九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

「よたよたランナーの手記」(85) またまた・・・  文科系

2014年12月11日 04時40分55秒 | Weblog
「よたよたランナーの手記」(85) またまた・・・  文科系

 10日に2日続きでジムへ。前日9日の1時間9.2キロから、9.4キロへと伸びた。それも、ほとんど無理をせずに。
 この日は、連日走ってもなんともないと分かった事、それも最近の怪我ブランク数か月以降では記録更新というような高速で連日走れたということで、まーとにかく嬉しかったこと! 9.4キロといえばもう、長く苦労したアキレス腱痛の直前5月5日の9.6キロ以来のことになる。そして、今日の感触では、これもすぐに抜ける。とすると次にはもう、4月27日の9.7キロと3月15日の9.85キロしか残っていない。この歳になってこんな復活が出来るというのは、老人らしく苦労、工夫してきただけに充実感を覚えるのである。

 何よりなのはこのこと。12月1日の8.8キロからこの10日までで600メートルプラスできたことから、こんな確信が生まれた。1時間走で今日よりあと600メートルプラスなんて難しいことではない、と。つまり、半信半疑だった念願の1時間10キロが射程距離に入ったということ。これは、10年に慢性心房細動カテーテル手術にまで至った不整脈(期外収縮、そして走行中の突発的心房細動)に悩まされ始めた07年ころの走力が復活したという事になる。

 老人らしい経験から来る知力を働かせれば回春が自由自在とも言えて、すごく幸せな気分になるのである。こんなことさえも叫びたい。 
「1時間10キロ走れる73歳は、健康な50代と一緒である」
 まー、少なくとも心臓、血管、筋肉はということだろうが。

 話は変わるが、この選挙。歴史の転換点になるように、大事なものと思う。安倍が追随している今の米国と同様に「実質ファシズム」へと、この選挙の結果次第で向かっていくだろうというような。いや、そういう方向へ向かわせるべく、安倍がこの選挙を決断したということこそ、むしろ正解だろう。イラク戦争のような「嘘の理由をでっち上げた戦争」が、マスコミなどを総動員して出来てしまうとすれば、こんな体制はもうファシズムと言うしかない。なんとなれば、嘘の理由で起こした戦争でその国の若者が多数死んだのだから、これはもう完全に犬死にである。誰かの密かな利益からの犬死強制である。民主主義国家というならば、国民の命が最も大切なものだから、こんなのは民主主義国家とは言えないはずだ。そんな国と集団的自衛権を行使し合うって、もうバカじゃないか。「何があってもついて行きます」と叫んでいるも同じではないか。若者を犬死にさせた米国の国旗も踏みつけにして良いはずならば、そんな国に着いてきますという国の旗も、もう地に落ちたも同じである。流石に国民主権という金看板・立憲主義を投げ捨てる政権だけの事はある!
 そしてさて、一事が万事で、安倍のやろうとしている事はどうも、この米国よりもさらに酷い方向のようだ。フクシマには、何の反省もなし。秘密保護法など、前の選挙公約になかったファッショ的法律をどんどん通してしまう。ヘイトスピーチは内心奨励。超格差社会も、もっと勧めるようだ。彼の政権下なら、この格差が米国よりも酷くなるという気がしている。
 中日新聞もどうも、僕と同じような心配をしているらしく、同じような警鐘を鳴らしているようだ。改めて、立派な新聞と思うのである。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「よたよたランナーの手記」(84) 100m更新  文科系

2014年12月10日 12時29分51秒 | 文芸作品
「よたよたランナーの手記」(84) また100m更新  文科系

 速歩きの効能から1時間に走った距離を、1日、8.8キロ、4日に9.0キロ、6日が9.1キロと伸ばしてきたが、9日にはまた、9.2キロになった。30分2回を4.5キロと4.7キロで走った。やはり、走行中も事後もほとんど疲れは感じず、きわめて普通の自然な生活である。これには、今回の順調な伸びが無理をしていず、順を追ってということだからだ。僕によく起こった筋肉系を痛めない工夫のつもりなのだが、それでこの伸びは嬉しい。

 10月30日の9.2キロ、11月1日の9.3キロを越えれば、あとは3~4月最高時の9.85キロが待っている。順を追ってやればこれを越えて、念願の1時間10キロを達成できるという気分が今は大きい。これから、ジムの合間に戸外速歩き1時間をやってジムでは100メートルずつ上げていくことができるだろうか。これが順調にいけばあと8日通ったら1時間10キロなのだが、そう簡単には行くまい。今はまだ走行中に苦しくないのだから、苦しくなった時点が正念場だ。そんな時はまー、前進なく止まっていて時を待っても良いのだ。力を蓄える期間として。

 速歩きの効果について、こんな言葉を聞いた事がある。「時速7キロ以上で歩ける老人は、長生きをするという統計がある」。これは、こういう歯科医の言葉と同じような内容なのだろう。「8020運動と言って、80歳に自分の歯が20本ある人は長生きする」と。その理由をかかりつけの歯科医に聞いたら、こんなことを語ってくれた。「血流の良い人は、歯茎などに免疫力が高いのです」。逆も真なりで、歯が多く残っている人は血管が正常なのだということだろうか。

 余談だが、今日の中日新聞17面の中村佳子・JT生命誌研究館館長の記事が興味深かった。日本の文化・風俗の劣化の問題として。僕は、この人のファンである。難しい人の心、感覚の問題をいつもうまく扱っていると思う。それもよくあるような今時の三文文学者のあやふやな文化論とは違っている、実があるように思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝鮮日報より    らくせき

2014年12月09日 11時25分35秒 | Weblog
韓国旅客船セウォル号沈没事故の犠牲者遺族と、同事故の原因究明などを行う協議体関係者が8日、日本から帰国した。一行は3日から6日間の日程で訪日し、日本の災害・事故遺族らと面会した。

 仁川空港で記者会見を行い、「韓国と同じように日本の(事故)遺族も真相究明のために10~30年間努力していた」とした上で、「両国の遺族は惨事の再発を防ぐために徹底した真相究明が行われなければならないという点で意見が一致した」と説明した。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブラジルWCの敗因、やはり!  文科系

2014年12月09日 07時15分01秒 | スポーツ
 ブラジル大会の敗因については、ここの「ザックジャパン」連載でいろいろ書いてきたが、この度、その「重大な一端」を示す大事な資料が出て来た。紹介したい。

 スポーツグラフィック・ナンバー866号は、ブラジル大会日本敗戦にかかわって非常に興味深い特集である。なんせ、ザックジャパンの『19冊の大学ノートに綴られた日本代表1397日の記録』、『「通訳日記」で読み解く』、『ザックジャパンの遺産』という特集なのだから。この『貴重な一次資料』には、やはり「あれ」が存在した。それも非常に厳しい形で。大会前2回の欧州遠征から本番まで、中心選手と監督との戦略対立が結局溶けないままに本番に臨んで行ったという問題である。まず、この対立がどう起こり、エスカレートしたかという日記文章を引用してみよう。13年10月のセルビア戦敗戦後のことだ。

『セルビアに0対2で敗れた翌日、本田は練習場でザックに個人面談を申し込んだ。そこで本田は驚くべき提案をする。当時の模様が、日記にはこう書かれている。
〈(前略)相手に引かれると裏のスペースがなくなる。その状況下での崩しやアイデアをトレーニングで発展させたい。(後略)〉』
 この提案にザックが反論し、さらに遠藤など他の選手も本田側に加わって、その後対立が最も激化していった局面がまた、日記にはこう描写されている。上でも分かる通り〈 〉が付いた文章が日記本文なのである。
 主として、本田と遠藤、〈しっこいくらいパスを回してポゼションを高める〉
 対するザック、〈「本当に心の底から、我々のサッカーを信じてやっているのか? 私はそうは思わない。もっとトライすべきであって、深くとことんトライした上で、監督である私に意見を言った方がよいのではないか?〉。〈監督「君たちに少しでも疑問があったら、他のメンバーまでもがついてこなくなる。そうなれば、私はもはやここにいる意味がない」 本田「ここで場を丸く収めるために『はい、分かりました』と言っても、意味がないと思う。お互い納得いくまでディスカッションしたい。俺は、もっと攻撃に人数をかけた方がいいと思っている〉

 この対立の中身はこう要約できる。サイドバック二人が上がる場合を作るなど攻撃に人数をかけて、中央攻撃も含めて繋ぎ尽くして得点したいと主張したのが、本田、遠藤ら。対する監督は、自分が与えた今までの戦術をもっと徹底的にトライして、その精度をとことん上げて行って欲しいという主張。そして、この対立の最も鋭い争点の一例は、この記事の筆者木崎伸也によれば、こういうことになるのだそうだ。
『ザックのイメージする大胆で速い攻撃は、ボールロストを想定した戦術だ。両サイドバックの同時オーバーラップなど論外なのだ』

 さて、「既成攻撃法の精度アップ」か「人数をかけた徹底繋ぎ攻撃の導入か」。こういう対立が解けないまま中途半端に本番を迎えていったことは確かだろう。こんな場合、普通なら監督がそういう選手を切る場合もあるのだろうが、ザックはそれをしない人なのだ。

 さて、結果総括の一端を本田がこう述べているのは、既に有名な話だ。自分のサッカー観をもう一度根本から作り直さなければいけなくなった、と。この言葉が、ブラジルの自分が結果から見て間違っていたと述べているのは明らかであるが、ザックが正しかったと語っているわけでもない。いずれにしても、ブラジル大会の代表が、中途半端な攻撃トレーニング、攻撃法のままに本番に臨んだというのは確かなことだろう。ドイツ大会にも似て、重要な教訓が含まれているはずだ。
コメント (45)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

琉球新報より    らくせき

2014年12月08日 09時44分32秒 | Weblog
琉球新報が最高裁の判事の国民審査について社説をのせていました。

衆院選と同じ14日に最高裁裁判官の国民審査が行われる。「憲法の番人」としてふさわしいかどうかを国民が直接チェックする重要な機会であることを確認したい。
 最高裁は15人の裁判官で構成される。そのうちの1人が司法トップとなる長官だ。長官は内閣の指名により天皇が任命し、残る14人は内閣が任命する。憲法が定める国民審査は、国民の多数が適任ではないと判断した裁判官を辞めさせることができる制度だ。主権者の国民が司法をチェックするためのものだ。
 だが実際にはこれまで罷免された裁判官はおらず、制度の形骸化が指摘されて久しい。投票方式など審査制度の在り方についてもっと議論を深めるべきだろう。以下略。

自民党政権の憲法違反の政治、違法すれすれの政治・・・本来それをチェックすべき仕事が裁判所に与えられている。
しかしチャンと機能しているとは思われない。そんな問題意識が感じられる。




  
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

仲裁は時の氏神     らくせき

2014年12月08日 09時34分21秒 | Weblog
オリンピック委員会が冬の五輪と夏の五輪で
それぞれ隣国でも競技会場を設けたら?と提案。

韓国は国民感情から無理と返事をしたとのこと。

経済的な事情もあるけれども以前のサッカーと同じ発想。
よそから見ていると東アジアはキナ臭いのでしょう。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ガンバが優勝     らくせき

2014年12月07日 09時47分32秒 | Weblog
大阪のガンバがガンバって優勝。
少し前までは誰も予想しなかった結果。

予想といえば選挙は自民党が圧勝とのこと。
静かに時代の歯車が回っている音が・・・

私の息子が職につけたのはアベノミクスのおかげ。
しかし、これから先4年間の白紙委任状を安倍さんに
渡すことになるのはちょっと考え物。

逆転劇は起きるのか?
ここ一週間で何か変化は起こるのか?



コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「よたよたランナーの手記」(83) 速歩きの効果、その2  文科系

2014年12月07日 00時12分14秒 | 文芸作品
 12月1日、8.8キロ。マシンを使用できる30分2回を各4.2キロ、4.6キロと走った。11月初めに高熱が39度まででた風邪を引いて以降の最長距離として、11月24日の8.7キロを抜いたことになる。それで気付いたことが、前日30日にやった速歩き1時間の効果だった。それで、2、3日に用事のお出かけも兼ねて各30分程度の速歩きをやって、4日のジムに臨んでみた。時速7キロ以上という速歩きなのだが、案の定4日も凄く好調だったのである。

 前半30分は抑えて4.3キロで、後半が4.7キロまで行った。併せて9キロジャスト。後半の4.7キロの時のことだが、時速9.6キロが常用速度にできたなと感じた。つまり、ウォームアップを十分してからヨーイドンで走り出せば、今でも1時間9.5キロは走れるはずだ。が、そういうことをやると、筋肉系を痛めるというここ2年の体験があるので、抑えて抑えてというわけだ。特に現在の僕の場合、一歩先をにらんだ膝の補強が大事だと理解している。

 そんなわけで4日にはまだかなり余力も残っていた感じで、翌る5日は疲れも全く残っていなかったからまた速歩きを1時間試みてた。古井の坂の我が家ー御器所の昭和区役所ー川原通り(7丁目交差点)の公園回りー曙町・吹上公園経由で自宅へ、である。その間には時に20歩ほどの疾走も入れて、膝など脚力を鍛えたりした。だから、6日のランをとても楽しみにしている。工夫しつつ体を動かし、汗をかくことが、僕は本当に好きなんだナーと、いつもながら振り返りながらのことだった。

 5日が以上のようで、6日はやっぱり好調だった。4.4キロの4.7キロで9.1キロ。しかも、全く無理をしていないから、疲れが残っていない。心臓は勿論、筋肉の疲労もない。「速歩き+ほんのちょっとの脚力補強運動」の効能って、改めて凄いと思った。あと9回通って1回100メートルずつ上げていけば、心臓手術前後ブランク以前の08年以来、念願の「1時間で10キロ到達」となる。が、この道程も無理をせず抑えて抑えてと行くつもりでいる。

 速歩きが脚の毛細血管、血管を広げ、太くして運動、疲労に強い体にするって、ランニングの基礎理論通りだと痛感している。他の例では、こんなことも思い浮かんだ。ギターを毎日弾いている僕は、左手指の方が右手よりも遙かに力が入るのだけれど、左手甲の血管の方が右手よりも遙かに太く密なのである。右利きなのにいつのまにか、左手の方が疲れにくくなっているというわけである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説  道連れたち(その3)   文科系

2014年12月06日 09時14分10秒 | 文芸作品
 小学枚五年の春の夕方、団地の花畑のあちこちで毎日のように見かける初老の男に、長い逡巡の未に声をかけた。その場の花のことが挨拶代わりに誰もの口にのぼり、その度に中背痩身のこの男が、多めの白髪を揺らしてなにか頼りなげに返すほほ笑み。遠くまた近くからさりげなくそれを見、聴いていて、心が開いていったような気がした。満開のレンギョウとかの木々が後ろにぎっしりと並び、薄紫のスミレがその前の地面全体をおおって、その間から白が混じったピンクのチューリップが立ちのぞく、六畳一間ほどの横に長い花壇の前が舞台であった。
「すごくきれいだねえ。おじさんが作ったの?」
「ありがとう。おじさんの奥さんがほとんどやったんですよ、おじさんも少しは手伝いましたけどね」
「チューリップの色がすきだしぃ、スミレも変わった色だねえ」
「うん。── 植えた奥さんの方は、もう死んじゃいましたけどね」
 こんなやり取りをきっかけに、ぼつぼつと思い付きつつ問う恒秋、丁寧に応える幸田。その日それがいつの間にか、幸田の家に彼が招かれるという成り行きになったのだそうだ。
 幸田の家は惨状だった。畳や床には、かなり前の葬式の名残らしい物が散らばり、コップ、茶碗、コーヒーやジュースの缶そしてインスタント食品のスチロール容器、割り箸なども転がっている。これは一か所に集めてあるが、薄黒く汚れた下着を中心とした衣類の類い。郵便物はほとんど封も切られずに机の一角からこぼれ落ちている。恒秋は、幸田が彼にしてはきびきびと開けてくれた机の脇の空間にやっと腰を下ろし、あからさまにただ眺めた。
「汚くて悪いですね。何にもする気がおこらないものですから」
 ここまで幸田の語り口に何か引き込まれてきた恒秋に、こんな連想が浮かぶ。
〈母さんのように、外で待っててもらってばたばた片付けるんじゃなく、僕を入れた。こんな凄い所なのに〉
「おじさん、一緒に片付けようか?」
 ふっとそんな声が出て、隣室の流しに立っている幸田の横へ走り、食器洗いを手伝い始める。
「君、上手なんですねぇ?」
「上手ってことないよ。いつも父さんとやってるだけ」
「父さんが教えるんですか?」
「教えるってことないよ、こんなこと。母さんが看護婦だしぃ、このごろまた、試験勉強で忙しいみたいだしぃ」
「看護婦さんって、試験があるんですか?」
「病院で検査やってる父さんだってあるよ。おじさんは、仕事なにやってるの?」
「今は定年退職。前は新幹線作ってたんですけどね」
「すごい! 大きな工場だねぇ?」
「工場も行くけどね、そこでどんなふうに作ってもらうかという、設計の研究する所」
「じゃあ試験あるでしょう?」
「試験、………はないよ。おじさんが良くできるからかなぁ?」
「ふーん、よく勉強したんだ」
「うん、学生の時からね。おじさん、ほんとうによく勉強したよ」
「じゃ、いい大学入ったんだ」
「うん。トウダイって知ってる?」
「すっごい! それで、新幹線の設計なんて、ほんとにすごいねぇ」
「すごくないよ。今はこんなぐちゃぐちゃな所で寝て、起きてる。何にもできない人だと奥さんに言われてたけど、奥さんがいなくなってそれがほんとによく分かったという、だめな人ですよ」
「花畑作りは上手だよ」
「あれはね、定年退職の頃から奥さんがほんとに一生懸命教えてくれて、僕も一生懸命習ったんです。毎日、あれだけやってました。今はもっと、花畑だになっちゃいましたけどね。『箸は?』と訊きそうになって、『自分で持ってきてよ』とも言われないんだと、はっと気付く。それで、そこら辺のを何回も使っちゃう」

 この日から二人の花畑作りを中心に置いた付き合いが始まり、幸田はいつも、恒秋をただならぬ態度で歓待したらしい。対する恒秋の態度はと言えば、こんな言葉で語られたのだった。
「幸田さん所に通うのが、なんかすごく好きだなーみたいな気持にどんどんなってきたんだよ」
 そしてその夏、作業途中のにわか雨を、団地集会所の幅広い軒先に避けたある夕方。しゃがみ込んだ恒秋の目の前に、一つの光景があった。アリが緑色のコガネムシに群がり、断続的に動かしている。それも気付かないほどにほんの僅かずつ。鈍く光る羽根覆いがひしゃげて傾いたその甲虫は、じわっじわっと黙って引かれていく。この光景をあれこれと暫く観察していた恒秋の耳元近くに、不意に幸田のつぶやきが響いた。
「うちの奥さんも、私たちも、結局このムシとおんなじようなもんですかねぇ」
〈人間とムシはちがうでしょう〉、一瞬、そう返しかけて、詰まってしまった恒秋。〈コガネムシでも、一人ぼっちは寂しいだろうし、嫌なことは嫌なんだろう〉と考え付いたのである。幸田を振り返って素直にたずねてみた。
「どっか違う所もあるんでしょう?」
 幸田は柔らかい顔を恒秋に向け、ゆっくりと虫に戻しながら、応えた。
「自分が死ぬことを思い出しながら日々生きているのは、人間だけじゃないですかねぇ。だから人間は虫より寂しがりやなんだ。この寂しさが強い人は、虫よりは多少頑張って生きてみる。奥さんが僕と一緒に花畑をやろうとしたのは、多分そういうことですよ。でも、気付いてみたら、日々こんなにもやりたいことがないもんですかねぇ?」
 この辺以降のその日の会話は、恒秋の記憶から消え去っているらしい。ほとんど幸田の独白だったようだが。ただこの日の独白は、この人と花畑をやり続けていきたいという強い印象だけを、恒秋の記憶の中に残したのだそうだ。

 話がさらに続き一つの段落を迎えたとき、恒秋の声の調子が変わって、こんな解説が加えられた。
 幸田とのこれらの会話などは、当時の自分にどれだけ分かっていただろうか。しかし人は、成長期の自分にとって全く新しい世界と親しく接触したものを、十分には分からないからこそ覚えているということもあるものだ。また、そういう記憶が以降に、意外なほど己の世界を押し広げていくということもある。

 朝子の方はと言えばその前後から、恒秋と幸田のつながり以上に、幸田夫婦に照らし合わせて様々な夫婦の形をあれこれと思い描いていた。職業の中で出会ったいろんな「配偶者の死」を思い起こしながら。
 たしか病院の統計にあったけれど、妻が亡くなった後の夫のストレスは日本の場合、凄く大きいものらしい。他のどんな国の夫たちのストレスと比較しても。逆に、夫が亡くなった時の日本の妻の方は、平均すればそれほどでもないという。そして幸田の花畑作りは、そのストレスの発散場所になったようだし、この唯一の発散場所を彼に与えたのがまた彼の亡妻である。それも多年月の努力を重ねた末のことだった。別の新聞統計で「女七十代以上で、夫と暮らしていたいと応える人は僅か三人に一人」で、「妻と暮らしていたいという夫は三人に二人」に比べて異常に少ないとあったのも思い出す。幸田の妻ももちろんこちらに入るのだろう。その妻の側が努力して二人で楽しむものをやっと作り上げたまさにその頃に、その妻が亡くなった。幸田はその唯一の楽しみを今度は一人で追い求め続けるしか、やることがなかったようだ。そこに、恒秋が加わつてきた。「すごく好きだなーみたいな気持にどんどんなってきた」と恒秋が述懐したのは、こういったこと全てが関わった成り行きだったのではないか。恒秋と幸田がこの様相をどれだけ意識していたかは分からない。しかし、短くはあったがただならぬ感じを抱かせる二人の歴史は、こんな背景をお互いに少しずつ認めあうことによってどんどん深められていったものだったのではないのか?
「ツネ君、ちょっとないようなことができたんだねぇ」
 二人それぞれの暫くの沈黙の後、朝子が溜め息のように声を漏らした。
「うん、ほんとにそう思う。最後の頃、幸田さん、こんなことも言ってた。
『歳を取ったら全てを失っていく。仕事も、体力も、ものを感じる感性も、さらには視覚や聴覚等の五感でさえも。このように何かを亡くしたと思い知る度に、人は己の死を思う寂しい時を持つ。そんな時、若い頃から所有しまたは関わった全てのものを阿吽の呼吸で語り合える相手は配偶者しかいない。この語り合いに、愛憎両様の形や、あたかも空気に対するように意識されない形があるにしても。こういう真実の大切さを相手の死後にしか気付かないということは、またなんと愚かなことであろうか。この事実に僕が打ちのめされていた頃、僕は君に出会った。これから大人に育っていくという君を与えられた。………本当に幸せなことだった。ありがとう』。」
「それって、遺言の文章でしょう、私にも見せてよ?」
「いや、幸田さんのいたずらかも知れないんだけど、誰か一人にしか見せちゃいけないんだって」
 朝子はすぐに、咲枚の人懐っこいほほ笑みを思い浮かべた。すると、恒秋の少し慌てた言葉が続く。「まだ、誰にも見せてないんだ。母さんにだってもちろん見せたいんだよ。男みたいな人だとは思うけど、幸田さん流の言い方をすれば、僕の人生にとって母さんと僕だけのものは山ほどある」
〈咲枚に見せるのが良い〉、已にそう言い聞かせている自分を、朝子は認めた。自分には恒男がいると、改めて感じていたからかもしれない。ただ、俊司ともまだやめられはしないだろうとふっと考え込んでいる自分にも、気付いたのだが。

 大きい南窓にも、秋の陽が暮れ姶めている。朝子にとっても、あっという間の一日であった。

(終わり)  2000年1月、所属同人誌から
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界フットボール、「レアル神話の崩壊」   文科系

2014年12月05日 21時35分34秒 | スポーツ
 世界フットボール界で、表記のように語れる現象が起こっている。世界的名声もお金も自他共に世界一クラブだと誇ってきたはずのスペインはレアルマドリッドが、ある選手にあっさりと振られたのだ。エデン・アザール。イングランドはチェルシーに所属するベルギー人で、万能のMFである。それもレアルが100億円だかを費やして獲得したイングランドのギャラス・ベイルまでを交換するからという話を、ご破算にされたのだ。なぜなのか。アザールの話からは、レアルよりも現在の所属チームの方を遙かに高く買っているということが分かるのである。イングランドはチェルシー、このチームが現在どれほど有望であるか。

 なんせこの監督が良い。いろんなサッカー大国で優勝して、近年のチャンピオンズリーグ最大の顔でもあるこのモウリーニョ監督は、ついにまた念願だったイングランドに戻ってきた。すぐに古巣チェルシー1年目で優勝寸前まで漕ぎ着け、2年目の今年は無敗の首位である。イングランドの競争相手たちは、レアルのスペインよりもはるかに強敵揃いだ。この「強敵揃い」という点をこそ、アザールは買っているようだと、その発言で分かる。だからこそ、この国で優勝するということはヨーロッパ1のチームに近いという理解なのであろう。そして、なんせ、監督のモウリーニョ自身からして、「イングランドで監督業を全うしたい」と語って、ここに戻ってきたのである。レアルの監督もした彼がそう語るのは、こういうことだと僕は見てきた。歴史的社会的スポーツ資産としてのイングランドフットボールが、他を圧しているということだろうと。

 今年のヨーロッパチャンピオンズリーグは、順当ならこうだろう。ベスト4の候補が、チェルシー、バイエルン、レアル、さらにイングランドのマンチェスターシティー。そして最後はチェルシーの優勝と見た。監督モウリーニョは守備の組織化が実にうまい上に、今年はさらに得点もプレミア1位だ。激変しつつある最近の世界サッカー界では、守備が強いというのはこの上ない強みだと思う。
 
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説  道連れたち(その2)   文科系

2014年12月05日 20時20分47秒 | 文芸作品
 前からも後ろからも速歩やジョギングの人が通り過ぎていく。
〈こういう人、昔はこんなにいたかなぁ、思い出せないのはきっと意識もしなかったんだろうけど、みんななんか品が良さそうな人ばっかりに見えるし、それに夫婦も多そうだし、けっこう若い夫婦もいて、みんなギンギンのウェアで、スリムな人が多いからフィットネス目的ばっかりじゃなさそうだし、私はフィットネスの必要はないけれども、ほんとにそんなに楽しいならやってみてもいいかなぁ。恒男ならきっとやるって言うんだろうけど、俊司さんならなんて応えるだろう〉
〈恒男だってかなり良いとは思うんだけど、俊司さんのが細やかみたいだし、恒男よりはちょっとなにか尊敬してる感じかも知れない、知らない間についてっちゃってた。離婚するとか俊司さんに結婚させるとか、そんなエネルギーを出してみようと思ったこともないけど、つきあいは別に止めなくても良いよね、私の方も別れようと考えたことはないし、あのことはちょっと俊司さんの方が良いのかも知れない〉

 近付いてくる激しい羽音に、後ろを振り向いた。嘴がオレンジ色で、鳩を一回り細く小さくしたような鳥の一群が、目の前の桜の木すれすれに飛び過ぎて行く。それを認めた瞬間、内省から覚めたばかりの耳に急に人のざわめきが飛び込んできた。川畔道路沿いすぐ前方、生け垣に囲われた建物の庭かららしい。高齢者社会教育施設と聞いているその建物に足早に近づいてみると、スポーツウェアの一群が騒いでいる。何台もの自転車も見える。それも極彩色色とりどりをわざと集めたように。〈若い子たちが入って、何か一緒に準備してるんだ〉、とその時、朝子の眼がある一点に釘付けにされた。数人の老人の輪の中で自転車の横に座り込み、例によって大きな声と身振りで熱弁をふるっている最中の、恒秋の相手のギャル・咲枝がいる。その咲枝の方も一瞬、体と視線を固まらせたようだ。周囲の視線もすぐに朝子に振り向けられた。止まるもならず、もちろん去って行くこともできはしない。こわ張った顔を作り直すようにして、近付いて行く。
「みなさん賑やかに、楽しそうですね」
 一斉に向こうも挨拶を返し、老人の一人がこちらへ歩みだして来る。そして、何か親しげな口調で話しかけた。
「恒秋君のお母さんだそうで、本当にお世話になってます」
 えっという感じをごまかすようにして迎え入れられるように人の輪に加わった。


「恒秋はいつからこういうことを始めたのかしら」
 いつしか二人並んで座っていた咲枝に、朝子は独り言のように問いかけた。風はなく、からっとひき締まった大気の中で、柔らかい日差しが二人を包んでいる。
「恒秋さんだけはなんか中学の頃からずーっとここに関係してたみたいなんです」
「恥ずかしいけど全く知らなかったわ。恒秋がボランティアなんて」
「最初からボランティアじゃないんです。恒秋さんが団地であるおじいさんの花畑作りをずーっと手伝ってきてて、それが縁でここの花畑に関わって、二年くらい前に彼を中心に仲間ができたんです」
「ここのことは全く言わなかったのよ」
 取り乱した脳裏に、ある情景が割り込んできた。夏の夕暮れ、住んでいた団地の庭で、専用に買ってもらったのだろう小さな鋤を振るっている六年生のころの恒秋と一人の初老の人、幸田さんとを初めて見た時の光景であった。〈たしか彼、一年くらい前に亡くなったんだ〉
「言いにくいんですけど、『母さんは余分なことやるのを嫌う人だから』と、言ってました」
〈私らにはずーっと秘密だったということを、この子は知ってる〉、悔しいような涙が滲んだ。
「恒秋さん、お年寄りとなんか仲良しなんです。それに花とかのこともよく知ってて、……」
〈この子は私らを心配して、言いにくいことを敢えて告げたんだろう。同じおしゃべり屋さんでも、人が良くて賢い子なのかも知れない〉
「道を歩いててもrあっ、キンモクセイ」なんて、きょろきょろするんですよ、若い男の子なのに。花や鳥とかの、ちょっとオタクみたいなんです」
 あわてて付け加えたような咲枝の言葉。〈二人は随分話し合っているんだ〉。
「まさかボランティアをねぇ、あんなこと!って言ったら悪いけど……どんなつもりでやってるのかしら」
「やってて面白いしぃ、それが好きな子ばっかり集まった、かなり大きいグループですよ。恒秋さんたち、人を集めてくるのも上手いんです」
〈恒秋が人集め?〉黙っているしかない朝子に、咲枝が続ける。
「とにかく恒秋さん、変わった才能ありますよ。詳しく聞いてみると面白いと思うんですけど」
 これも朝子には意味の見当もつかない、ちょっと前ならごく軽く払いのけたような言葉である。
「恥ずかしいけど、私いま恒秋に無視されてて、しばらく話してないの」
 自分の恥を自然に口に出したような朝子に、やや間を置いて咲枝が応えた。
「無視してるんじゃないと思います。言い合うのが嫌だというか、もっと言えば恐いというか、恒秋さん、お母さんを尊敬してますし」
 唖然としたような、そして、やはり自分とは異質な人々の言葉だと感じた。するとこんなふうに表現されている恒秋の世界を同じ土俵に上がってただ聞き取ってみようかと、そんなことを朝子は思いついた。〈目分がいろんなふうに変わり目なんだ、回りを観なおしてみよう〉という声が内部に開こえるような気がしていたからだろう。咲枝と別れ、家へと向かう目に、川面も葉桜も自分も、今までとはどこか違って見えるようだった。彼女はその時、〈今までの自分を保留してみた〉と後に表現した初めての心境の中へと、開き直るようにして飛び込んで行ったようだ。

「あそこの門を入って左手に大きな黒っばいクロガネモチという木があるんだけど、あれの移植が始まりかなぁ」
「聞かせてくれない」と頼んだ朝子のその目を一瞬見つめ、すぐに視線を逸らせると、戸惑っているのか満足なのかよく分からないようにほほ笑んでいたが、やがてとにかく恒秋は話し始めた。
 団地にあったこの木は、幸田にとって何か亡くなった妻の思い出があるものらしい。しかし、移植の話が起こったとき、幸田は既に癌の治療で病床にあった。根回し、運搬はとても恒秋一人ではできないからアルバイトを雇えと病床の幸田が助言したそうだ。金は彼が出すとの提案もあって、友人たちに恒秋が頼み、そのうちの幾人かが以降もボランティアとして残ったという。恒秋が高校二年、幸田が七十代半ばの数か月を費やした出来事である。もっとも、多くの協力者が必要な大行事の時などには、今でもアルバイトを雇うことはあるのだそうだ。
「施設の方でお金がでるのね?」、何気なくたずねた朝子の言葉に、恒秋が戸惑いの表情を見せている。口を出したい思いを一瞬で制して、朝子は南窓越しに外を見る。一羽の山鳩が枝垂桜の頂上から、驚いたような素振りでこちらを眺めていた。
「違うよ、行事の経費はそんなに多くない。僕が出してるお金だよ。──実は、幸田さんが、かなりのお金せ僕にくれたんだ」
 驚くような金額であった。この遺産分与を、生前にも彼に告知し、執行者まで定めた遺言にも明記してあったという。朝子は二人のただならぬ繋がりを、過去の断片的知識も寄せ集め、推し量った。そして今は、驚いたという以上に、この繋がりを理解してみたいと素直に願った。

(その3で終わり)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説  道連れたち   文科系

2014年12月05日 09時52分04秒 | 文芸作品
 道連れたち   

〈ピンクと赤と白、チェックの模様、たしか先週日曜日に彼が買ってきたテーブルクロスね、ヨメナの花もそれにグラスのワインレッドも、よく映ってる〉、朝子は、見るともなく見ていた眼の前の対象に焦点を合わせ直し、グラスの脚に指を伸ばす。寝起き姿のままに椅子に投げ出した体の中で、グラスに触れた指先だけがやっと目覚め始めたようだ。

〈昨夜、あの部屋、あの時の、飲み残しビールとテーブルクロスからの連想なのか〉、口にワインを含み、薄暗い灯につつまれたその場面のそこここを、霧の中のような脳裏から順に引っ張りだしてみる。
〈あの後すぐに彼がコップを取りに行って、飲ませてくれたんだ〉、ことが終わって間もないのに素っ裸のままに素早く立ち上がって、息を弾ませるといった様子もなく俊司はよくそんなふうにする。その終始に朝子はいつも身を委ねているのだけれど。
 と、ここで覚め始めた朝子の眼に、この新築の家の東窓を通り抜けた陽光がつきささってきた。太陽が隣家の屋根の上に顔を覗かせたらしい。眼をしばたたきながら、何度か言ってみた言葉を朝子はまた繰り返す。
〈俊司さんとはもう二年目か。まだまだ続きそうだ。ほんとに私がこういうことをやってるんだなぁ〉
 するとやはり、思い浮かんだことだが、
〈恒男のことも最近なにか、いろいろ見えるようになってきたみたいだ〉
 現に今、このテーブルクロスの端に小さくこんもりと生けられたヨメナの花。これなどにもこの頃では、〈恒男が一昨日くらいに庭から取ってきたんだ、彼の口癖だけど確かに素朴で可愛い紫、それが濃いから咲いたばかりなんだろう〉、この程度のイメージは浮かぶようになっていた。
〈ほんとに花なんかでも、何にも知らない。勉強して勉強して、たまに人とおしゃべりするくらいで、それから看護婦やって、結婚して、すぐに恒秋が生まれて、その面倒みてきて、小学校の頃恒秋に言われたことだけど、ほんと、いつも走ってた〉

 十月末の土曜日。恒男はまだベッドの中だし、一人っ子で大学三年生の恒秋は昨夜も帰ってこなかったらしい。朝子は、ほんの一、二口の朝のアルコールに頬を熱くしている。この頃度々あるのだが、眠ったという感じがほとんどないままに迎えた早い朝だった。

 右手を伸ばして、ヨメナの花びらを指でつまんでみたその時、玄関の扉が鳴った。そのまま二階へ行こうとする足音が聞こえる。
「恒秋、どこ行ってたの!」
 刺すような口調にも、何の返答もない。足音が調子も乱さずに上がって行く。
〈まだ完全無視が続くのね。長いこと!〉、と強がってみた。が、どうしようもなく沈んだ気持は拭いようもない。それでも癖になっている調子で、「恒秋、ちょっといらっしゃい」抑えにかかってみた。二階で扉を閉める音が返ってきただけだ。
〈昨夜も、あの子の家にいたんじゃないかしら〉
 何日か前の詰問に恒秋がさりげなくそう応えたので、言い争ったことを思い出している。ぴんと伸ばした激しい胸のうちを、前に組んだ両腕と、前傾させた顔で抑えながら。
 この街の児童館の厚生員を職とする子とのことだ。家に二、三度あがって来たが、朝子には明るいだけが取り柄の、調子の良いギャルに見えた。そんな感じが恒秋にも伝わったのだろう、後味の悪い言い争いになった。もっとも、ほとんど朝子だけが問い、言い放っていたのだった。それでも朝子には、吐き出したいことを全く出していないという、そんな気持だけが残っている。しょぼしょぼと何日も秋雨が続いて、うっとうしい日の夜のことである。
〈恒秋にはもう、何にも開いてもらえないのかも知れない〉
 ふと、車を転がしてこようと思い立った。

 朝子の軽セダンは今、川岸の児童公園の脇にあった。〈彼をお腹に乗せたあお向け逆さ滑り、「ジェットコースター」とか、あの山でもいろいろ二人でやったねぇ〉、すべすべでピカピカ光ったコンクリート地肌の小さな富士山が、昔のままだ。自然にほほ笑んでいたのだが、目がじーんとしていた。

 軽セダンは次に、薄黒い木造の保育園にさしかかる。朝子には、一階の靴箱の横に立っている若い自分が見えてくる。二歳になったばかりの恒秋がすっと部屋に入っていくか否か、それがその頃、日々の難関だった。部屋が騒々しく、入り口から保母の「志村おばさん」が見えない時には、「一大事の形相」で取って返し、泣き叫んで朝子の体にしがみついていたものだ。大学病院の始業時間との板挟みで泣きたいような自分がよみがえる。手前の砂場には一人っきりで遊ぶ三歳の痩せた恒秋が見え、また切なくなる。他の子どもが近付くのを極端に嫌い、例のように一人ぼっちで砂をいじっている。それで、迎えの朝子を認めてもにんまりと手をあげて、また一人砂遊びを続けるという、そんな感じの子どもだった。
〈友達と遊びをどんどん創造し、それをすっかり遊び尽くしていくこと、それが学力の土台、”見えない学力”である〉、少し後に読んだ本のことを思い出している。まさにこの点で、いつまでも幼い恒秋だった。だからだろうか、学業は並の下。高校まで学年有数という優等生の経験しかない夫婦が二人してあれこれあがいてみた頃の、ほとんど鬱病のような当時の心のもやもやが思い出される。その恒秋もやがて、いろんな大学の入試を二年受け続けた未に、唯一入学を許された名前を聞いたこともないような大学へ入って、今は三年生である。
〈看護婦って大学病院と言っても消耗品だったし、そのうえ共稼ぎなんてみんな毎日戦争やってきたようなものよね。そんな所で私、係長試験も真っ先に通ったし、来年はきっと総婦長になるんだろうし、いつも先頭にいようとしてたし、こういう私だからあの子にも同じようにやっちゃってたのかなぁ、それほどのつもりもなかったんだけど。高校人った頃には、私の言葉なんかもう聞き流されてた感じじゃなかったかなぁ〉
 いつの間にか、近くの川岸の舗装道路を歩いている。ここは、保育園帰りなどの恒秋とのおしゃべり通りで、今歩いていてもなにか「鬱が和む」ようだ。
〈それでも当時のこの場所と時には、恒秋とのおしゃべりという目的があって、何もしない時、場所じゃなかったんだけれども、今の私はほんとにそんなときを過ごしてるわ〉

(続く、あと2回です)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝鮮日報より   らくせき

2014年12月04日 09時34分08秒 | Weblog

韓国保健社会研究院は3日、日本政府の「出生動向基本調査」(2010年)と韓国政府の「結婚と出産に関する国民意識調査」(2013年)の結果を基に比較した報告書を発表した。


 調査はともに18~49歳の未婚者が対象。


 結婚の利点について韓国人は男性52.3%、女性47.6%が「精神的に頼れる人ができる」と回答した。次いで、「現在愛情を持っている相手と共に暮らせる」(男性27.0%、女性23.3%)、「子どもを持てる」(男性21.1%、女性17.6%)の順で多かった。


 一方、日本人では「自分の子どもや家族を持てる」(男性31.6%、女性43.5%)が最多だった。次いで、「精神的な安らぎが得られる」(男性31.0%、女性29.7%)、「親を安心させたり周囲の期待に応えられる」(男性16.5%、女性19.7%)と続いた。


 恋愛や結婚について韓国人の未婚男性は日本人男性に比べ積極的なことも浮き彫りとなった。


 交際している異性がいないと回答した日本人男性は73.8%で韓国人男性(66.2%)を上回った。異性と交際したい(日本人56.5%、韓国人64.9%)、結婚したい(日本人82.0%、韓国人90.6%)と考える人の割合も日本人が韓国人より低かった。


 結婚に利点があると考える日本人男性は61.7%で韓国人(81.7%)を20ポイント下回った


 報告書は「日本人男性の消極的態度はバブル経済崩壊後、安定を求める消費パターンが異性関係にも影響を及ぼしているため」と分析。「韓国でも経済低迷に伴い異性との交際や結婚に対する態度が日本のように消極的に変化する可能性がある」と指摘した。



コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドル崩壊要因の進化   文科系

2014年12月04日 08時44分36秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 ドル崩壊要因が世界に広がり、深まっている。一方では、中国とロシアが互いに元・ルーブル決済を始めて、元決済が世界でどんどん増えているし、他方ではスイス、ドイツなどがアメリカに預けてある金を返せとの動きが急である。スイスはすでに大量に返却させたが、ドイツの返却をアメリカは何年かの分割返却にしてくれとごねているとのこと。さらに、原油の値段が急落しているが、その増産やシェールガスのこともあって、石油先物から引き締めに入ったドル資金が引き上げられたということではないか。こんな折も折、日本だけでなく中国が量的緩和、利子値下げに踏み切り、ロシアは変動相場制に移行した。

 ただでさえ世界決済の5割に近づいたドルが、いったん5割を切ったらあっという間に基軸通貨の地位から脱落していくとは、かねてから言われてきたことだ。

 そもそも、リーマンショックという1929年の世界大恐慌以上の歴史的大事件を引き起こしてからすでに6年にもなるが、こんなことを起こしたドルに何もないということの方がおかしいのだ。アメリカ経済の衰退、日本にしてみれば信じられないようなこの国の凄まじい双子の赤字から見れば、ドルは既に紙切れに過ぎないはずだ。

あるブログはこんなことを書いている。
『 すでにロシアや中国を中心とするBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やSCO(中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン)がドル離れの動きを鮮明にし、中国はカタールとの間で元を使った通貨スワップを結んだと伝えられている。
 中国とロシアのドル離れも石油/天然ガスの大型取引が絡んでいるが、ペトロダラーの本丸、ペルシャ湾岸の国が同じ方向に進み始めた意味は重く、アメリカが覇権を維持しようとするなら、本気でロシアや中国を潰さなければならない。そのためにはロシアと中国を離反させる必要があるのだが、それにしては中国を刺激しすぎた。』

 安倍政権はアメリカと心中するつもりなのだろうか。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「よたよたランナーの手記」(82) 速歩きの効果  文科系

2014年12月03日 12時28分46秒 | 文芸作品
 1日、8.8キロ。マシンを使用できる30分2回を各4.2キロ、4.6キロと走った。39度の熱発の風邪を引いた11月初以降の距離11月24日の8.7キロを抜いたことになる。そして、嬉しかったことがもう一つ、26日に走った時と比べて、時速9キロを越えた走りにもほとんど疲れを感じなかったのだ。この日は9.5キロ時が常用スピードになったように感じられて、後半30分で4.6キロ走れたのだった。例によって時速10キロでも走ってみたがその心拍は155以下であり、今日の調子だとこの速度でも30分近くは続けられそうに感じられた。だけど、抑えて抑えて、帰ってきた。怪我以来の努力から体ができてきたから好調なのか、年寄りは単に好不調の波が激しいだけなのか、それが分からないから慎重になって。

 何が良かったのかと、考えてみた。昨日やった戸外の速歩き1時間の効果だと思う。それで思い出したのだが、前に好調だった24日も、その前日23日に速歩き1時間をやっている。時速7~7.5キロほどの戸外速歩きなのだが、これはLSDトレーニングの理想的なものなのではないかと考え及んだもの。「長時間、ゆっくりと、長距離を走るのが、脚全体の毛細血管の伸張に最適」というランニング界確かめられ済みの理論なのである。

 そこで僕の場合の今後に向けて、たとえばこんな事を思いつく。2日続けて1時間速歩きをやって、次の日に走る、と。また、時速10キロともなれば今の僕は、今やっている足首だけでなく膝の補強運動をしないといけないとも思い立った。
 LSD、補強運動とマッサージなどによる血管育成で筋肉が回春すると、そんなことなのだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする