《余録・01.09》:小人国のガリバーよろしく…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・01.09》:小人国のガリバーよろしく…
小人国のガリバーよろしく太いこん棒をかついで艦隊をロープで引っ張りカリブ海をのし歩く。20世紀初頭のセオドア・ルーズベルト米大統領の風刺画だ。世界史の教科書で見たという人も多いだろう
▲「太い棒を持ち穏やかに話せばうまくいく」という「こん棒外交」でキューバを保護国化し、パナマをコロンビアから強引に独立させて運河建設の権利を獲得。運河周辺地帯は米国の租借地になった
▲きょう9日はパナマの殉教者の日。1964年に民族主義の高まりから住民が蜂起し、多くの死者が出た。運河地帯でパナマ国旗の掲揚が拒否されたのがきっかけだった。暴動は77年の新運河条約につながり、99年末の返還が実現した
▲歴史の針を巻き戻すような発言だ。トランプ次期米大統領が運河の「法外な通航料」や中国の影響力を問題視し、返還は「大きな間違い」と言い切った。再び管理下に置くことも視野にあるらしい。メキシコ湾はアメリカ湾に改称するという
▲北極圏にあるデンマーク領グリーンランドにも触手を伸ばし、売却に応じなければ関税をかけると脅した。新たな巨人が闊歩(かっぽ)する範囲は「裏庭」をはるかに超え、こん棒だけでなくお金を回収するドル箱も抱えている
▲「我々は大国だが、より小さな主権国家とも公平で名誉あるディール(取引)ができる」。77年の条約締結の際、米国民に訴えたカーター元大統領の言葉である。理想主義が通用した時代が懐かしいが、唯我独尊のディールの達人には馬耳東風だろう。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2025年01月09日 02:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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