Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

津島佑子「狩りの時代」

2021-10-13 07:49:54 | 読書
文藝春秋 (文春文庫 2021/9).

文藝春秋社担当編集者の言葉*****
逝去する直前まで推敲を重ねていた津島佑子さんの最後の長篇小説が、ついに文庫になりました。ダウン症の兄を早くに亡くした絵美子。彼女が折に触れて考えるのは、兄のこと、幼いころに囁かれたある言葉、おじ・おばたちが決して詳しく語ろうとしない、ヒトラー・ユーゲント来日の日のこと……。編集しながら改めて、津島さんが2021年の社会に向けて本作を書いたのではないか、と何度も錯覚しました。コロナ禍において、差別や社会の分断がますます顕在化する今、再び読まれるべき傑作です。*****

文庫本巻末の著者令嬢・津島 香以による,「「狩りの時代」の発見の経緯」と,星野 智幸 「かくも甘美でおぞましいあこがれ」が文春のHPで読める.
この小説で短絡的に思い出したのは相模原障害者施設 津久井やまゆり園殺傷事件だが,文庫解説にはこの事件への言及はない.

ヒロインの絵美子は12歳ででダウン症の兄・耕一郎をなくすが,これは著者の実体験だそうだ.絵美子が10歳のころ,2人の従兄弟のどちらかから「フテキカクシャ」という言葉をささやかれる.兄が亡くなった後の思春期に,それがヒトラー時代に優生思想に基づいて「不適格者」を「慈悲死」させたという歴史から来ている言葉だと知る.この言葉が小説のキーワードになっている.
絵美子のおじ・おばがヒトラー・ユーゲントを甲府駅で歓迎したときのハプニングも何度も語られる.

登場人物がやたらと多く,みな親類縁者で,記述された時間も戦前戦後を行ったり来たりするので,かなり混乱する.絵美子は2人の従兄弟のひとりと関係を持ちもうひとりと結婚する.ぼく個人としては いとこ婚はイメージできないな.
最後は原発事故も登場した.

ぼくは村上より津島さんの方がノーベル賞にふさわしかったと思っている.彼女の作品は英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・オランダ語・アラビア語・中国語などに翻訳されているのだ.


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