【政界Web】:野党はなぜ強くなれないのか 藤井裕久元財務相に聞く
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政界Web】:野党はなぜ強くなれないのか 藤井裕久元財務相に聞く
◆理論が正しくても世の中は通らない
衆院選は「10月19日公示―31日投開票」の日程で行われる。野党各党は政権交代を目指し、共闘態勢の構築を図るが、世論調査では野党への支持は広がりを欠く。新型コロナウイルスへの対応が後手に回り菅義偉前首相は退陣に追い込まれたが、批判の受け皿にはなりきれず、岸田文雄首相誕生に世論の注目が集まる。決戦を目前に控え、野党の現状やいまの政治をどう見ているのか、かつて自民党に所属し、旧民主党などで要職を歴任した藤井裕久元財務相(89)に聞いた。(時事通信政治部 中司将史)
■【写真】岸田文雄氏と長男で秘書の翔太郎さんともに「インスタライブ」に出演する裕子夫人
◆本来の岸田文雄にあらず
―自民党総裁に岸田氏が就任しました。
総裁選に出馬した4人のうち、まっとうなのは岸田氏と野田聖子氏だと思っていました。私は安倍晋三元首相の歴史観や国家観は間違っていると考えていますが、他の2人(高市早苗氏、河野太郎氏)は安倍氏に近い思想を持っている。ただ、総裁選の経緯を見ると、まっとうだと思っていた岸田氏も安倍氏の力なくしては総裁になれないということを感じました。
―岸田氏のどの点を評価していますか。
彼は大平派の流れをくむ宏池会(岸田派)の人です。私は彼の父・文武氏とは大変親しくしていたし、祖父・正記氏もよく知っていますが、大平グループは平和主義者なんです。安倍氏の影響を受ける中で岸田総裁が誕生したことには疑念を持っています。やはり総裁になりたかったんでしょう。だから妥協をしている。本来の彼ではありません。
―自民党役員人事の顔触れはどうですか。
高市氏は人間としては好きですが、タカ派的な思想は許せない。彼女が政調会長に就任したのでは話になりません。発想が全くだめですね。つまり、安倍氏そのものなんです。安倍氏の一番の問題点は憲法。憲法に自衛隊を明記するなど容認できません。私は戦争を体験し軍人政治家にいじめられたのです。
―総裁選の論戦を振り返っていかがですか。
党の多様性を出そうという努力はしておられたと思います。 〈自民党総裁選が告示される2日前の9月15日、立憲民主党は衆参150人規模での新たな船出から1年を迎えた。枝野幸男代表は「政権の選択肢になるという目標に到達できた」と語った。〉
◆政治は情の世界
―立民結党から1年を迎えました。
今の野党の人たちはみんな理論派なんです。理屈で動くと言ってもいいですね。だけど政治というのは理屈でない面がある。吉田茂の下にいた大野伴睦、鳩山一郎の下にいた三木武吉らは、(1955年の)保守合同を実現し自民党をつくりました。表の理論は吉田、鳩山がやっていましたが、裏で実際に動かしたのは大野と三木です。政治にはこういう人が必要です。
―大野、三木両氏の特長は。
裏で全部やるということです。そして理屈ではなく情の世界、人間味があった。政治は学者の世界ではない。こういうタイプの人がいない今の立民は純粋過ぎます。
―時事通信の9月世論調査で、立民の支持率は3.0%にとどまっています。
支持が伸びない理由や背景をどう考えますか。 今申し上げたことです。党内に理論派はいますし、野党の理論には正しいことが随分ある。しかし、それだけでは世の中は通らないというのが現実です。無党派層を引き込むポイントもそうした部分にあるのではないでしょうか。
◆共産に党名変更を提案した
―9月8日、立民、共産、社民、れいわ新選組の4党は野党共闘を呼び掛ける市民団体「市民連合」を介して政策協定を結びました。
れいわはよく知りませんが、他の3党が少なくとも選挙で共闘することは正しい。共産が入ることに異議を唱える人もいますが、暴力革命を主張する共産党ではないのです。連携によって4月の補欠選挙や横浜市長選のように成果が出たことも事実です。
―立民と共産は9月30日の党首会談で、政権を獲得した場合に共産が「限定的な閣外からの協力」をすることで合意しました。
いいことだと思います。もっと踏み込むなら連立ということでしょうが、それはなかなか難しいでしょう。
―共産に抵抗を持つ人がいます。
私は共産幹部に党名を変えたらどうかと提案しました。その幹部は「理解しています」と言いましたが、しばらくして「だめでした」と言ってきた。なぜかと聞いたら、結局、地方議員は共産の名前で通っているから難しいのが現実だと話してくれました。
◆空気の怖さ
―野党連携は衆院選で効果を発揮しますか。
これは世論が決めることです。全ては世論が決めるので選挙が一番大事なんです。ただ、世論は残念ながら空気で動く面がどうしてもある。その典型が戦争です。1942年の翼賛選挙でも85人の反東条派が通っていますが、やはり東条支援となった。これが空気なんです。
―菅前政権がコロナ対応で迷走し、政府与党への失望感が広がりました。
そうですが、総裁選によって流されてしまいました。これが空気の怖さなんです。総裁選をやることで目を背けさせるという自民党の悪知恵です。長い時間かけて培った悪ですな。したたかな政党です。
◆政権奪取には時間
―野党は政権交代を狙えるチャンスでは。
過去において、どういうときに野党が政権を取ったのか。細川護煕政権ともう一つが民由合併です。そうした団結が必要なのです。かつて自民党内には、田中角栄について「支那と仲良くするような野郎は殺す」と言った人までいた。そのくらい考えの違う人を入れていたということです。それは一つの政党ではなく、連合体ですよ。野党もそれくらいのことをやってなんらおかしくはない。立場が違うからといって排除してはいけないのです。これが現実です。立民と共産が手を組むことはなんら悪くありません。
―1993年と2009年の政権交代の背景は。
前者は政界に汚職が広がっていたこと、後者は小泉純一郎氏による行き過ぎた新自由主義政策への反発です。
―09年の政権交代では世の中に高揚感もありました。
民由合併で(野党が)まとまったという印象があったからです。今の状況はそのときとは違いますね。私は小沢一郎さんのもとで幹事長をしていましたが、本当のことを言うと小沢さんも心から合意していたのではないと思います。ですが、合意することが政権奪還への道だという理念を持っておられたと思います。
―民主党政権の迷走が野党の支持されない理由になっていませんか。
全くないとは言いません。
―立民に政権を担う気迫を感じますか。
政権を取るにはまだ時間がかかります。しかし、自民党は必ず悪いことをしますから。現に政治とカネの問題が相次いでいます。人が悪いことをするのを待つというのもお粗末な話ですが、権力は必ず腐敗します。そうした点をしっかり突く。もちろんそれだけでなく恵まれない人に目を向ける、国民生活の安定を目指すということは必要です。
◆目先からでいい
―岸田氏の政策には格差是正など立民と似た面もあります。どう対峙(たいじ)すべきですか。
総裁選で言っていたことが選挙目当てでなく、どれだけ本当なのか、これから見極めなければなりません。結果はこれからなんですから。その意味では(来夏の)参院選のほうが客観的な評価が出るのではないですか。
―衆院選の争点は。
野党は目先のことばかりと批判する人が必ずいますが、森友・加計学園問題や「桜を見る会」の問題は極めて悪質です。まずはそこから始めるべきだと思いますよ。これをやらなければ世の中の人が漠然と怒りを持っていることに対して応えることができない。これは自民党には絶対にできないことですから。
■藤井裕久氏(ふじい・ひろひさ)
1932年、東京生まれ。東大法卒。大蔵省主計官を経て77年参院選で自民党から立候補し初当選。93年に自民党を離党し新生党結党に参加。自由党幹事長、民主党幹事長などを歴任し、鳩山内閣では財務相を務めた。
元稿:時事通信社 JIJI.com 政治 【政局・コラム・「政界Web」】 2021年10月09日 12:12:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。