【社説②・11.06】:株不正取引 市場の信頼は傷ついた
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・11.06】:株不正取引 市場の信頼は傷ついた
公正な株取引を監視する「市場の番人」たちが自ら不正に手を染め、利益を得ていたならば到底許されない。
金融庁出向中の30代の裁判官が職務で知った株式公開買い付け(TOB)情報などを基に株取引をした疑いがあるとして、証券取引等監視委員会がインサイダー取引容疑で強制調査していたことが先月発覚した。
これとは別に東京証券取引所の若手社員が未公表のTOB情報などを親族に漏らし強制調査を受けている。親族は実際に株売買をしていたという。
内部情報を基にしたインサイダー取引は市場をゆがめる行為で刑事罰の対象である。
規制する立場の金融庁や東証担当者の不正は前代未聞で日本市場の信頼は大きく傷ついた。事実究明とともに徹底した再発防止策を講じねばならない。
関係者によると、この裁判官は4月から金融庁に勤務し、TOB予定企業から提出される書類審査などを担当していた。
TOBは企業買収や親会社による子会社化などで特定企業の株を大量に買い付ける。株主に応じてもらうため、買い値は市場の株価を上回ることが多い。
秘匿情報を扱うことから、金融庁は高い倫理規範を求め、以前から裁判官の出向を受け入れてきたようだ。
今回は短期間に自己名義で株取引を繰り返し、利益を得た疑いがある。事実なら「魔が差した」では済まない。国民の疑念に応えるため、最高裁は過去の出向者も調べる必要があろう。
一方の東証社員は自ら株売買していないが、金融商品取引法は「取引推奨」も禁じている。
東証は2年前に企業統治などを厳格審査したプライム市場を導入し透明性確保を進める。親会社の日本取引所グループも企業や投資家に不正防止を求めてきた。身内への教育が不徹底では説得力を持たないだろう。
そもそもインサイダー対策は当事者企業内部や関係者の情報漏えいを主眼に置いてきた。
出向裁判官のいた金融庁の部署では担当以外のTOB予定企業一覧表も共有していたという。取り締まる側の不正も念頭にした対策が急務となる。
政府は「資産運用立国」を掲げ国民に投資を促している。1月には投資枠を拡充した新たな少額投資非課税制度(NISA)を開始し、関心は高まる。
その陰で公的部署での不正が横行しては不安と不信は増す。システム面の防止策だけでなく、投機をあおる風潮の中で若い担当者の職業倫理がマヒしていないかの検証も求めたい。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月06日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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