「十三角関係 : 山田風太郎傑作選 推理篇」河出文庫(2022/7).
この傑作選推理篇は他に「黒衣の聖母」「赤い蝋人形」それに 12 月刊行予定の「帰去来殺人事件」がある.この著者の本は忍法帖を一時期集中的に読んだ覚えがあるが,ミステリは初めて.新聞の書評欄で数行紹介していたので,たいして期待しなかったが購読.結果は大満足.
Amazon の紹介*****
娼館のマダムがバラバラ死体で発見された。夫、従業員、謎のマスクの男ら十二人の誰が彼女を十字架にかけたのか? 酔いどれ医者の名探偵・荊木歓喜が衝撃の真相に迫る、圧巻の長篇ミステリ!
「濁り水の底の、秘密の宝玉。
その妖しくも蠱惑的な輝きに酔う。」 ――綾辻行人氏、陶然
鬼才生誕100年
名探偵荊木歓喜、ついに復活!*****
その妖しくも蠱惑的な輝きに酔う。」 ――綾辻行人氏、陶然
鬼才生誕100年
名探偵荊木歓喜、ついに復活!*****
昭和と言われて思い浮かべるのは,ぼくの場合 幼・少年時代を過ごした昭和 20-30 年代.この小説の刊行は 1956 (昭和31) 年,売春禁止法 公布の年.探偵役は売春婦の堕胎を生業とする闇医者 荊木歓喜.
この文庫本のカバー画も本文に負けず悪趣味で,書店のレジで恥ずかしかった.下半分の容貌魁偉なのが歓喜である.どこかで見た画風と思ったら, 描いた藤田和日郎さんは少年サンデーに連載を持っていたそうだ.
解説によれば,この藤田氏はミステリベスト 10 というインタビューで,Y の悲劇,獄門島,大誘拐といった名作とともに,この十三角関係を挙げているそうだ.ぼくも獄門島よりは上だと思う.
解説には,昭和 20 年代は原稿料が現在に比べ格段に高かったそうだ.そのためこうした よく練られた作品が生まれたのだろう.
読者をおちょくり,多少の論理の飛躍も勢いで読ませるところは,1947 年 坂口安吾の「不連続殺人事件」を思わせる.この時代の典型的文体かもしれない.