【社説②】:ロシア改憲案 プーチン氏院政危うい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ロシア改憲案 プーチン氏院政危うい
強権体制をさらに長期化させる意図があるとしか見えない。
ロシアのプーチン大統領が、大統領や議会の権限を大幅に見直す憲法改正案を下院に提出した。
2024年の大統領任期終了後も実権を維持する「院政」を敷くことを狙ったものとみられる。改憲案の成立は確実視されている。
プーチン氏は首相に転じた時期も含め20年、権力を掌握する。この間、ロシアはグルジア(ジョージア)に侵攻し、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に編入した。
北方領土問題でも、プーチン政権は強硬な姿勢を強めている。
国際ルールに背を向ける姿勢を続けることは許されない。強権的な政治を改める必要がある。
改憲案は、現在は大統領の諮問機関である「国家評議会」に強力な権限を与える。大統領が握る首相や閣僚の人事権を下院に移す。
一方で、大統領任期を現行の「連続2期」から「連続」を削除して最大で2期に制限している。
大統領に与えられた強大な権力を分散する体制改革と言える。
プーチン氏は退任後、下院や国家評議会のトップに就くとの観測が多い。旧ソ連時代に約30年率いたスターリンに匹敵する長期間の最高指導者になる可能性がある。
クリミア編入後、プーチン氏は高い支持率を誇っていた。だが、欧米からの制裁で経済は低迷し、言論の自由や野党勢力への締め付けを強めたこともあり、国民の不満は募っている。
改憲の提案に併せて、不人気だったメドベージェフ首相を交代させ内閣を刷新した。プーチン氏自身の求心力を確保する狙いだろうが、不満をそらすため独裁的に振る舞う政治手法は危うい。
改憲案には愛国的な要素も盛り込まれている。大統領になるために必要なロシア居住歴を10年以上から連続25年以上に延ばし、外国居住権を持たない国民とした。
懸念されるのは、憲法を国際法や条約より上位に位置づける規定を盛り込み、主権の強化を強調していることだ。
ロシアの憲法には領土の保全と不可侵性が明記されている。改憲により北方領土が一切返還されないことになりかねない。
仲裁や人権にかかわる国際機関の裁判所などの判断に従わなくなる恐れさえ生じてくる。
法の支配や基本的人権といった普遍的な価値をないがしろにすれば、国際社会の警戒感を強めて孤立を深めるだけだ。ロシアは国際協調の重視に転じるべきである。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2020年01月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。