東電の一般株主が東電経営陣(米資本・日本独占資本・国家)に対して果敢に挑んだ訴訟の意味を考えてみた。以下各新聞を掲載してみる。
東電歴代経営陣に5兆5千億円求め株主代表訴訟(2012年3月5日21時33分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120305-OYT1T01122.htm
横断幕を持って東京地裁に向かう、東電株主代表訴訟の原告ら=多田貫司撮影
東京電力福島第一原発事故で巨額の損失が生じたのは、東電の歴代経営陣が地震や津波への対策を怠ったためだとして、同社の株主が5日、現・元取締役27人を相手取り、5兆5045億円の損害賠償を同社に支払うよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。
原告側代理人によると、国内の訴訟では過去最高の請求額という。 提訴したのは、市民団体「脱原発・東電株主運動」のメンバーらで、事故当時、福島県内に住んでいた4人を含む42人の株主。文部科学省の地震調査研究推進本部が「マグニチュード8クラスの地震が三陸沖から房総沖で起こりうる」との見解を発表した2002年以降の取締役に賠償を求めている。 株主側は昨年11月、同社監査役に対して歴代経営陣への提訴を求めたが、監査役が応じなかったため、会社法の規定に基づき株主代表訴訟に移行した。請求額は、政府の第三者委員会が試算した事故被害者への賠償額や廃炉費用を基に計算した。 提訴後に記者会見した原告団事務局長の木村結さん(59)は、「東電の株主総会で長年、原発の危険性を訴えてきたが、取締役は耳を貸さなかった。責任を明らかにしていきたい」と話した。 東京電力広報部の話「訴訟に関することは回答を差し控えたい」
東京電力:株主、5.5兆円請求 代表訴訟、経営陣27人相手取り毎日新聞 2012年3月6日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120306ddm012040049000c.html
福島第1原発事故で東京電力が巨額損失を出したのは歴代経営陣が地震や津波対策を怠ったためだとして株主42人が5日、勝俣恒久会長ら新旧役員27人を相手取り総額5兆5045億円の損害賠償を同社に支払うよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。原告代理人によると、国内の民事訴訟として過去最高の請求額。記者会見した河合弘之弁護士は「集団無責任を是正し、他の原発の再稼働も防ぎたい」と話した。【野口由紀】
事故当時の役員18人のほか、文部科学省が三陸沖でマグニチュード(M)8クラスの地震が起きるとの長期評価を公表した02年7月以降の社長、会長、原発担当の役員が対象。 訴状によると、請求額は政府の第三者委員会が試算した13年3月末までの東電の損害額や廃炉費用に基づき算出。賠償金を回収できた場合、原発事故被害者への損害賠償に充てるよう求めている。 原告らは02年7月の長期評価のほか▽08年春に明治三陸地震(1896年)級のM8・3の地震が福島県沖で起きた場合に最高15・7メートルの津波が同原発に来るとの社内試算があった▽09年に原子力安全・保安院から貞観(じょうがん)地震(869年)を踏まえた津波対策の検討を促されていた--などと指摘。警告に対する具体的な対策を怠り、莫大(ばくだい)な損害を生じさせたとしている。
原告は、脱原発を求めてきた首都圏の個人株主が中心で、事故時に福島在住だった株主4人を含む。株主は昨年11月、東電の監査役に歴代経営陣を相手取って損害賠償訴訟を起こすよう求めたが、東電側は今年1月に提訴しないことを決めていた。
◇93年の法改正で高額賠償相次ぐ
損害賠償訴訟では、原告側が負担する手数料(印紙代)は請求額に比例するが、株主代表訴訟は93年の商法改正で一律8200円(現在1万3000円)と定められた。役員に対し会社に賠償を支払うよう求める訴訟であるため、原告個人に直接の金銭的利益がないという理由からだ。 改正後は代表訴訟が増加。蛇の目ミシン工業の利益供与事件を巡る訴訟で、東京高裁が08年4月に583億円の賠償を命じるなど、高額賠償を認める判決が相次いでいる。【野口由紀】
東電株主42人、歴代役員に5・5兆円賠償求め提訴2012.3.5 22:53 [放射能漏れ]
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120305/trl12030522530005-n1.htm
東京電力の福島第1原発の事故で、経営陣が地震や津波への安全対策を怠り巨額の損失を生じさせたとして、同社の株主42人が5日、勝俣恒久会長(71)ら歴代の役員計27人を相手取り、計約5兆5千億円を東電に賠償するよう求める訴えを東京地裁に起こした。 原告団によると、国内の民事訴訟で過去最高の請求額という。 提訴した株主は「脱原発」活動を行う市民団体の会員ら。株主側は訴状で、(1)文部科学省が平成14年、三陸沖から房総沖にかけ、マグニチュード8クラスの地震が起こりうるとの見解を公表した(2)東電が20年、社内の試算で「明治三陸沖地震(明治29年)レベルの地震が福島県沖で起きた場合、第1原発に最高15・7メートルの津波が到達する」と予測していた-と指摘。 「事故は想定外ではなく、経営陣が適切な津波対策を怠った」などと主張している。 株主側は昨年11月、東電の監査役に対し、歴代の経営陣について訴訟を起こすよう求めたが、東電側は今年1月、「法令違反などの責任は認められない」として、提訴しない方針を株主側に通知していた。 原告団は5日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「事故から1年たつが、東電は一切企業責任を取っていない」と強調。「『重大な事故を起こせば、役員個人の責任が追及される』と認識させることで、原発再稼働の阻止につなげたい」と話した。
5兆5000億円賠償請求 東電株主 経営陣に代表訴訟 東京新聞 2012年3月6日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012030602000037.html
東京電力の現・旧経営陣に対し株主代表訴訟を起こし、横断幕を持ち東京地裁に向かう原告ら=5日午後、東京・霞が関で
福島第一原発事故で東京電力が巨額の損失を出したのは経営陣が安全対策を怠ったためだとして、東京都や神奈川、静岡、愛知、福島県などに住む株主四十二人が五日、勝俣恒久会長ら現・旧経営陣二十七人に対し、約五兆五千億円を東電に賠償するよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。 株主側弁護団によると、国内の民事訴訟では過去最高の請求額。株主らは勝訴して賠償金が東電に支払われたら、被災者への弁償に充てるように同社に求めている。 訴えによると、東電は二〇〇八年、マグニチュード(M)8・3の地震が福島県沖で起きれば福島第一原発が最高一五・七メートルの津波に襲われると試算。しかし、歴代経営陣は、地震で想定される大災害の危険を認識しながらも、防波堤のかさ上げなど十分な安全対策を講じず、重大な原発事故に備えた訓練も怠り、事故で巨額の損害を生じさせた、と指摘。地震が頻発する日本で原発を建設し、運転したことの責任も重大だと主張している。 株主側弁護団の河合弘之弁護士は「歴代役員個人の責任を追及することで、原発業界にはびこる集団無責任体制を是正し、原発の再稼働を阻止したい」としている。 株主側は昨年十一月、東電の監査役に歴代経営陣への損害賠償請求訴訟を起こすよう求めた。だが東電は一月、「事故は対策の前提を大きく超える津波の影響。津波対策などについて全取締役の責任は認められない」として、訴訟を起こさないと通知していた。 東京電力は「株主の方が提訴したとの報道は認識しているが、正式に承知していない」とコメントした。
この訴訟に対して、白井 邦芳氏(危機管理コンサルタント)のブログが興味深いことを述べていたので、その部分だけを掲載してみる。
世界の企業経営陣を震撼させた「東電株主代表訴訟」がついに始まる2012年03月08日http://www.advertimes.com/20120308/article57356/
超巨額訴訟時代の到来 単純な和解よりも議論を経た国や行政との責任案分の検討を
(株主代表訴訟の流れについては「関係者相関図」を参照)
これまでにも巨額訴訟を誘引した事件は、幾つかあった。住友商事社員による銅の不正取引事件で約2850億円という巨額の損失を出したのは、当時の取締役が不正防止や調査を怠ったためだとして株主から2005億円の賠償を求める株主代表訴訟が起こされたものや、大和銀行(当時)のニューヨーク支店の不正取引にからみ、取締役及び監査役合計49人に対して1551億円の賠償を求めたものなど、当時の訴訟状況からは考えられない巨額な訴訟として新聞紙面の一面をかざった。最終的に住友商事事件は大阪地裁で4億3000万円で和解したが、大和銀行事件では同じ大阪地裁で株主側の主張を一部認め、当時の取締役ニューヨーク支店長に単独で約567億円、他の頭取を含む現・元役員11人に約262億円を支払うよう命じた後、大阪高裁で49人の被告に対して全員で2億5000万円を大和銀行へ支払う和解が成立している。一方、役員にとって最悪となった事件もある。蛇の目ミシンの株主代表訴訟では仕手集団「光進」に対して利益供与を行った旧経営陣5人に対して、1審2審ともに旧経営陣の過失を認めなかったが、最高裁まで争った結果、583億円の賠償が確定し一人当たりの賠償額はこれまでの最高額(116.6億円相当)となった。
リスク管理が経営者の重大な責任に!
株主代表訴訟が提起される訴因となるものは、主に(1)経営陣の個別的法令違反、(2)経営判断ミス、(3)リスク管理の懈怠やリスクの早期発見体制の整備不良である。最近の事例はこの「リスク管理やリスクの早期発見体制の整備」が内部統制上も重視されており、日本航空電子工業事件、高島屋事件、住友商事事件、大和銀行事件、野村証券事件などが、内部統制上の態勢に問題ありとして株主代表訴訟が提起された。・・・警告を無視し、具体的対策を講じないまま東日本大震災による莫大な損害を会社に生じさせたとして、「リスク管理の懈怠」を主な訴因として株主代表訴訟の被告となっている。5兆5045億円という賠償額は、国内民事訴訟としての最高額というばかりでなく天文学的金額である。日本の23年度一般会計歳出総額92.4兆円の約6%に相当し、米国の安全保障支出額とほぼ同じである。しかし、東電に対する株主代表訴訟のポイントは単に巨額訴訟という点よりも国や行政との間に過失相殺という考え方が適用されるかどうかにある。原子力発電所という非常にリスクを伴う運営を企業だけに依存することは疑問があり、行政や国そのものがどう関わるかが今後の課題となっている昨今、民事上の責任においても被告の弁護士団がどのような戦略で被告役員を弁護していくのか非常に興味深い。仮に国や行政の責任に及んだ場合、最高裁まで争われる可能性が高い。そのときどのような判断がなされるのか、今から注視していきたい。
資本家を「震撼」させるほどの訴訟の意味をどのように考えるか、だ。
では東電の株主=資本家の状況はどうだろうか。以下をみてみた。
http://www.tepco.co.jp/ir/kabushiki/jyokyo-j.html
大株主(上位10名)【2011年(平成23年)9月30日現在)】
株 主 名 株式数(千株)
第一生命保険株式会社 55,001
日本生命保険相互会社 52,800
東京都 42,676
株式会社三井住友銀行 35,927
東京電力従業員持株会 30,077
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) 29,479
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 28,341
株式会社みずほコーポレート銀行 23,791
SSBT OD05 OMNIBUS ACCOUNT – TREATY CLIENTS 15,116
ステート ストリート バンク ウェスト クライアント トリーティー 13,675
所有者別状況(単元株) 1単元の株式数100株 2011年(平成23年)9月末
株主数(名) 所有者別株式数(単元) 割合(%)
政府及び地方公共団体 32 434,009 2.7
金融機関 155 3,857,262 24.1
金融商品取引業者 73 304,294 1.9
その他の法人 3,950 717,664 4.5
外国法人等 947 2,348,456 14.7
個人・その他 723,676 8,338,659 52.1
合 計 728,833 16,000,344 100
この「個人・その他」株主の一握りの株主たちが、その他の株主=資本家のできないことをやったことの意味は、次代を予測させるだけの、それ相当な意味があるだろう。そのことを強調しておきたい。そこで、今回の訴訟の意味について、以下考えてみた。
1.東京都(行政)が東電の株主=税金の出資者は都民(資本家)になっている。
2.多くの個人株主が企業を支えている。
3.金融機関の出資金は個人の貯金によって支えられれている。
4.その多くの一般個人株主(資本家)が経営陣を訴える。
5.都民・貯蓄者の出資金でエネルギーがつくられている。
6.企業、株主(資本家)の社会的責任が問われている。
この企業株主・資本家の社会的責任について、聴濤弘「カール・マルクスの弁明」(大月書店)の中に以下の指摘があった。
ヨーロッパではEU委員会が、二〇〇一年に「企業の社会的責任に関する欧州枠組みの促進」という文書を作成し、ヨーロッパ内の経営者団体、労働組合、消費者団体、NGOに送付しました。ここでは企業の労働者、消費者、地域社会、環境に対する責任が明確化され、また労働者が企業の情報開示や企業との協議だけではなく、会社の意思決定に労働者を参加させることを求めています。
●日本での展望
日本でもいま次のような企業の社会的責任が求められていると思います(参照、『新・日本経済への提言』日本共産党経済政策委員会)。
1.労働条件、雇用にたいする責任
2.消費者にたいする責任
3.地域経済にたいする責任
4.環境にたいする責任
5.土地利用にたいする責任
6.中小企業にたいする責任
7.海外で良き協力者になる責任
これを具体的に実現させるためには、労働者が下から企業運営に積極的に参加していくことが必要です。地域住民、地方自治体のかかわりも重要です。
ここでは「労働者」のことが述べられているが、東電の経営者を訴えた株主(資本家)は、自分たちの「社会的責任」を以下のように述べている。
「歴代役員個人の責任を追及することで、原発業界にはびこる集団無責任体制を是正し、原発の再稼働を阻止したい」
「『重大な事故を起こせば、役員個人の責任が追及される』と認識させることで、原発再稼働の阻止につなげたい」
「集団無責任を是正し、他の原発の再稼働も防ぎたい」
株主らは勝訴して賠償金が東電に支払われたら、被災者への弁償に充てるように同社に求めている。
聴濤氏の「労働者」を「株主=資本家」に置き換えて読むと、この訴訟の意味は広がってくるように思う。以下、興味を持った部分、次代の可能性を示した部分について、掲載しておこう。
その点では日本は新しい展望をもつことができます。日本では資本主義の枠内での民主的変革を通じて、国民合意のもとで社会主義へ進むことが展望されています。この民主主義的変革の過程で、労働者はさまざまな企業運営と計画化の訓練と経験をいっそう積んでいくでしょう。
こういう条件のもとで労働者が、自分の利益だけでなく全国民的利益を考量して、意識的に自主的計画をたて、全国的な調整をはかって、それを遂行していくことは十分可能です。国家の側から見ても、これまでの歴史にあったように国家が考える全国的利益と、企業・労働者の利益が大きく乖離するという状況もなくなっていきます。
いま社会主義の計画経済について語るとき、労働者は自分の利益しかわからない、企業もわからない、国家でないと社会的規模のことはわからない、という観念をきっぱりと捨てる必要があります。労働者が[主人公]というのは、こういうことでもあると思います。
こうした指摘と現実は、「日本における未来社会」への過渡的道程をも示しているのではないだろうか。以下聴濤氏の指摘をみてみよう。
マルクスは、信用制度(銀行)が資本主義を「最も巨大な賭博・詐欺制度にまで発展させるが、もう一方で「新たな生産様式(社会主義のこと―引用者)への過渡的形態をなすという性格」(全集二五巻a、五六三ページ)をもつようになると述べています。こういう点がマルクスの鋭さです。なぜでしょうか。
●「賭博・詐欺の制度」と社会主義
第一に、信用制度は産業資本家が自己資金を十分もっていなくても、生産規模を拡大することができるように資本の貸し付けをおこない、従来国家がやっていたような巨大な企業まで産みだすからです。これはもう「社会企業」ともいえるものです。マルクスは信用制度は「個人資本には不可能だった企業」をつくりだし、「個人企業に対立する社会企業」(同上、五五七ページ)を出現させるからだと述べています。
第二に、株式会社は資本と経営の機能を分離し、資本家を「解消」する状況をつくりだすので、株式会社は社会主義への過渡的形態になることについては、第一章で述べました。信用制度は資本を貸しつけることによってその株式会社をつくるのにもっとも適しているからです。マルクスは信用制度は株式会社の形成を促進する「主要な基礎」(全集二五a、五六二ページ)であると指摘しています。また資本を廃止する協同組合企業を「拡張する手段をも提供する」(同上)からだとも指摘しています。
第三に、株式会社は資本が経営機能から分離し、労働も生産手段と剰余価値から分離され、所有形態としては社会的なものになるような「資本主義的生産の最高の発展」(同上、五五七ページ)をもたらします。すなわち真の社会的所有へ転化する「通過点」(同上)となります。信用制度はこういう株式会社を形成し発展させるからです。
マルクスはこのように「賭博・詐欺」の制度のなかに、社会主義的要素を発見したのです。
どうだろうか、株主が経営陣の責任を問い、企業の経営のあり方を問い直している訴訟は、聴濤氏の言葉を借りれば「持株会社」の「資本」が「真の社会的所有へ転化」していく一つの過程を示しているように思うのだが・・・。
以上、原発利益共同体(米資本・独占資本・国家)に対して、国民的利益を擁護する株主(資本家)が国家=裁判所に堂々と訴えていることの意味について、考えてみた。このような事例が広がっていけば、日本の資本主義のありようも変わってくるのではないか、というのは問題意識だ。日本の歴史のなかで、どのような意味をもっていくか、今後に期待したい。
働けばそれなりの分(ぶん)いただける次なる代(とき)をみせる株主
東電歴代経営陣に5兆5千億円求め株主代表訴訟(2012年3月5日21時33分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120305-OYT1T01122.htm
横断幕を持って東京地裁に向かう、東電株主代表訴訟の原告ら=多田貫司撮影
東京電力福島第一原発事故で巨額の損失が生じたのは、東電の歴代経営陣が地震や津波への対策を怠ったためだとして、同社の株主が5日、現・元取締役27人を相手取り、5兆5045億円の損害賠償を同社に支払うよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。
原告側代理人によると、国内の訴訟では過去最高の請求額という。 提訴したのは、市民団体「脱原発・東電株主運動」のメンバーらで、事故当時、福島県内に住んでいた4人を含む42人の株主。文部科学省の地震調査研究推進本部が「マグニチュード8クラスの地震が三陸沖から房総沖で起こりうる」との見解を発表した2002年以降の取締役に賠償を求めている。 株主側は昨年11月、同社監査役に対して歴代経営陣への提訴を求めたが、監査役が応じなかったため、会社法の規定に基づき株主代表訴訟に移行した。請求額は、政府の第三者委員会が試算した事故被害者への賠償額や廃炉費用を基に計算した。 提訴後に記者会見した原告団事務局長の木村結さん(59)は、「東電の株主総会で長年、原発の危険性を訴えてきたが、取締役は耳を貸さなかった。責任を明らかにしていきたい」と話した。 東京電力広報部の話「訴訟に関することは回答を差し控えたい」
東京電力:株主、5.5兆円請求 代表訴訟、経営陣27人相手取り毎日新聞 2012年3月6日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120306ddm012040049000c.html
福島第1原発事故で東京電力が巨額損失を出したのは歴代経営陣が地震や津波対策を怠ったためだとして株主42人が5日、勝俣恒久会長ら新旧役員27人を相手取り総額5兆5045億円の損害賠償を同社に支払うよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。原告代理人によると、国内の民事訴訟として過去最高の請求額。記者会見した河合弘之弁護士は「集団無責任を是正し、他の原発の再稼働も防ぎたい」と話した。【野口由紀】
事故当時の役員18人のほか、文部科学省が三陸沖でマグニチュード(M)8クラスの地震が起きるとの長期評価を公表した02年7月以降の社長、会長、原発担当の役員が対象。 訴状によると、請求額は政府の第三者委員会が試算した13年3月末までの東電の損害額や廃炉費用に基づき算出。賠償金を回収できた場合、原発事故被害者への損害賠償に充てるよう求めている。 原告らは02年7月の長期評価のほか▽08年春に明治三陸地震(1896年)級のM8・3の地震が福島県沖で起きた場合に最高15・7メートルの津波が同原発に来るとの社内試算があった▽09年に原子力安全・保安院から貞観(じょうがん)地震(869年)を踏まえた津波対策の検討を促されていた--などと指摘。警告に対する具体的な対策を怠り、莫大(ばくだい)な損害を生じさせたとしている。
原告は、脱原発を求めてきた首都圏の個人株主が中心で、事故時に福島在住だった株主4人を含む。株主は昨年11月、東電の監査役に歴代経営陣を相手取って損害賠償訴訟を起こすよう求めたが、東電側は今年1月に提訴しないことを決めていた。
◇93年の法改正で高額賠償相次ぐ
損害賠償訴訟では、原告側が負担する手数料(印紙代)は請求額に比例するが、株主代表訴訟は93年の商法改正で一律8200円(現在1万3000円)と定められた。役員に対し会社に賠償を支払うよう求める訴訟であるため、原告個人に直接の金銭的利益がないという理由からだ。 改正後は代表訴訟が増加。蛇の目ミシン工業の利益供与事件を巡る訴訟で、東京高裁が08年4月に583億円の賠償を命じるなど、高額賠償を認める判決が相次いでいる。【野口由紀】
東電株主42人、歴代役員に5・5兆円賠償求め提訴2012.3.5 22:53 [放射能漏れ]
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120305/trl12030522530005-n1.htm
東京電力の福島第1原発の事故で、経営陣が地震や津波への安全対策を怠り巨額の損失を生じさせたとして、同社の株主42人が5日、勝俣恒久会長(71)ら歴代の役員計27人を相手取り、計約5兆5千億円を東電に賠償するよう求める訴えを東京地裁に起こした。 原告団によると、国内の民事訴訟で過去最高の請求額という。 提訴した株主は「脱原発」活動を行う市民団体の会員ら。株主側は訴状で、(1)文部科学省が平成14年、三陸沖から房総沖にかけ、マグニチュード8クラスの地震が起こりうるとの見解を公表した(2)東電が20年、社内の試算で「明治三陸沖地震(明治29年)レベルの地震が福島県沖で起きた場合、第1原発に最高15・7メートルの津波が到達する」と予測していた-と指摘。 「事故は想定外ではなく、経営陣が適切な津波対策を怠った」などと主張している。 株主側は昨年11月、東電の監査役に対し、歴代の経営陣について訴訟を起こすよう求めたが、東電側は今年1月、「法令違反などの責任は認められない」として、提訴しない方針を株主側に通知していた。 原告団は5日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「事故から1年たつが、東電は一切企業責任を取っていない」と強調。「『重大な事故を起こせば、役員個人の責任が追及される』と認識させることで、原発再稼働の阻止につなげたい」と話した。
5兆5000億円賠償請求 東電株主 経営陣に代表訴訟 東京新聞 2012年3月6日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012030602000037.html
東京電力の現・旧経営陣に対し株主代表訴訟を起こし、横断幕を持ち東京地裁に向かう原告ら=5日午後、東京・霞が関で
福島第一原発事故で東京電力が巨額の損失を出したのは経営陣が安全対策を怠ったためだとして、東京都や神奈川、静岡、愛知、福島県などに住む株主四十二人が五日、勝俣恒久会長ら現・旧経営陣二十七人に対し、約五兆五千億円を東電に賠償するよう求める株主代表訴訟を東京地裁に起こした。 株主側弁護団によると、国内の民事訴訟では過去最高の請求額。株主らは勝訴して賠償金が東電に支払われたら、被災者への弁償に充てるように同社に求めている。 訴えによると、東電は二〇〇八年、マグニチュード(M)8・3の地震が福島県沖で起きれば福島第一原発が最高一五・七メートルの津波に襲われると試算。しかし、歴代経営陣は、地震で想定される大災害の危険を認識しながらも、防波堤のかさ上げなど十分な安全対策を講じず、重大な原発事故に備えた訓練も怠り、事故で巨額の損害を生じさせた、と指摘。地震が頻発する日本で原発を建設し、運転したことの責任も重大だと主張している。 株主側弁護団の河合弘之弁護士は「歴代役員個人の責任を追及することで、原発業界にはびこる集団無責任体制を是正し、原発の再稼働を阻止したい」としている。 株主側は昨年十一月、東電の監査役に歴代経営陣への損害賠償請求訴訟を起こすよう求めた。だが東電は一月、「事故は対策の前提を大きく超える津波の影響。津波対策などについて全取締役の責任は認められない」として、訴訟を起こさないと通知していた。 東京電力は「株主の方が提訴したとの報道は認識しているが、正式に承知していない」とコメントした。
この訴訟に対して、白井 邦芳氏(危機管理コンサルタント)のブログが興味深いことを述べていたので、その部分だけを掲載してみる。
世界の企業経営陣を震撼させた「東電株主代表訴訟」がついに始まる2012年03月08日http://www.advertimes.com/20120308/article57356/
超巨額訴訟時代の到来 単純な和解よりも議論を経た国や行政との責任案分の検討を
(株主代表訴訟の流れについては「関係者相関図」を参照)
これまでにも巨額訴訟を誘引した事件は、幾つかあった。住友商事社員による銅の不正取引事件で約2850億円という巨額の損失を出したのは、当時の取締役が不正防止や調査を怠ったためだとして株主から2005億円の賠償を求める株主代表訴訟が起こされたものや、大和銀行(当時)のニューヨーク支店の不正取引にからみ、取締役及び監査役合計49人に対して1551億円の賠償を求めたものなど、当時の訴訟状況からは考えられない巨額な訴訟として新聞紙面の一面をかざった。最終的に住友商事事件は大阪地裁で4億3000万円で和解したが、大和銀行事件では同じ大阪地裁で株主側の主張を一部認め、当時の取締役ニューヨーク支店長に単独で約567億円、他の頭取を含む現・元役員11人に約262億円を支払うよう命じた後、大阪高裁で49人の被告に対して全員で2億5000万円を大和銀行へ支払う和解が成立している。一方、役員にとって最悪となった事件もある。蛇の目ミシンの株主代表訴訟では仕手集団「光進」に対して利益供与を行った旧経営陣5人に対して、1審2審ともに旧経営陣の過失を認めなかったが、最高裁まで争った結果、583億円の賠償が確定し一人当たりの賠償額はこれまでの最高額(116.6億円相当)となった。
リスク管理が経営者の重大な責任に!
株主代表訴訟が提起される訴因となるものは、主に(1)経営陣の個別的法令違反、(2)経営判断ミス、(3)リスク管理の懈怠やリスクの早期発見体制の整備不良である。最近の事例はこの「リスク管理やリスクの早期発見体制の整備」が内部統制上も重視されており、日本航空電子工業事件、高島屋事件、住友商事事件、大和銀行事件、野村証券事件などが、内部統制上の態勢に問題ありとして株主代表訴訟が提起された。・・・警告を無視し、具体的対策を講じないまま東日本大震災による莫大な損害を会社に生じさせたとして、「リスク管理の懈怠」を主な訴因として株主代表訴訟の被告となっている。5兆5045億円という賠償額は、国内民事訴訟としての最高額というばかりでなく天文学的金額である。日本の23年度一般会計歳出総額92.4兆円の約6%に相当し、米国の安全保障支出額とほぼ同じである。しかし、東電に対する株主代表訴訟のポイントは単に巨額訴訟という点よりも国や行政との間に過失相殺という考え方が適用されるかどうかにある。原子力発電所という非常にリスクを伴う運営を企業だけに依存することは疑問があり、行政や国そのものがどう関わるかが今後の課題となっている昨今、民事上の責任においても被告の弁護士団がどのような戦略で被告役員を弁護していくのか非常に興味深い。仮に国や行政の責任に及んだ場合、最高裁まで争われる可能性が高い。そのときどのような判断がなされるのか、今から注視していきたい。
資本家を「震撼」させるほどの訴訟の意味をどのように考えるか、だ。
では東電の株主=資本家の状況はどうだろうか。以下をみてみた。
http://www.tepco.co.jp/ir/kabushiki/jyokyo-j.html
大株主(上位10名)【2011年(平成23年)9月30日現在)】
株 主 名 株式数(千株)
第一生命保険株式会社 55,001
日本生命保険相互会社 52,800
東京都 42,676
株式会社三井住友銀行 35,927
東京電力従業員持株会 30,077
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口) 29,479
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 28,341
株式会社みずほコーポレート銀行 23,791
SSBT OD05 OMNIBUS ACCOUNT – TREATY CLIENTS 15,116
ステート ストリート バンク ウェスト クライアント トリーティー 13,675
所有者別状況(単元株) 1単元の株式数100株 2011年(平成23年)9月末
株主数(名) 所有者別株式数(単元) 割合(%)
政府及び地方公共団体 32 434,009 2.7
金融機関 155 3,857,262 24.1
金融商品取引業者 73 304,294 1.9
その他の法人 3,950 717,664 4.5
外国法人等 947 2,348,456 14.7
個人・その他 723,676 8,338,659 52.1
合 計 728,833 16,000,344 100
この「個人・その他」株主の一握りの株主たちが、その他の株主=資本家のできないことをやったことの意味は、次代を予測させるだけの、それ相当な意味があるだろう。そのことを強調しておきたい。そこで、今回の訴訟の意味について、以下考えてみた。
1.東京都(行政)が東電の株主=税金の出資者は都民(資本家)になっている。
2.多くの個人株主が企業を支えている。
3.金融機関の出資金は個人の貯金によって支えられれている。
4.その多くの一般個人株主(資本家)が経営陣を訴える。
5.都民・貯蓄者の出資金でエネルギーがつくられている。
6.企業、株主(資本家)の社会的責任が問われている。
この企業株主・資本家の社会的責任について、聴濤弘「カール・マルクスの弁明」(大月書店)の中に以下の指摘があった。
ヨーロッパではEU委員会が、二〇〇一年に「企業の社会的責任に関する欧州枠組みの促進」という文書を作成し、ヨーロッパ内の経営者団体、労働組合、消費者団体、NGOに送付しました。ここでは企業の労働者、消費者、地域社会、環境に対する責任が明確化され、また労働者が企業の情報開示や企業との協議だけではなく、会社の意思決定に労働者を参加させることを求めています。
●日本での展望
日本でもいま次のような企業の社会的責任が求められていると思います(参照、『新・日本経済への提言』日本共産党経済政策委員会)。
1.労働条件、雇用にたいする責任
2.消費者にたいする責任
3.地域経済にたいする責任
4.環境にたいする責任
5.土地利用にたいする責任
6.中小企業にたいする責任
7.海外で良き協力者になる責任
これを具体的に実現させるためには、労働者が下から企業運営に積極的に参加していくことが必要です。地域住民、地方自治体のかかわりも重要です。
ここでは「労働者」のことが述べられているが、東電の経営者を訴えた株主(資本家)は、自分たちの「社会的責任」を以下のように述べている。
「歴代役員個人の責任を追及することで、原発業界にはびこる集団無責任体制を是正し、原発の再稼働を阻止したい」
「『重大な事故を起こせば、役員個人の責任が追及される』と認識させることで、原発再稼働の阻止につなげたい」
「集団無責任を是正し、他の原発の再稼働も防ぎたい」
株主らは勝訴して賠償金が東電に支払われたら、被災者への弁償に充てるように同社に求めている。
聴濤氏の「労働者」を「株主=資本家」に置き換えて読むと、この訴訟の意味は広がってくるように思う。以下、興味を持った部分、次代の可能性を示した部分について、掲載しておこう。
その点では日本は新しい展望をもつことができます。日本では資本主義の枠内での民主的変革を通じて、国民合意のもとで社会主義へ進むことが展望されています。この民主主義的変革の過程で、労働者はさまざまな企業運営と計画化の訓練と経験をいっそう積んでいくでしょう。
こういう条件のもとで労働者が、自分の利益だけでなく全国民的利益を考量して、意識的に自主的計画をたて、全国的な調整をはかって、それを遂行していくことは十分可能です。国家の側から見ても、これまでの歴史にあったように国家が考える全国的利益と、企業・労働者の利益が大きく乖離するという状況もなくなっていきます。
いま社会主義の計画経済について語るとき、労働者は自分の利益しかわからない、企業もわからない、国家でないと社会的規模のことはわからない、という観念をきっぱりと捨てる必要があります。労働者が[主人公]というのは、こういうことでもあると思います。
こうした指摘と現実は、「日本における未来社会」への過渡的道程をも示しているのではないだろうか。以下聴濤氏の指摘をみてみよう。
マルクスは、信用制度(銀行)が資本主義を「最も巨大な賭博・詐欺制度にまで発展させるが、もう一方で「新たな生産様式(社会主義のこと―引用者)への過渡的形態をなすという性格」(全集二五巻a、五六三ページ)をもつようになると述べています。こういう点がマルクスの鋭さです。なぜでしょうか。
●「賭博・詐欺の制度」と社会主義
第一に、信用制度は産業資本家が自己資金を十分もっていなくても、生産規模を拡大することができるように資本の貸し付けをおこない、従来国家がやっていたような巨大な企業まで産みだすからです。これはもう「社会企業」ともいえるものです。マルクスは信用制度は「個人資本には不可能だった企業」をつくりだし、「個人企業に対立する社会企業」(同上、五五七ページ)を出現させるからだと述べています。
第二に、株式会社は資本と経営の機能を分離し、資本家を「解消」する状況をつくりだすので、株式会社は社会主義への過渡的形態になることについては、第一章で述べました。信用制度は資本を貸しつけることによってその株式会社をつくるのにもっとも適しているからです。マルクスは信用制度は株式会社の形成を促進する「主要な基礎」(全集二五a、五六二ページ)であると指摘しています。また資本を廃止する協同組合企業を「拡張する手段をも提供する」(同上)からだとも指摘しています。
第三に、株式会社は資本が経営機能から分離し、労働も生産手段と剰余価値から分離され、所有形態としては社会的なものになるような「資本主義的生産の最高の発展」(同上、五五七ページ)をもたらします。すなわち真の社会的所有へ転化する「通過点」(同上)となります。信用制度はこういう株式会社を形成し発展させるからです。
マルクスはこのように「賭博・詐欺」の制度のなかに、社会主義的要素を発見したのです。
どうだろうか、株主が経営陣の責任を問い、企業の経営のあり方を問い直している訴訟は、聴濤氏の言葉を借りれば「持株会社」の「資本」が「真の社会的所有へ転化」していく一つの過程を示しているように思うのだが・・・。
以上、原発利益共同体(米資本・独占資本・国家)に対して、国民的利益を擁護する株主(資本家)が国家=裁判所に堂々と訴えていることの意味について、考えてみた。このような事例が広がっていけば、日本の資本主義のありようも変わってくるのではないか、というのは問題意識だ。日本の歴史のなかで、どのような意味をもっていくか、今後に期待したい。
働けばそれなりの分(ぶん)いただける次なる代(とき)をみせる株主