九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

グリーンスパンの懺悔  文科系

2014年12月03日 00時04分25秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 こんなやり口で世界が深閑とさせられたのだと、100年に一度の破綻が起こったのだと、もう一度確認しておきたい。08年10月の拙稿である。
 これだけのことで、虎の子の家を取りあげられた上に借金漬けで街頭におっぽり出されたサブプライムの人たちをずーっと無数に生んできたのである。アメリカだけでなく、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアにも。
 この時の傷も全く治っていないはずなのに、「アメリカの株がまたしても最高値!」って、一体どういうことだろう。政府などがおんぶにだっこでつり上げているだけなのだ。金融界の「信用」ってそんなものだと、「100年に一度の悲劇的危機」から思い知らされたのがつい6年前のはずだけど??
 このリーマンショックで中低開発国からも外資が引き上げられて、それらの国も莫大な被害を被ったというのが、国連スティグリッツ報告の内容である。


【 金融崩壊、あきれた内幕  文科系 2008年10月24日 | 国際政治・時事問題(国連・紛争など)
 本日の毎日新聞夕刊に、アメリカ前連邦準備制度理事会(FRB)議長・グリーンスパンのあきれた談話が紹介されている。06年1月まで18年間、アメリカの日本銀行総裁に等しい地位にあった彼が、今にして「こういう過ちを犯した」と告白したのである。その内容が、「まったくあきれた話」という他はないのだ。米下院公聴会の質疑応答の報道。

 議員質問「FRBはサブプライム絡みの融資過熱を止める権限を持ちながら行使しなかったのではないか」
 グリーンスパン「金融機関に自社の利益を追求させることが、結果的に株主保護につながると考えていた。今振り返れば過ちだった」
 こんなこと、今振り返らなくても当然分かっているはずの話だろう。チューリップバブルにせよ、ほんの少し前の日本の住宅バブル弾けにせよ、過去に無数の例があるのだから。住宅値上げが永久に続くことを前提にしなければ、サブプライム・ローンや、証券会社によるサブプライムローン証券化などできる話ではないはずだ。ネズミ講を、小さな破綻のうちに止めなければ何百倍の破綻になって返って来るというのと同じような話なのだと思うのだけれど。

 議員質問「デリバティブの一種『クレジット・デフォルト・スワップ』(デリバティブなど金融商品損失補填のためのみの保険。これがあるのでサブプライム住宅債権組み込み商品がスリーA格付けなどになった)の取引を規制しなかったことについて」
 グリーンスパン「一部、間違いがあった」
 これも分かり切った話だったのではないか。デリバティブはどこかで躓けば連鎖焦げ付きが起こり、その焦げ付きに対する保険金給付額は実態経済の何十倍にも上ると。またしかも、それらが一斉に請求されることになるはずだから、支払い不能に陥るはずだとも。こんなことも、学者ならばほとんどすべてが指摘してきたことだったはずだ。このスワップの取引残高は本年6月末現在で実に、約5300兆円!に上ると記されていた。

 なんのことはない。「毒を食らわば皿まで。行く所まで行くしかない。俺ら、最後には逮捕されるなー」という、まるでネズミ講運営者そのもののようなやりかたに思えたのは僕だけだろうか。ドル流通調整の「マエストロ(巨匠)」と仰ぎ見られた人物の、これが、反省なのだそうだ。呆れてものが言えない。

 もっとも、日本の政官界も同じような事をやってきたと思う。選挙目当てには、歳出を使いたいだけ使って、高所得者への税はとことんまけてやり、足らなくなると一般ピープル対象に消費税値上げや国民負担増、と。挙げ句の果てが、1000兆円近い公的借金累積の山。
 与党が出す消費税値上げ案の審議は、予算決算だけでなく金額が多い特別部門の貸借対照表を全て出させてからでなくてはならないと思う。例えば、問題の社会保険・医療費・薬代などや年金だけでなく、介護保険も、道路特定財源なども。初めて本格的に始まったこれらの国会質疑の断片からでさえ、その支出内訳には魔物が潜んでいるとしか、国民には思えなかったのであるから。
「各省庁の、野党への資料提出は与党の許可を経てから」
こんなことを与党が官僚に指示したのは、やましいことが無数にあるからだろう。

 とにかく、何を置いても、自民党を引きずりおろそう。
 そこからしか、何も始まらない。 】


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朝鮮日報より   らくせき

2014年12月02日 09時17分33秒 | Weblog
米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが1日、日本の長期債務格付けを「Aa3」から「A1」へと1段階引き下げたことは、事実上アベノミクスが失敗したという評価が下されたと言える。A1という格付けは韓国を下回り、オマーンやチェコと同一水準だ。


 
 先進国で最悪の水準にある政府債務は、GDPの2倍を超えて増え続けている。安倍政権発足当時に997兆円だった政府債務は1038兆円に急増した。一方で、安倍首相は8%から10%への消費税率引き上げを当初予定の来年10月から1年半先送りした。ムーディーズは「消費税引き上げ時期が遅れ、日本経済をめぐる不確実性が高まった。日本政府が財政赤字削減目標を達成できない可能性がある」と指摘した。


 格付けの引き下げは、国債価格、株価、円のトリプル安につながる可能性がある。安倍首相は輸出増大に向け、意図的な円安政策を展開し、株価が上昇した。しかし、最近は日本経済に対する根本的な不信感から円と株価が同時に下落する「悪い円安」を懸念する声が上がっている。ロイター通信は「他の格付け会社も日本の格付けを引き下げる可能性がある」と指摘した。


 円安で日本の国富の流出も起きている。日本経済新聞は1日、円安による交易損失(国内所得の海外移転)が7-9月だけで24兆円に達したと推定した。円安で日本製品を海外に安く売り、海外から原材料を割高で輸入した結果だ。円安政策は企業が生産設備の多くを海外に移転した事実を考慮しない「時代遅れの政策」だという批判も聞かれる。


 円安で中国と日本のGDP格差も広がっている。2010年に中国のGDP(5兆8786億ドル)が初めて日本(5兆4742億ドル)を上回り、今年は日本のGDPが4兆8000億ドル程度で、中国(10兆4000億ドル)の半分程度に低下する見通しだ。与党自民党は14日の衆院選で安倍政権の経済再生努力に対する支持を訴えている。ロイター通信は「安倍首相の期待通りに状況が推移するかどうかは確実ではない」と報じた。毎日新聞は「野党は格付け低下問題で安倍首相に対する批判を強める見通しだ」と伝えた。


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日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話   文科系

2014年12月02日 08時17分55秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 国際金融が、デリバティブというものが、いかにペテンに充ちていて世界的規制が必要なものかという、ここで最も古い部類の拙稿をご紹介してみたい。まだリーマンショックの前2007年1月に、ある本の内容をここに紹介した拙稿だ。著者はモルガン・スタンレーの元トレーダー、フランク・パートノイ。最近明らかになったことだが、南山大学も藤田保健衛生大学も、国家で言えばギリシャがゴールドマン・サックスにやられたのも同じこの手口であろう。デリバティブというものが歴史的にどういうものであったかが、よく示されていると思う。はっきり言って泥棒である。


【 日本財界が2週間で7500万ドルをパクられた話   文科系
2007年01月21日 | 書評・番組・映画・演劇・美術展・講演など

 95年2月27日イギリスの名門銀行ベアリングズ社が倒産した。シンガポール支社の28歳のデリバティブ・トレーダーが10億ドルの損失を出したことが原因である。イングランド銀行が主要銀行に呼びかけて緊急救済検討会議を持ったが、「白紙の小切手にサインすることと同じ」という事態であると認定して、救済を断念。この倒産が、ベアリングズ社に貸していた日本の銀行の焦げ付きや、デリバティブ損失絡みの東京株式市場暴落(14ヶ月続いた)やをもたらし、日本企業の春の決算期は粉飾の必要に迫られていた。従来保守的であった日本企業にたいして、米デリバティブ・セールスの絶好機到来なのである。「手っ取り早く儲けて」損失を隠したがっていた日本企業に「歴然たる詐欺を働いているよう」なデリバティブが、さー売れるぞ! 著者は語る、「誰が実際にベアリングズ社に金を貸していたかかが分かったときの至上の喜び!」!
 モルガンのある上司の言葉 「われわれは死に物狂いのクライアントを愛し、彼らを見ると興奮する。われわれは必死の人々からたくさんの金を稼がせてもらってきた」
 しかも、「日本の証券会社はアメリカよりずっと進んでいて、何年も金融的な詐欺を手がけて、みごとに成功していた」、「日本の最大手の投資家たちは、どれだけ切羽詰まっても、もう財務的詐欺を犯すために日本の証券会社を使いたがらなかった」

 一体どんなデリバティブ商品を、モルガンはこの年度末粉飾決算までの1ヶ月足らずの間に売ったのか?

 アメリカン・モーゲージ(mortgage、抵当)・インベスティメント・トラスト
 ここには「高価なプレミア部分」と「安価なディスカウント部分」とが含まれている。この場合具体的には、前者は住宅ローンの支払い時に使われる小切手が政府系の金融機関にプールされるのだが、このプールをモーゲージ証券の基本とするというような担保付抵当証券の一種であり、後者は「アメリカ政府によって将来の特定の日付に支払われるただ1回の支払いである」。
 作者はこれを売った場合の以降の成り行きについて、例えを使ってこう語る。
 
 100ドルで、金入りの壺を「いつでも超特大プレミア、利子付きで換金します」という鳴り物入りで売る。体積の半分は金で90ドル、あとの半分は銅で10ドルである(客には中身は見えない)が、その「平均」体積の半分の50ドル分は将来でないと換金できない仕組である。さて客たちが最初の半分を契約後直ぐに換金に来た。「平均」50ドル分が実に90ドルで支払われたのだ。銅を含まず金の部分で支払っただけなのであるが、将来はもっともっと!と、客は一安心。なんせ短期間に8割の利子である。将来はどれだけの利子になるか!
 舞台裏の実際はこうだ。最初に金部分を換金してあげただけ、将来の「半分」は当然、銅の価値しか支払われない。「平均」半分の50ドル分が10ドルにしかならないのである。しかしその将来には、壺を買った担当者も退職、新担当者には「情勢が変わった」とかなんとかで、後は野となれ山となれ!いずれにしても双方共に「他の誰かの問題となるだろう」。

 モルガンのセールスマンたち皆がこのAMITのことをこう呼んでいたという。shamit(にせもの)、scamit(ぺてん)と。なおこれを作者はこう語る。「すべてのデリバティブの母であり、ウオール街でも、モルガンの60年の歴史でも最も儲かった取引であった」と。

 この商品を買ったのは日本のリース会社や商社だそうだ。これによるモルガンの利益は7500万ドル、それもわずか2週間の仕事だ! 因みにこの間3月末まで、米国国債市場も急騰したということである。】

 後のリーマンショックは、こういうものに付いたバブル高値が破裂したのである。今は、株や債券に国家がどんどん投資して、その実態よりも遙かに高く偽装するようになってしまった。日米両国家などがそういうことに励んでいるのである。
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朝鮮日報より   らくせき

2014年12月01日 10時17分13秒 | Weblog
日本の読売新聞系列の英字紙「デイリー・ヨミウリ」(現ジャパン・ニューズ)が過去に日本軍の淫売窟(原文ママ)に連行された女性について、「sex slave(性奴隷)」などという表現を使用したのは不適切だったと謝罪したことについて、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「韓中の政府や歴史家の見解に挑戦するものだ」と評した。

 NYTは読売が「日本の政府と軍隊が強圧的に連行したというのは客観的事実ではない」との立場を示したと説明した。読売は謝罪文を英字紙だけでなく読売新聞にも掲載した。

 NYTは「読売の謝罪は過去20年間、性奴隷という用語を使用したことが、日本の第2次世界大戦中の行為に対する否定的な描写に見えるのを修正する意図がある」と分析した。

(略)

 NYTは第2次大戦の歴史をめぐる日本国内の論争が、安倍晋三首相が2012年に就任して以降エスカレートし、安倍首相が日本の過去の歴史に対するプライドを回復することを自身の政治勢力の主なテーマにしていると指摘した。また、安倍氏が軍の淫売窟に対する朝日の報道を問題視したほか、公共放送NHKに監督委員会を新設するなど、自身の信念に反するメディアに干渉してきた事実も伝えた。

 NYTは読売新聞の渡辺恒雄会長が安倍首相と近い関係にあり、これまで安倍首相を強力に支援してきたことから、批判論者が読売の謝罪を「罪科を認めたように偽装しようとする政治的意図がある」と受け止めているとした。

(略)

渡邊さんは、安倍さん応援団のマスコミ団長さんかな?



 
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新聞の片隅に載ったニュースから(178)    大西五郎

2014年12月01日 09時42分48秒 | Weblog
外国特派員協会で自民が会見見送り 「責任放棄」と批判(14.11.30 中日新聞)

【パリ=共同】フランス公共ラジオは、自民党が衆院選に絡み日本外国特派員協会で記者会見することを見送ったと報じ、経済大国の与党として「責任放棄」だと批判する同協会側の声を紹介した。
自民党側は、時間がないことが会見見送りの理由だと説明。同ラジオは「自民党幹部たちは、日本人記者よりも手厳しいといわれる外国の報道陣を避けたがっている」との疑念が特派員らの間に広がっていると指摘した。同協会で記者会見の企画運営を担当するジャーナリストのデビッド・マクニール氏は「自民党として質問を受ける責任の放棄だ」と指摘。選挙の際に自民党が同協会で記者会見をしなかったことは「記憶がない」とした上で「がっかりしている」と話した。

□□――――――――――――――――――――――――――――――――――――――□

 前の日の朝日新聞に「首相ピリピリ TV局に『声選んでいる』■個人の発言批判」という記事がありました。それによりますと衆院解散を宣言した18日夜、首相はTBS系の「NEWS23」に生出演しました。「アベノミクスは感じていない。大企業しかわからへんのちゃう」という景気回復についてのインタビューが流れると、スタジオの首相がキャスターに向って「街の声ですから、選んでおられると思いますよ」「事実6割の企業が賃上げしているんですから。これ全然、声反映されていませんが。おかしいじゃないですか」と云いました。
またこの記事は、衆院選を前に、安倍晋三首相や自民党が、メディアの報道やネットの発信に神経をとがらせているとして、自民党は20日付けで、NHKや在京民放TV5局に、選挙報道の公平中立を求める文書を送付。街頭インタビューについても「公平中立、公正を期していただきたい」などと、番組の構成にも「配慮」を求めた、としています。
安倍首相は批判されることを極端に嫌う性格のようです。国会の質疑などでも、野党が首相の政治手法や政策を批判しますと、俗に云う“色をなして”反論する光景をよく視ます。
また安倍首相は「内閣の責任者は私です」。「総理大臣としての私が決めます」というような発言をよくします。それでいて、官邸での毎日の記者団の「ぶら下がりインタビュー」には応じていません
閣議が行なわれる日のテレビのニュースで、閣議前に控え室に閣僚が揃い首相を待っていると、入室してきた安倍首相はいきなり椅子に座る映像が流れます。閣僚たちは首相の入室を起立して頭を下げて迎えますが、首相は椅子の前で立ち止まって閣僚を見回し、軽く会釈してから椅子に座ればいいのにと、「首相は君主になったつもりなんだろうか」といつも思います。
首相を含め与党の各部門の責任者は「オレ達が政治をしてやっているのだ」ではなく、報道陣の取材にもっと頻繁に応じ、やろうとしている政治について国民に説明すべきです。その仲立ちをするのが報道陣です。外国へ向けての発信は外国特派員を通じて行なうのです。「きびしい質問にたじろがず」に、会見の機会を喜んだ方がいいと思います。
                                                  大西 五郎
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小説 「歩く」 (後編)   文科系

2014年12月01日 00時12分46秒 | 文芸作品
 同じ日二十時過ぎ、森本に、定例コースを終えて部屋に入っていく二人を開け放たれたドアの外やや遠くから見る機会が訪れた。森本はその場で仕事らしきものを見つけて座り込み、さりげない観察を始める。
 律子がまずベッドの端に座る。次いで雅実がその前に立ち自分の両手をつかませて、例の「キヲツケ」をやらせている。そのうちの何回かは、立った時の律子の右膝を雅実が右手で伸ばす。「きゅっと真っ直ぐ!」、いちいちそんな言葉が森本にも届いて来る。
 起立の後は、伝い歩きによるトイレ行、入れ歯を外してのうがい、パジャマへの着替えへと続いた。雅実はほとんど手を出さずに、ただ見つめている。森本も改めてあきれるほどに一つ一つの行為がゆっくりで、延々と続いてゆく。トイレなどは中でうたた寝でもしているのではないかと、いぶかられるほどの長さだ。
 そして着替えは、まず腕を袖に通した上着の前で指が何度も何度も行き来している。ボタンの掛け違えなどで律子自身が困ってしまった経験が、後遺症となって残っているようだ。近視力がおぼつかなく、ボタン掛けを指の触覚に頼らねばならぬことの結果らしい。やせ細って、かさかさで、右手に麻痺があるはずの指では、この触覚頼りも随分心許ないだろう、そう森本は見て取った。
 次に、パジャマのズボンの方がまた、大仕事である。脱ぐのとはくのとで二回、座ったベッドから柵を杖にして立ち上がらねばならない。はくときで言えば、座ったまま両脚をそれに通して、それからおもむろに立ち上がり、両手を交互に使ってゴムの部分を腰上までたくし上げていくというやり方だ。その間、残りの片手を震わせながら突っ張って、直立姿勢を支え続けねばならぬというわけである。こういった悪戦苦闘の着替えが結局、正味二十五分も続いたろうか。
 ゆったり座ってこれら全てを見つめていた雅実が、着替えが終わった瞬間に拍手を贈る。褒めていると言うよりも、できたことを喜んでいるという様子だ。律子は大きく肩を下ろして、ニソッとした笑いを返して見せた。
〈ほんとに、残った自立の力を大切にしようというやり方だ。僕らのような仕事の流れでの付き合いなら、とてもここまでは待てないね。そうしてみると毎日の『回廊一周』は、こういう自立の力を維持していく一番の基礎になると、十分知ってやってたんだよ。たしかに、これができる間は寝たきりにもならないし。それにしても律子さん、なんであんなに頑張れるんだろう。このエネルギーも、息子さんのあの気長さも、二人ながらこんな家族はちょっと見たことがないなぁ〉
 森本は、初めて意識して観察したこの結果に、ゆっくりと幾度かうなづいていた。しかしすぐ後に、彼の肝腎の疑問はこう続いていく。
〈それにしても、自立を大切にするにしても、それが、あの熱心さの訳ということじゃないでしょう?看る側か看られる側かどっちかが諦めちゃう場合だってあるはずだし?〉
 雅実が帰る素振りを見せた。ベッドに横向きに寝ていた律子が、不自由な右手をひらひらさせながら差し出し、いっぱいの笑顔を贈る。感謝のしるしのようだ。すると、雅実がその手を握り返して、握手となった。最近の帰りの儀式らしい。以前の『さよなら』の儀式は、律子が壁に沿って伝い歩きで部屋の外まで出て、そこで雅実がエレベーターまで歩くのを見送り、手を振って別れ合うというものだったはずだ。彼女は来訪者全てに、そうしていたものだ。
 

 森本が次に佐伯親子を観察するチャンスは、その数日後にやって来た。その日勤務が終わった十九時頃、二人が屋上にいると同僚に聞いて、行ってみることにした。親子がそこでこの頃よく何か「パーティー」をやっているらしいと小耳にはさんだからである。
 屋上エレベータールームの物陰で初めに目に入ってきた光景はこんなものだった。
 夕日が真西にあり二人が東のベンチに座っているとしたら、森本の位置はさしづめ南西というところだろう。既に幾分暗くなった朱一色の光景の中の二十メートルほど先に、遮る物なく親子が見えた。ハーモニカの音が響いている。雅実が吹いているのだ。風が遠い西の山脈から運ばれて来て、律子の細い白髪を絶えずふるわせている。外は意外に涼しいらしい。小さな木製のテーブルには、飲み物の缶がのっている。一本はビールのようで、その脇にあるのはピーナッツだろうか。
 ハーモニカの曲名は覚えていないが、旋律は森本にも確かに聞き覚えがある。それも、学校の音楽の授業で習ったものだ。吹奏二回目に入ったところで、森本は一番の歌詞を口ずさんでみた。律子が目をつぶり曲に合わせてアゴを出し入れしているのが見える、その動きに合わせながら。

 ”いくとせ故郷 来てみれば
   咲く花 鳴く鳥 そよぐ風
   門辺の小川のささやきも
   慣れにし昔に変わらねど
   荒れたる我が家に
   住む人 絶えてなく”
   (作者注 イギリスの歌。日本曲名は「故郷の廃家」。犬童球渓作詞)

 曲が終わって、目を開けた律子が雅実にほほ笑む。職員に人気のある、人の警戒心が解けていくようなあの「可愛い笑い顔」である。いや、あれよりもくつろいだ、小さなほほ笑みと言うべきだろう。それから、雅実がビールらしきものを飲むと、律子が真似をするように缶をゆっくりとあおる。雅実がピーナッツを口に放り込むと、律子もそれをつまんで口に運ぶ。また、西の方から風が来たらしく、二人の髪が揺れ、細められた視線が風上に向けられる。今日二人はもう幾度夕日を見つめたのだろうか。
〈今の律子さんには、日々の楽しみの全てが雅実さんなんだ。彼の来訪自身が、凄く大きい楽しみというだけじゃなくて〉
 森本が、様々な律子の言動の記憶をたどりつつ、見つけた感じをふっと表してみた言葉である。一人では歩けない。字も読めない。テレビ番組も、言葉が速すぎてまず分かりはしないだろう。他人との交歓でさえ普通のやり方ではおよそ不可能で、彼女はもうほとんど諦めかけているようだ。そんな律子にも、こういう楽しみがあった。
 夕風、夕日、飲み物、ハーモニカ、そして、これら全てを彼女とともにする雅実。今、森本には、目の前の二人のこれまでがほとんど解きほぐされて来るような気がしていた。

「生きていてくれるだけでよい」とは、ここでもよく聞く言葉である。しかしその気持ちがこういう相手にきちんと伝わるには、大変な行為の積み重ねが必要とされよう。これだけの弱者は嫌でもひねくれてしまうのが普通ではないか。「こんなじゃ、生きていても仕方ないねぇ」、よく呟かれる言葉だ。けれども、周囲の他人が無意識にせよこの言葉を真に受けた体で現に振る舞うとしたら、それはもう論外というものではないだろうか。本人が意志を持ってここまで生き続けてきたという事実が眼前にあるのだから。
 こんな言葉や、それらへの日頃の疑問、抵抗を改めて反芻してみながら、森本は目の前にある夕焼けの中へゆっくりと歩き出していった。
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