Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

花田清輝「画人伝」に騙される !

2020-06-19 08:29:15 | 読書
花田清輝「室町小説集」を古書で購入.単行本ではなく,講談社文芸文庫 (1990/10).ある意味で悪名高い作家だが,怖いもの読みたさである.「開かずの箱」とか「力婦伝」とか,目次をのぞいたら面白そうだったのだ.

いちばん長いのが「画人伝」.トップの足利義教の肖像画が小谷忠阿弥の作であるとして,その人物を論じたもの.小説ではなく,史実に裏打ちされた美術論の感じ.こういうのは好きなので,意外にすらすらと読めてしまった.

「百鬼夜行絵巻」「李白観瀑布図」「松に鷹図」「鵜図」「鴨図」など,忠阿弥が描いたとする絵画が続々と登場する.どんな絵か,見たくなるのが人情.この単行本が出版された 1973 年と違って,今ではネットがある! というわけで調べてみると,こういうタイトルの絵画はあっても,どれも花田の描写とは一致しないようだ.そもそも花田とのつながりがなければ,忠阿弥という絵師がネットに登場しない.

将軍・足利義教は、赤松満祐邸に、庭の泉水の鴨の一家をご覧になるために招かれて殺された (これはたぶん史実).このとき忠阿弥は小谷与次という名の満祐の郎等であって刀をふりまわした.邸の泉水の鴨一家を「鴨図」としたとか,将軍の生首を観察したので冒頭の「足利義教像」が上手く描けたとか,まことしやかなことが花田の美術評論のなかに書いてある.
しかし実はこの評論がまるごと小説で,忠阿弥は架空の人物であるらしい.この文庫本の巻末には著者による「『室町小説集』のこと - 後南朝をめぐって」という文章があって,そこには「全部フィクションですけれども」と書いてある.この「全部」の意味はよくわからないが...
足利義教像には絵師の名はない.

ぼくのようにほとんど予備知識を持たない輩は,花田にとって理想の読者であるに違いない.


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