【社説・12.23】:中国の核軍拡 「抑止力で対抗」だけでは
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.23】:中国の核軍拡 「抑止力で対抗」だけでは
日本被団協がノーベル平和賞を受賞し、被爆地が喜びに沸く半面、核兵器を巡る世界の状況はやはり厳しさを増している。米国防総省が、中国が想定を超えて核戦力強化を加速しているという分析を年次報告書で明らかにした。
ことし半ばの時点で運用可能な核弾頭数は昨年比で約100発増え、600発以上と推定した。米国とロシアの核弾頭はそれぞれ5千発強とされ、その1割を超えたことになる。2030年までに千発に達するとも予測し、その通りなら中国は米ロに迫るほどの核大国となる恐れがある。
ウクライナ侵攻以降、ロシアが核使用のどう喝を繰り返す間にも、東アジアの隣国でここまで核軍拡が進んできたことに強い懸念を抱く。
中国は米ロなどと同様、核拡散防止条約(NPT)で核保有が容認されている。一方で条約に基づく核軍縮の努力も求められるが、核保有に関する情報は開示していない。このため監視の目が届きにくいのが実情だろう。米国の推定では4年前の段階で200発台前半だったというから、驚くべき増え方と言える。
しかも運搬・発射手段も含む核戦力の多様化が読み取れるようだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)から爆発力の小さい核弾頭を積む精密打撃ミサイルまで、核使用の選択肢を増やしているという。
習近平指導部は何を考えているのか。台湾有事も視野に入れた当面の軍事戦略の一端であることは、容易に想像できる。ただ米国とその同盟国に対する不信の裏返しでもある点も頭に置きたい。
核保有は自国を守るためであり、先制使用はしない。それが中国が長年、掲げてきた主張だ。高濃縮ウランやプルトニウムといった兵器用核分裂性物質の生産停止に強硬に反対する最近の姿勢も考えると、それも疑わしく思える。ただ少なくとも、米国が日韓と連携して強化を図る核抑止力への対抗として核軍拡を位置付けるのも確かだろう。
米ロが自国の核をまともに減らさないまま核軍縮を迫られるのは筋違いだ、とする中国側の言い分にしても自分勝手なだけの理屈だろうか。中国の核戦力増強に「核には核」で対抗していく姿勢を米国と同盟国がエスカレートさせるなら負の連鎖は終わらない。
むろん、この事態は日本の脅威となり得る。しかし対中国の安全保障という視点のみではなく「核なき世界」へのプロセスに位置付け、そこに中国をどう巻き込んでいくかの発想が必要ではないか。
核兵器は人類と共存させてはならない―。日本被団協の受賞演説は世界中に響いた。どの国であっても核保有を悪とみなし、一緒に減らしていくための信頼醸成が厳しい状況だからこそ求められる。
政府は今回のノーベル平和賞に当たり「米国の拡大抑止を確保しつつ、核兵器のない世界に向かって努力することは矛盾しない」とする見解を示した。やはり無理がある。まずは核兵器の非人道性を正面から唱え、中国の人たちを含む国際社会に広く伝えるのが被爆国の役割のはずだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月23日 07:00:00 これは参考資料です。転載等は、各自で判断下さい。
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