ぜひとも聴いてみて下さい。虜になったが最後、地獄までも付き合えるはずです。

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浮いている?

2006-02-13 19:21:54 | Weblog

オリンピック、日本は不調ですねぇ。しかし、つい放送は見てしまうという悪循環の愛国精神です。はははっ……。ということで、本日はアンバランスが魅力の盤を――

Una Mas / Kenny Dorham (Blue Note)

ケニー・ドーハムといえば、モダンジャズではお馴染みのトランペッターで、録音もかなり残しており、これはジャズ入門書等では楽しい人気盤ということになっていますが、私的には???です。それほどジャズ喫茶で鳴っていたという記憶もありません。また、それほど冴えた演奏でもないような……。

しかし別角度から聴くと、なかなか面白い盤です。

録音は1963年4月1日、メンバーはケニー・ドーハム以下、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、そしてトニー・ウィリアムス(ds) という共演者は全員、当時上昇機運にあった若手バリバリが揃っています。

A-1 Una Mas (One More Time)
 ケニー・ドーハム作曲によるラテンリズム、というよりはボサ・ロック調の楽しい曲です。メロディにも一抹の哀愁があって、つまりこれが、このアルバムの人気曲になっているのですが、肝心のドーハムの音色やアドリブフレーズにこれが合っているかと言えば、私的には否です。
 もちろん楽しい曲想にリズム隊の軽快なノリ、それ煽られて気持ち良く吹いているドーハムは、サビでの絶妙な展開も含めて、あぁ、素敵♪ と思うのですが……。なんか音色はツマリ気味だし、フレーズがやや古いんですねぇ。これがリー・モーガンかフレディ・ハバードだったらなぁ……、なんて不遜なことまで思わざるをえません。
 ところが続くジョー・ヘンダーソンがそんなこちらの身勝手を見越したかのような弾けっぷりで、思いっきりアウトなフレーズまで出して力演です。もちろん原曲の良さなんて何処吹く風の暴れ方です。
 そしてもちろん、リズム隊もそれに歩調を合わせてしまいます。つまり親分だけが自分の殻の中に閉じこもって奮闘していたというオチがついているのです。これで良いのか!? 演奏はLP片面全部を使ってノリノリで進むのですが……。
 ちなみにジョー・ヘンダーソンを世に出したのはケニー・ドーハムで、このセッションがその端緒になっているのですから、いやはやなんともです。もっとも、この面倒見の良さがドーハムらしくもあり、またジョー・ヘンダーソンの気配りの無さも、なんか憎めません。
 で、演奏は終盤のテーマ合奏の途中から「ウナッ、マスッ」の掛声で楽しいリピートが展開されて盛上がります。このあたりの楽しさは素直に認める私ではありますが♪

B-1 Straight Ahead
 カッコ良いアップテンポのハードバップ曲ですが、このリズム隊ですからタダではすみません。ドーハムが先発で快調にアドリブを展開するバックでは、トニー・ウィリアムスの鬼のようなシンバルが炸裂し、ブッチ・ウォーレンが執拗にツッコミを入れ、ハービー・ハンコックも苛立ちのコードをブチ込んでくるのですから、続くジョー・ヘンダーソンも大張り切り! 当に水を得た魚状態で、思いっきり吹きまくります。
 一応、この人はコルトレーン派に属するスタイルの持ち主ですが、実はウェイン・ショーターやスタン・ゲッツの影響もあるという、ヒネリのあるフレーズが持ち味で、ウネウネクネクネとツイストされると、妙な興奮を覚えます。ズバリ、快演!
 またハービー・ハンコックのパートになると、これはもう、完全にマイルス・デイビスのバンドのような雰囲気になりますが、それを打ち消すのが背後に被ってくるハードバップではお約束のリフです。あぁ、カッコイイ♪ 終盤のドラムスとの対峙、その間隙で暴れるピアノという強烈な盛り上がりが最高です。

B-2 Sao Paulo
 ドロドロしたイントロから哀愁のラテンメロディが導きだされるという、煮え切らない曲ですが、アドリブ・パートでは一転して4ビートも交えて熱演が展開されます。そしてこういう曲調になると冴えを発揮するのがトニー・ウィリアムスで、得意の細分化したオカズをたっぷり入れて快適なリズムを叩き出しているあたりは最高です。
 ジョー・ヘンダーソンもその意図を素早く飲み込んで、ツボを外さないソロを聴かせますし、ハービー・ハンコックは新感覚ドップリのノリですから、たまりません。なんとなくドーハムだけが浮いてしまった感が無きにしもあらず、なんですねぇ……。

ということで、私が最初に別角度からの面白みと書いたのは、その部分なのです。旧勢力のドーハム対新世代の対決が、ここに記録されてしまったのではないでしょうか? ただしケニー・ドーハムというトランペッターは保守派と思われがちですが、けっしてそうでは無く、つねに第一線で活動し、この後もフリーに近いような録音まで残しています。しかし、それがいつも、しっくりこないという部分がミエミエになってしまう損な人だと、私は思います。ここでも熱演すればするほど、若手から冷や水を浴びせかけられる瞬間が確かにあって、そこがジャズならではのスリルに繋がっているという皮肉な名盤が、これというわけでした。

なんか現在の自分の立場を振り返ってしまうですねぇ……。

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驚異!

2006-02-12 19:40:07 | Weblog

久々に本サイト「サイケおやじ館」を更新しました。そのバックに流していたのが、このアルバムですが、BGMにしては恐いものを選んでしまったと――

A Date With Jimmy Smith Vol.1 (Blue Note)

オルガンの偉大なる天才、ジミー・スミスが認められたのはブルーノートと契約し、その超絶技巧でビバップのイディオムを表現しえたという、言わばオルガンのチャーリー・パーカーともいう立場を確立してからでしょう。

もちろんそれ以前にも別レーベルでリーダー・セッションは録音していましたが、モダンジャズそのものという演奏ではありませんでした。そのジミー・スミスがどういう経緯でビバップに鞍替えしたのかは勉強不足で分かりませんが、とにかくそのジャズ魂に惹きつけられたブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンはすぐさま、夥しい録音セッションを敢行し、立て続けにリーダー盤を発売しています。

それは当初、ジミー・スミスを中心にギターとドラムスを配した、典型的なオルガン・トリオ編成で行われていましたが、折からのハードバップ勃興の機運に乗って、ついに管入りセッションが録音されるという、当時としてはかなり冒険的な演奏がこのアルバムに収録されています。

ちなみに録音は1957年2月11~13日にかけての所謂マラソンセッションで、メンバーはジミー・スミス(org)、エディ・マクファーデン(g)、ドナルド・ベイリー(ds) という当時のレギュラー・トリオに加えて、ドナルド・バード(tp)、ルー・ドナルドソン(as)、ハンク・モブレー(ts)、そしてアート・ブレイキー(ds) というブルーノートのバリバリの看板スターが顔を揃えています。

こういうやり方は、当時のライバル会社であったプレスティッジやヴァーヴが十八番の企画でしたが、あえてブルーノートがそれに踏み切ったのは、それだけジミー・スミスの人気と実力が認められていたからかもしれません。

その肝心の演奏内容は――

A-1 Falling In Love With Love (2月11日録音)
 ここでのドラムスはアート・ブレイキーが担当し、オルガントリオ+3管の熱いジャムセッションになっています。テーマはお馴染みの素敵なメロディをドナルド・バードとルー・ドナルドソンが分け合っており、続けてハンク・モブレーがいつものソフトな音色で黒い歌心に満ちたフレーズを披露していきます。
 バックのリズム隊にはベースが入ってないので、そのグルーヴが気になりますが、ジミー・スミスの驚異的なフットペダルと左手のコンビネーション、さらにアート・ブレイキーの強烈な煽りがあるので、全く心配はありません。それどころかオルガンが参加していることによってゴスペル色が強い分だけ黒人的なノリが強くなっています。
 アドリブパートはその後、エディ・マクファーデンにリレーされますが、同タイプのケニー・バレルあたりに比べると線の細さがモロに出ており、残念です。
 しかし続くジミー・スミスは唯我独尊のビバップ・オルガン全開! かなりアグレッシブなフレーズを繰り出しており、興奮を通りこして和めない瞬間まで現出させていますが、それを何時もの楽しいハードバップに引き戻すのがドナルド・バードとルー・ドナルドソンという演出に繋がるのでした。
 う~ん、それにしてもそのバックで炸裂する刺激的なジミー・スミスのコード弾きとツッコミは恐ろしいばかりで、やはりこれは単なるハードバップのジャムセッションでは無いようですねぇ……。

A-2 How High The Moon (2月13日録音)
 ホーン隊が抜け、ドラムスがドナルド・ベイリーに変わったレギュラー・トリオによる演奏ということで、リラックスした快演が展開されます。エディ・マクファーデンも実力を遺憾なく発揮しておりますし、こういう部分があると、先の管入りセッションではジミー・スミスも力んでいたのかなぁ、等と妙に安心してしまいます。これまた、あぁ名演の1曲でしょうか。

B-1 Funk's Oats (2月11日録音)
 「A-1」と同じメンツによる、B面全部を使った長尺の快適なファンキー・ブルース大会ですが、後年のエグイほどの黒っぽさはまだ表現出来ていません。と言うか、あえてそのあたりを避けている雰囲気さえ感じられます。つまりそれほど真摯なハードバップというわけで、このアルバムがイノセントなジャズファンに支持されるのは、そのあたりに理由がありそうです。
 とは言っても、先発のルー・ドナルドソンはその音色と執拗なブルース・リックでファンキーに迫っています。しかし続くドナルド・バードとハンク・モブレーは正統派ハードバップの神髄を聴かせるのですから、後年のきわめてソウル&ジャズロックな雰囲気を期待してしまうと、肩透かしでしょう。ただしモダンジャズとしては素晴らしい瞬間になっています。
 肝心のジミー・スミスは、やはり力んでいたか、かなりガチガチのフレーズで勝負しています。それゆえに面白くない展開ですが、これはガチンコ勝負の異種格闘技戦と考えれば、納得の緊張感というところでしょう。

ということで、かなり危険なスタイルの演奏が詰まった仕上がりですが、やはり個人的には「A-2」での和みに心魅かれます。ただしそれも、他の2曲のつらい緊張感があってのことですから、やはり絶妙なプロデュースを評価すべき1枚だと思います。これがブルーノートの恐いところかもしれません。 

それとこのセッションは何枚かのアルバムに分散されて発表されるのですが、実は管入りの演奏は録音がイマイチ、すっきりしていません。録音技師は名匠のルディ・バンゲルダーですが、当初はオルガンの録音に苦しんだとの噂があるほどですから、さもありなんです。それだけモダンジャズにおけるオルガンの存在は異質だったという証明か……?

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力!

2006-02-11 17:54:00 | Weblog

冬季オリンピック、始まりましたね。開会式では、なんとオノ・ヨーコが登場しメッセージを朗読した後、ピーター・ガブリエルが「イマジン」を歌いましたが、あらためこの歌の力の強さを感じました。それもこれも、結局は世界に本当の平和が訪れていないからなのですが……。

ということで、本日はとにかくジャズに没頭出来るこの1枚を――

What's New / Bill Evans with Jeremy Steig (Verve)

ビル・エバンスと言えば耽美派、叙情派のピアニストと思い込みがちですが、実はその中にも厳しく、ハードな演奏が本分ではないでしょうか? 平たく言うとイケイケの演奏にこそ、ビル・エバンスの本領が発揮されると、私は思います。

このアルバムはその姿勢が100%発揮されたジャズ喫茶の人気盤です。録音は1969年の1月から3月にかけて数回のセッションを敢行しており、メンバーはビル・エバンス(p)、エディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds) という当時のレギュラー・トリオにフルートの鬼才、ジェレミー・スタイグが加わった所謂ワン・ホーン盤です。その内容は――

A-1 Straight No Chaser
 セロニアス・モンクが作曲したヤクザな風情のブルースで、エバンスが在籍していた頃のマイルス・デイビスのバンドでは定番だったということで、ここでも往年のハードバップなセッションになると思いきや、よりエグイ表現で全篇が押し切られています。
 まず、いきなりジェレミー・スタイグのフルートがリードしてテーマが提示され、その後はエバンス、スタイグ、エディ・ゴメスがブレイクの応酬から得意技を存分に披露していきます。このハードな雰囲気が1970年代のジャズ喫茶では大受けでした。この3人を煽るマーティ・モレルのドラムスもドライなスイング感満点でノセられてしまいますし、ジェレミー・スタイグのハスキーで大胆なフルートも、この時代ならでは♪

A-2 Lover Man
 ビリー・ホリディ(vo) の持ち歌として、あるいはチャーリー・パーカー(as) の酩酊セッションで有名なスタンダード曲ですが、ビル・エバンスもこの2人の天才に負けず劣らず、自分の表現に没頭しています。それはイントロから続くバッキングのコード・バリエーションがビル・エバンス以外の何者でも無いからです。そこだけを聴いて、満足してしまう演奏です。したがってテーマを巧に崩しつつアドリブしていくジェレミー・スタイグのハスキーなフルートが、ますます印象的という本末転倒が最高に気持ちよい出来になっています。あぁ、名演!

A-3 What's New
 これも有名なスタンダード曲ということで、ジャズ史には名演が数多く残されておりますが、ここでの演奏もそのひとつです。しかも曲想を大切にしつつも、力強い部分が前面に押し出されており、4人がバラバラをやっているようで、実は緻密な暗黙の了解が感じられるというジャズの真髄が聴かれるのでした。

A-4 Autumn Leaves
 お待たせしました、ビル・エバンスと言えば、この「枯葉」が出なければ収まりませんね♪ ここでもお約束のイントロがあって、こちらの期待どおりにテーマが演奏されます。しかも通常よりややテンポを速めてあるので、完全にハードジャズの世界に身も心も奪われてしまうという仕掛けです。エディ・ゴメスからビル・エバンスにソロが受け継がれるバックではマーティ・モレルが的確なビートで煽りたてるのですから、ファンには完全にツボのはずです。それはジェレミー・スタイグが強烈にエキセントリックなフルートで割り込んできてからも変わることなく、これはイカン! と気がついたエバンスが途中でピアノを弾くのを止めるほどです。もちろん、全員がこれで安心してラストテーマを演奏出来るわけです♪

B-1 Time Out For Chris
 このアルバムで初めて披露されたエバンスのオリジナル曲で、幻想的でもあり、またブルース・フィーリングに溢れた雰囲気も楽しめます。そのあたりの意図からジェレー・スタイグのハスキーな表現も全開です。ちなみにジェレミー・スタイグは不幸な事故によって顔面の自由が利かなくなったがゆえに、こういう独自の奏法を開発したと言われておりますが、そのタンギング技法は天下一品! ここでも自在のテンポでアドリブメロディ紡ぎだしていく様には完全に惹きこまれます。

B-2 Spartacus Love Theme
 映画「スパルタカス」からの人気曲ですが、その美メロを完全に活かしきった耽美で優雅な演奏が繰り広げられます。なにしろテーマよりも素晴らしいアドリブ・メロディが奏でなれるのですから、このバンドの実力は怖ろしいばかりです。何度聴いても、けっして飽きることのない大名演だと思います。

B-3 So What
 マイルス・デイビスの作品というよりも、今やジャズの定番ではありますが、史上名高いマイルスによる1959年のオリジナル・バージョンにはビル・エバンスが参加していたことから、ここでの再演は全ジャズファンにとって全く嬉しい企画です。
 肝心の演奏は、いきなりジェレミー・スタイグの不気味なソロでスタートし、それが一段落してからお馴染みのテーマが、かなりテンポを上げて提示されるという思わせぶりがニクイところです。そして激しいアドリブの応酬に突入していくわけですが、バンドの全員の意志の統一が顕著なそれは本当に聴きごたえがありますし、ジャズを聴く快感に満ちているのでした。

ということで、ビル・エバンスの厳しさとハードな面がしっかり出た仕上がりになっています。しかもイケイケの中に繊細な表現を忍ばせているのですから、たまりません。既に述べたように、このアルバムはジャズ喫茶の人気盤でしたが、現在はどうでしょう? お茶の間で聴くよりもジャズ喫茶の暗い空間で大きな音で楽しみたいという、これは典型的な1枚だと思います。ご家庭では「B-2」が絶対のオススメです。

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不覚!

2006-02-10 17:45:01 | Weblog

まったく荒れ模様の天気で、春は遠いと本日も感じています。そこで本日は穏やかにエキサイトするこれを――

In A Silent Way / Miles Davis (Sony)

ジャズ・ロックといえば、必ず引き合いにだされるのが、このアルバムですが、私はこれはロック・ジャズじゃないかと思っています。

「ジャズ・ロック」と「ロック・ジャズ」は「カレーライス」と「ライスカレー」の違いくらいと思うのが普通ですが、私はこのアルバムがある限り、拘ります。それはこの作品が明らかにロック色が強いからで、しかもそれをジャズの帝王であるマイルスが演じてしまったところに、ロック・ジャズの真髄があるのです。

収められた曲はLP両面で4曲ですが、実は片面づつのメドレー形式というか、編集によって繋ぎ合わされた作り物です。こういう事は即興演奏が命のジャズでは敬遠されてしかるべきというのが王道ですが、マイルスだったら何をやってもいいのか? という憤りが、このアルバムの価値を決定づけています。

つまり1960年代後半、ロックに押しまくられたジャズの逆襲は、ここから始まったとして過言でないものが、びっしり詰まった演奏です。

録音は1969年2月18日、メンバーはマイルス・デイビス(tp) 以下、ウェイン・ショーター(ss)、ハービー・ハンコック(elp)、チック・コリア(elp)、ジョー・ザビヌル(elp,org)、ジョン・マクラフリン(g)、デイブ・ホランド(elb)、トニー・ウィリアムス(ds) という黄金の8人! もちろん臨時編成ではありますが、度々、マイルスと共演を重ねてきた気心の知れた者たちです。

ただしデイブ・ホランドとジョン・マクラフリンは、このセッション直前にマイルスが欧州巡業を行った際に英国からスカウトしてきた若手実力派で、しかし実際はトニー・ウィリアムスが自分のバンドを組むために声を掛けたという説もあります。

いずれにせよ、2人は当時の新感覚派というか、ロック先進国だったイギリス出身ということで、新しい血の導入がなされたわけです。ちなみにジョー・ザビヌルも欧州人で、マイルスのセッションに参加する以前はキャノンボール・アダレイ(as) のハンドのレギュラーとして、大ヒット曲「マーシー・マーシー・マーシー」等のファンキーな名曲を多数書いていた逸材でした。

で、その彼等が大活躍したのがこのアルバムです――

A-1 Shhh / Peaceful
 ジョー・ザビヌルのオルガンとジョン・マクラフリンのギターを土台としてトニー・ウィリアムスの定型ビートがビシバシ炸裂する幻想的な出だしから、徐々に潜在的なロックビートが現れたとこで、マイルスのハスキーでクールなトランペットが登場するという、いきなり、もうたまらん状態の曲です。
 エレピとギターの絡み、密かに蠢くエレキベースも無駄が無く、独特のニュアンスが従来のジャズを超越しています。マイルスもこういう単純にしてカラフルなビートに乗ってアドリブするのは得意で、例えば1954年の「Bags Groove」とか1959年の「So What」あたりと共通する快感があります。
 さて気になるジョン・マクラフリンは5分57秒目あたりから主役となり、ここは明らかにテープ編集の痕跡が聞き取れますが、本当にジャズでもロックでもない演奏を先導するフレーズの妙は流石です。またそれをジャズ側に引き戻すのがウェイン・ショーターという演出に繋がるわけです。そして10分45秒目あたりで再びテープ編集があり、マクラフリンが再度躍り出てキーボード群と激しく対峙した後、巧みなテープ編集が幾度か重ねられて御大マイルスが締め括るにかかるのですが……。
 という展開がどうゆう結末になるかは聴いてのお楽しみです。なんだ! これはテープ編集じゃないのか!? ジャズにこれが許されるのか!? という怒りは当然ではありますが……。まあ、そのあたりがロック・ジャズと私が決めつけるところでもあるのです。

B-1 In A Silent Way / It's About That Time
 これもジョン・マクラフリンが主役を張って導入部を演出していきます。それは穏やかな草原の風景にも似ておりますが、ショーターのソプラノサックスや複数のキーボード群、デイブ・ホランドの弓弾きベースが最高のスパイスで、そこにマイルスがフワッと入ってくる瞬間の厳かな雰囲気は、何度聞いても飽きません。
 そして一転、4分10秒目あたりからは大ファンク大会♪ キメまくりのベースとドラムス、鋭いツッコミのギターとキーボードが、巧みなテープ編集と相まって効果的です。それは隙間だらけの擬似空間でもあり、そこへ何時、誰が入り込んでくるのか? というスリルとサスペンスがいっぱいという仕掛けです。
 こういう緊張が続いた後、10分27秒目からは必殺のリフが現れて思わずノリノリ♪ うっ、これはサンタナじゃないのか!? 確かに1970年代のサンタナが頻繁に使っていたリズムパターンです。ちなみにサンタナがデビューしたのが、このアルバムが発売されたのと同じ1969年でしたから、なんの因果か?
 で、11分50秒目あたりからは、お待ちかねのマイルスが本格参戦して、クールに熱いフレーズを聴かせ、さらに13分10秒目からは、それまで大人しくしていたトニー・ウィリアムスが激しく心情吐露! ここは本当に大興奮ですよ♪
 しかし大団円は、なんとテープの切り貼りと思われる処理で、最初の静寂の部分にリターンするのです。ジャズ的な観点からすれば完全に???なんですが、これがなかなか気持ち良いという……♪ はははっ、どうだっ、ジャズはこれから、こうやって生きていくんだっ! というような開き直りが、ここでは素敵だと思います。

ということで、これはメチャ気持ちの良いアルバムです。ジャズは難しい音楽ではありませんよ。あれっ、これはジャズじゃなくて、ロック・ジャズでしたね……。不覚でした。

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日常!

2006-02-09 16:14:09 | Weblog

1日が、早いですねぇ。ついこの間、お正月と思っていたら……。でもこういう日常の積み重ねが人生を作るわけですから、一期一会で生き抜きたいということで、本日は――

Jimmy Villotti & Massimo Farao Quartet Live (Azzurra)

いよいよ冬季オリンピックが開催されるイタリアは、なかなかジャズが盛んなところで、特に若手~中堅に知られざる実力者がひしめいているようです。

このアルバムも、そんな彼等の日常的な演奏の一場面を切り取りましたというライプ盤で、何故か値段もバカ安♪ しかしその割りに中身はジャズの楽しさがいっぱいです。

メンバーはジミー・ヴィロッティ(g)、マッシモ・ファラオ(p)、ウェイン・ドッケリー(b)、ボビー・ダーハム(ds) というカルテットで、ベースとドラムスの2人はアメリカでも活躍していた黒人ですから、強靭なスイング感満点の演奏は保証付き♪ 録音は2002年11月23日で、その内容は――

01 Mr.Altman
 マッシモ・ファラオのオリジナルですが、元ネタはコルトレーンの「Giant Steps」というのがミエミエです。肝心の演奏は快適なテンポの中でジミー・ヴィロッティが爽快にギターを弾きまくれば、マッシモ・ファラオも負けじとファンキーなフレーズを織り交ぜて迫ります。バックの黒人コンビもツボを外さずに盛り上げています。

02 Ancora Tu
 ジミー・ヴィロッティのオリジナルでミディアム・テンポの穏やかな曲ですが、リズム隊から厳しいツッコミがあるので、油断出来ません。そして演奏が進むうちに不思議な黒っぽさが漂ってきます。ベースのウェイン・ドッケリーが好演です。

03 Stucky
 これもジミー・ヴィロッティのオリジナルで、モード全開の曲調が明らかに白人ギタリストの巨匠であるパット・マルティーノを意識した演奏になっています。ただし残念ながらそこまでテンションは上がらず、テクニックも思い余って技足りず状態……。しかし、この一生懸命さは憎めません。またそれを助けるのがリズム隊のスイング感満点のサポートで、特にマッシモ・ファラオはウィントン・ケリー風の良いフレーズを弾いています。

04 Marta
 マッシモ・ファラオ作のボサノバ曲ですが、これが完全に大野雄二の世界♪ 歌謡曲というか、なんかルパン三世しています。ホッと息抜き、と言いたいところですが、若干、ドラムスが叩きすぎでイマイチ和めません。悪く言えば学生バンドのようです。

05 Lacrime Viennesi
 ジミー・ヴィロッティのオリジナルとなっていますが、おそらく元ネタは「You'd Be So Nice To Come Home」でしょう。その演奏は快適で、多少のミスもそのノリの良さでカバーされています。このギタリストは写真で見るかぎりベテランのようで、モードも巧にこなしますが、どちらかと言えば、このような歌物系が合っているように思います。それはピアニストのマッシモ・ファラオも同様で、ここでの心から楽しそうなノリは最高♪ 最後まで狂ったようにスイングしていきます。

06 Ducky Is In Town
 マッシモ・ファラオ作でラテン調の楽しい曲ですが、リズム隊が垢抜けない雰囲気なのが残念です。全員がどうやって演奏していいのか迷っている雰囲気が濃厚ですが、しかし不思議なのが、ギターのジミー・ヴィロッティだけが、なかなか素晴らしいソロを聞かせていることです。全く???な人です。

07 Tommaso
 これもマッシモ・ファラオ作になっていますが、どこかで聞いたような愛らしい曲です。演奏全体はあまり盛上がらず、ミスも散見されるという情けない出来です。まあ、これも日常的なライブ演奏のヒトコマとして……。

08 Penombra
 ジミー・ヴィロッティ作で、セロニアス・モンク味が濃厚な重たい曲です。当然、モードを導入して暗く展開されていきますが、リズム隊がなかなかに刺激的なので、ダレません。むしろ不思議な気だるさが心地良いほどです。それにしてもマッシモ・ファラオは良い音、出します。

09 Wespoint
 タイトルどおり、ウェス・モンゴメリーに捧げたと思われるジミー・ヴィロッティのオリジナルで、所々でウェスのリックが飛び出しますが、もちろん足元にも及びません。しかしそれに落ち込むこと無く、あくまでも自分のノリで演奏を展開していくジミー・ヴィロッティは、かえって潔いと思います。それゆえにコーラスを重ねる毎に白熱していく彼のギターは、いかにもジャズの魅力! 続くマッシモ・ファラオもハードバップ丸出しで楽しくスイングしていますよ♪

10 Freddie The Freeloader
 オーラスはマイルス・デイビス作の有名なオリジナル・ブルースです。これはバンドのラスト・テーマも兼ねているような雰囲気もあって短く演奏されますが、案の定、お礼の言葉とメンバー紹介があります。このムードがジャズの生ライブの楽しみです。

ということで、演奏そのものは上手い学生バンドという雰囲気ですが、実はこういうブツこそが日常的な愛好盤に成り得るのが、ジャズの恐いところです。けっして名盤として後世に残ることはないでしょう。でも、好きなんです♪ 特にピアニストのマッシモ・ファラオは最近のお気に入りです。

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