【社説①】:宝塚劇団員死亡 不誠実な対応が傷口を広げた
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:宝塚劇団員死亡 不誠実な対応が傷口を広げた
劇団員が亡くなった背景には、先輩から後輩への多くのパワーハラスメントがあった。劇団の古い体質を改め、悲劇を二度と繰り返さないようにしなければならない。
宝塚歌劇団の宙組に所属する25歳の女性が昨年死亡した問題で、劇団側は、上級生らによる14件のパワハラがあったと認め、遺族に謝罪した。ヘアアイロンでやけどを負わせたり、人格を否定する言葉を浴びせたりしたという。
警察は女性が自殺したとみている。劇団を運営する阪急電鉄の親会社、阪急阪神ホールディングスの嶋田泰夫社長は記者会見で「劇団の経営陣の怠慢がこうした事態を引き起こした」と陳謝した。
宝塚歌劇団は110年の歴史があり、多くのファンに支えられている。華やかな舞台とは対極にある陰湿な行為に、心を痛めているファンも多いはずだ。
劇団は昨年11月、弁護士チームによる調査結果をいったん公表した。業務が過重だったことは認めたものの、パワハラについては「社会通念上、不相当とはいえない」として否定していた。
今回、一転して全面的にパワハラを認めたのは、「遺族の思いを受け止め、事実を精査した」からだというが、そうであるなら、昨年の報告書は何だったのか。
調査を担当したのは、ホールディングスと関係がある弁護士事務所で、遺族が客観性を疑問視していた。最初から中立公正な第三者機関が適切に調査していれば、ここまで対応が迷走することはなかったと思わざるを得ない。
突然身内を失い、劇団側の不誠実な対応にも振り回された遺族の痛苦は、いかばかりか。
劇団は、公演の稽古や衣装準備の指導を上級生らに任せていた。伝統的に上級生と下級生の関係が厳しく、下級生は深夜まで作業に追われることも多かった。
本来なら阪急電鉄やホールディングスが劇団の管理運営に責任を持つべきなのに、こうした状況を放置し、問題発覚後も劇団側に対応を任せきりにした。無責任体質が常態化していたと言えよう。
亡くなった女性は、劇団と業務委託契約を結んでおり、自由に働き方を選べるフリーランスだった。にもかかわらず、長時間に及ぶ稽古などを強いられていた。劇団と劇団員の契約のあり方についても見直す必要がある。
阪急電鉄は、外部有識者による組織を新設し、劇団運営に助言をもらうという。信頼の回復には解体的な出直しが不可欠だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年03月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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