Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

音楽表現の科学 - 認知心理学からのアプローチ

2011-02-07 08:43:29 | 新音律
須藤 貢明・杵鞭 広美 著,アルテスパブリッシング (2010).

認知心理学って なに?
Wikipedia によれば「情報処理の観点から生体の認知活動を研究する学問」だそうだ.

この本の一部はアマゾンの「なか見! 検索」でのぞくことができる.楽音の解析にはフーリエ変換が有用だが,それが限界でもある.
というわけで,この本の最初の章のタイトルは「楽音と楽曲はちがう」である.

全体は 2 部からなる.第1部の最初の 35 ページは文章ばかりで,数式も図もない.理科系としては退いてしまう.ここではモリスの記号論とやらに従い,楽曲をシンタクティクス・セマンティクス・プラグマティクスから攻略する.これらのカタカナは言語論における統語論・意味論・語用論に対応するのだそうだ.第1部の後半では「曲想と楽想の構造」「楽曲の認知に関連する要因」と題する図があらわれ,なるほどと思わせる.
ただし,「音楽表現の科学」という大風呂敷のわりには具体性がなく,この第1部全体が長大なまえがきという印象.

第2部は神経心理学的な研究の紹介とのことで,大脳の絵とか,脳電図とかがあらわれ,記述は具体的.聴きはじめて20秒くらい経つと,協和音の曲と不協和音の曲で脳内電位分布に違いが生じるとか おもしろい!
しかし第1部との段差が大きく,こんどは,「音楽表現の科学」という大風呂敷のわりには,あまりに細かいことばかりという印象.

門外漢が勝手なことを書いてしまったが,それだけ対象が難しく,この研究が野心的だということなんだろう.コンピュータによる作曲はまずヒトが「曲想」を与えるのだが,この本では曲想の定義も含め,そこから始めようというのだから.
6ページにわたる参考文献だけでも関連分野の研究者には役に立ちそう.

この研究が「音楽表現」に役立つのだろうか? たぶん no だろうが,それでいいのだろう.巨大加速器が日常生活にはなくの関係もないのと,同じことなんだろう...と思って「あとがき」まで来たら,こんなことが書いてあった.
聴覚障害のある児童はことばを覚えるために補聴器をつかうことには乗り気ではない.しかし音楽の授業となると補聴器をかたときも離さなくなる.楽曲とことばの認知過程の比較がこの研究のきっかけとなった.

この本にははっきり書いてないが,この研究は「音楽療法」などともどこかで繋がっているらしい.

装幀も良いです.
コメント
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reading

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