集英社 (広瀬正小説全集 4 集英社文庫, 2008/10).カバー 和田誠.
「走る赤」で SF が読みたくなり,本棚からこの本を取り出し再読.読んでいるうちにベージが落ちてきて閉口した.三読は無理かも.
右のビラがはさみこんであって,吉行のカラー文庫「童謡 2」に興味を惹かれた.
広瀬正 1924-1972 の小説「マイナス・ゼロ」「ツィス」「エロス」などは,どれも面白い.この「鏡の国の...」は 1973 年の星雲賞受賞作.彼は再三再四 直木賞にノミネートされたが,受賞することはなかった.当時の審査員たちが SF というものを知らなかったせいもある.この文庫では (でも ?) 井上ひさしの解説が,文学は対象とするが SF は対象としないアプローチ.
途中 30 ページほど中学理科で対称性を教える場面があったが,退屈で跳ばしてしまった.文系の読者はこの辺でこの本を放り出してしまっただろう.
裏表紙の紹介文*****銭湯の湯舟でくつろいでいた青年は、ふと我に返って驚愕する。いつの間にか、そこは「女湯」に変わっていたのだ。何とか脱出した彼が目にした見慣れぬ町。左右が入れ替わったあべこべの世界に迷い込んでしまったらしい。青年は困惑しながら、新しい人生に踏み出そうとするが---。「鏡の国」を舞台に奇想天外な物語が展開される表題作ほか、短編三編を収録。*****
「鏡の国の...」のバックグラウンドを量子力学の多世界解釈と思えば,ルイス・キャロルの Through the Looking-Glass に比べてスケールが大きい.ラストも気が利いている.
SF と昭和の通俗小説がないまぜになっているのが広瀬作品の特徴.しかし,ストーリーの通俗小説的な展開だけ取り出すといかにも安易で,やっぱり直木賞は無理だったかもしれない.