【社説②・12.12】:金融機関不祥事 職業モラルを取り戻せ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.12】:金融機関不祥事 職業モラルを取り戻せ
銀行、証券などの金融機関で従業員の不祥事によって客が被害を受ける例が相次いでいる。
三菱UFJ銀行は東京都内2支店で貸金庫から顧客の金品を繰り返し盗んだ行員を先月懲戒解雇した。被害は4年半で約60人分、時価十数億円に上る。
7月には当時の野村証券社員が広島市に住む客の80代夫婦宅を放火し現金を奪ったとして後に強盗殺人未遂と放火の罪で逮捕、起訴された。起訴内容の通りなら信じがたい凶行である。
大手ばかりでない。ここ最近は全国で信金職員の着服発覚が続く。道内でも日高信金の支店職員が377万円を着服したとして先月懲戒解雇された。
職業モラル欠如やガバナンス(組織統治)不全がまん延していると言わざるを得ない。事件を直視し、信用回復に業界全体で取り組む必要がある。
三菱UFJのケースでは貸金庫の契約者から指摘されるまで銀行は盗難に気づいていなかった。「厳格な管理ルール」「第三者による定期チェック」を導入していたというが、長期間全く機能していなかった形だ。
野村証券の元社員は被害者に資産管理をアドバイスする担当で、社内ルールに従わず上司に無断で休日に訪問していた。本人は金策に困っていたという。
両社とも経営陣の対応が鈍く三菱UFJに至ってはいまだ詳細な報告がない。トップには公の場で説明する責任がある。
野村証券は逮捕から1カ月以上たって奥田健太郎社長が会見で謝罪し「多大なるご迷惑とご心配をおかけした」と述べた。
だが元社員は被害者の妻に睡眠作用のある薬物を服用させ放火したという。近くの人が火事に気づき夫婦とも逃げ出した。迷惑と心配では済まない話だ。
奥田社長は引責辞任せず、自らを含む役員10人の報酬を一部返上する。金融業界の根幹である信用を自ら破壊した監督責任を感じているのか疑問が残る。
バブル崩壊後の金融危機を経て各社とも組織再編や人員削減が進んだ。一方で顧客の大切な資産を預かる職業規範や規律が希薄になってはいまいか。
野村証券や各信金で不祥事を起こしたのは20代から30代前半の若手が多い。人手不足と業務複雑化でここ数年採用増が続く中で、研修・教育は果たして適切だったか検証してほしい。
石破茂政権は資産運用立国を掲げ「貯蓄から投資へ」を唱える。その担い手たる金融機関がこれでは不安は増すばかりだ。個人の不祥事で終わらせず、政府は実効的な再発防止策やガバナンス強化を図るべきだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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