【社説①】:相次ぐ法案ミス 官僚機構の構造問題だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:相次ぐ法案ミス 官僚機構の構造問題だ
政府が今国会に提出した法案のうち23法案、1条約に誤記や脱字などのミスが見つかった。
ミスは政府提出法案の4割で発覚し、13府省庁にまたがる。法治国家としてあってはならない異例の事態である。
各省庁とも新型コロナウイルスの感染拡大で対応に追われる中、長時間労働による注意力の欠如や、若手の退職者増加などによる人材不足が指摘される。
首相官邸が省庁幹部の人事権を握るようになり、時の政権に官僚が振り回され、士気低下を招いている面もあろう。霞が関全体の構造的な問題と捉える必要がある。
政府は早急に原因を究明し、再発防止策を講じなければ、国の土台が揺らぐ。
菅義偉首相肝いりのデジタル改革関連法案も関係資料に「地縁団体」を「地緑団体」と誤記するなど計45カ所でミスがあった。
同法案を担当する内閣官房の準備室では昨年10月の残業が平均で108時間に上り、過労死ラインの目安とされる月80時間を超えていたことが明らかになっている。
新型コロナでは内閣官房の感染症対策推進室の残業が1月に平均124時間に達し、西村康稔経済再生担当相が謝罪した。ミスは2月に施行されたコロナ対応の改正特措法でも見つかった。
政権が成果を急ぐあまり、突貫作業で法案を作成した結果、ミスにつながったのではないか。
国家公務員の採用試験の受験申込者数は昨年、過去最少になった。深夜残業や長時間労働の影響とみられている。有能な人材を確保するためには改善が急務だ。
国会答弁の作成作業も長時間労働の一因とされる。政府に憲法上課された重要な義務であるが、議員が質問内容を通告する時間を早めたり、対面でなくメールで伝えたりする工夫があってもいい。
安倍晋三前首相の「1強政治」の下、官僚は森友・加計、桜を見る会の問題などで不本意な国会答弁や説明を強いられてきた。菅首相は政権の意向に反する官僚は「異動してもらう」と明言する。
行き過ぎた官邸主導が官僚のやる気をそいでいないか。官僚が国の行政を担う気概を持って働く環境の整備が求められる。
かつて法律が誤ったまま成立し、その後、官報に正誤表を載せて訂正したこともあった。
国会審議を経ない法文修正は憲法違反との指摘もある。立法府にもチェックする重い責任があることを忘れてはならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年03月31日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。