【社説①】:米・イラン対立 報復の連鎖を断ち切れ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:米・イラン対立 報復の連鎖を断ち切れ
イランが、米軍が駐留するイラク国内の基地二カ所をミサイル攻撃した。革命防衛隊司令官の殺害に対する報復だが、事態をこれ以上悪化させてはならない。米国、イラン双方に自制を促したい。
日本時間のきのう朝、現地時間八日未明だった。イランがイラク中西部アンバル州のアサド空軍基地と北部アルビルの基地を十数発のミサイルで攻撃した。いずれも米軍が駐留する基地である。
トランプ米大統領が、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の殺害を米軍に命じ、実行したことに対する報復である。
トランプ大統領は、イランが報復すれば大規模な反撃を警告してきた。しかし、米軍が反撃すれば全面衝突に発展しかねない。中東の不安定化に拍車をかけ、世界経済への影響も計り知れない。報復の連鎖を断ち切り、反撃をとどまるべきではないか。
そもそも、ことの発端をつくったのは、トランプ米政権がイランとの核合意から一方的に離脱し、その上、司令官を殺害したことにある。これ以上、一方的な振る舞いが許されるはずはない。
米国、イランとも事態の深刻化は望んでいないという。ならば軍事的手段ではなく、対話を通じて事態を打開すべきだ。
日本は、米国とは安全保障条約を結ぶ「同盟国」であり、イランとも伝統的な友好関係にある。今こそ、そうした外交的資産を中東の緊張緩和に生かすべきだ。
安倍内閣は、中東地域に自衛隊を「調査・研究」の名目で派遣することを閣議決定した。米国提唱の有志連合と一線を画すものの、米軍と連携した活動にほかならない。自衛隊派遣がイランとの友好関係を損ねないか、心配だ。
派遣の前提は、緊張は高まっているものの、日本関係船舶を直ちに防護しなければならないような緊迫した情勢ではないとの認識だったはずだ。
米軍による司令官殺害とイランの報復攻撃で前提が崩れた以上、自衛隊派遣をいったん、白紙に戻すべきではないか。
圧倒的な軍事力を持つ米国と、地域の大国であるイランが大規模な戦闘に突入すれば、世界大戦の再来になりかねない。
これ以上、人類史に悲劇を刻み込んではならない。当事者はもとより、国連や関係各国が、報復の連鎖を断ち切るために、知恵を絞らねばならない。人類の叡智(えいち)が試されている。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年01月09日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。