「楽器の音・ヒトの声」にあるのは,森山直太郎さん歌唱のソノグラムだが,もっと個性的な歌手のデータはないのかというコメントをいただいた.Youtube の動画ではたいてい伴奏が邪魔で解析が難しい.
これは森進一さんのデビュー曲「女のためいき」.静止画ではなく本人歌唱の動画も Youtube に存在したが,ダウンロード禁止らしかった.
1分08-11秒「夜が夜が泣いてる 女の ためいき」の「ためい」の部分で一瞬バックがなくなる.以下この部分について記述するが,無伴奏部分という偏ったデータに基づいてことを承知していただきたい.
まずソノグラムである.FFT サイズは 1024,Blackman window
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/46/75d401fbde40d1304ce05695e4752a65.jpg)
「ためいき」の「た」は話すようにに入り,「め」の後半で音程を徐々に上げ,「いー」と伸ばす.この部分は高域まで整数倍音が顕著.この後 0.2 秒ほど間があって「きー」と続く出だしにも整数倍音が見られるが,すぐに伴奏がかぶる.
音の高さを音名と,対応する平均律での周波数で示すと
た (Ab) 207Hz
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/7b/a28879c2c7650b8d4b04c6a514fcea25.jpg)
め (Bb) 233Hz
ー(Db) 277Hz
い (Eb) 311Hz
き(Db) 277Hz
最初の4音を1音ずつサンプルしてスペクトルを見た.周波数分解能を上げるために FFT サイズを 4096 とした.Hamming window,対数目盛り.
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/f1/b5c58df25c13c818c948781756facaab.jpg)
ためいきの「た」は雑音ばかりのようで,会話とよく似たソノグラムである.
しかし目盛りを線形に変えると山が3つ見える.
ピークとなるべき周波数は楽譜では Ab だが,ここではその下の F の方が大きい.
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/c2/01236a4e36fa8be815980e30c7fc170c.jpg)
つぎの「め」では Bb の整数倍音が出ている.
拡大して注目いただきたいのは,その 1.5 倍上の F の整数倍音.
ひとりデュエットである.
ただしソノグラムで「め」と書き入れたあたりの 0.1 秒ほどしか続かない.
「めー」と伸ばした先の Db と,「い」の Eb は整数倍音が見られ,特に「い」では,ソノグラムで見るように高域まで続いている.まるで声明みたいだ.
「た」を除き音程は正確で,平均律で計算した周波数とぴったりである.
森氏の場合は話すような唱法,整数倍音が10kHz域まで伸びる唱法と,整数倍音が低域にとどまるかわり 10kHz 域までを雑音 ? で満たす唱法を使い分けているようだ.いろいろな音を混ぜるところはジュウシマツ風である.
主旋律に短3度 (た) あるいは完全5度 (い) 離れた音が寄り添うあたりは,超絶技法かも !?