その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

塩野 七生 『ローマ人の物語〈26〉賢帝の世紀〈下〉』 (新潮文庫)

2011-05-10 21:58:07 | 
本巻では、前巻に引きつづき、ハドリアヌス帝の治世、そしてそれに続くアントニヌスの治世が描かれます。

ハドリアヌスの精力的な帝国辺境の視察と防衛体制の整備は前巻でも触れられていましたが、本巻で興味を引いたのは、132年から134年はじめに起こったエルサレム陥落に至るユダヤ戦役でした。

ハドリアヌスは、ローマ帝国内で反乱を起こすユダヤ人に対して強硬姿勢を取り続け、ユダヤ戦役で勝利を得ます。そして、この勝利により彼はユダヤ人のエルサレムからの全面追放を命じます。それが、ユダヤ人の「離散(ディアスポラ)」をもたらし、20世紀半ばのイスラエル建国まで続くのです。今そこにあるパレスティナやユダヤ人の問題が如何に長い歴史をもったものかに気付きます。

本書では、おさらいとして、ローマ人とユダヤ人の歴史を17ページも使って振り返ります(pp87-103)。当然のことながら、ローマの視点に立ったものですが、とても分かりやすい解説で、ユダヤ人の特性が良く分かります。一度、この当たりの歴史はユアヤ人サイドの文献も読んでみたいものです。

ハドリアヌスを引き継いだアントニヌスは、賢帝であった前帝たちの遺産の定着を図るのが彼のミッションでした。筆者の言葉を借りると、『ダキアを征服することでドナウ河防衛線の強化に成功したトライアヌスと、帝国全域を視察することで帝国の再構築を行ったハドリアヌスが、「改革」を担った人であった。この二人の後を継いだアントニヌスの責務は、「改革」ではなく、改革されたものの「定着」にあったのだ』(pp178-179)。筆者は、アントニヌスもまた、マキャベリの言うリーダーに不可欠の3条件である「力量」「幸運」「時代への適合性」を得た賢帝であったと評価します。

ローマの絶頂期を描いたこの巻以降、ローマがどう衰退していくのか、興味深いテーマが続きます。

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