茸本 朗(たけもと あきら),平凡社(2019/11).
著者は野食,すなわち野外で採った材料を調理して食べることのプロを自任している.「七転八倒日記」はとくに.「第1章 美味しいものが食べたすぎて、大失敗!」に集中していて,内容は,食べると肛門が言うことを聞かなくなる魚で(社会的に)死んだ/「ポルチーニ」と間違えて毒キノコを食べ、マーライオンになった/ 釣ってきた魚を調理したら台所が工事現場の臭いに包まれて絶望した...と,凄まじい.
「第2章 知ってる人は食べている」は,実は血液に毒を持つアナゴを刺身で美味しくいただいた話/ ウニが高くて食べられなければ,ヒトデを食べればいいじゅない/ 野草の豆で作る納豆はめちゃくちゃ美味しい...
「第3章 実は食べられる!あの生き物」はザリガニ,毛虫(毛の除去に悪戦苦闘),カミツキガメに代表される外来カメ,タヌキ・アナグマ・アライグマ・ハクビシン(著者が自ら捕獲したものではないようだ)の食べ比べ,ヘビ,セミ.
「第4章 大都会でサバイバル」は,野菜の代用品.都会で採れるフランスあたりで珍重されているキノコたち,カエルのフレンチ,街の川のコイ,ミドリガメ...,最後は渋谷の街で採れた食材による「渋谷野食御前」.
文明批評や著者ならではの哲学がふざけた文体から読みとれる.
太平洋戦争時フィリピンで虫やヘビを貪り食った日本兵や,人口増加と食糧難で同じものを食べざるを得なくなるであろう近未来人に思いを馳せた.さいわい,このふたつの時代の狭間で一生が終りそうな16トンとしては,著者のアドバイスに従ってこの本を実践する甲斐性はない.しかし,キノコくらいは自分で採ろうと思っても,写真がモノクロでこころもとない.第4章中の「災害時に冬を生き抜くためのサバイバル食材図鑑」も同様.
実はこの本の元になったウェブメディア cakes にはカラー写真が多数.このサイトは30万超PVを記録しているとのことだが,残念ながら肝心な部分は有料登録会員限定.
本にあってウェブにないのは上路ナオ子によるヘタウマなイラスト.