デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

急進的なスタンスを保持したスタン・ケントンは絶賛されても謙遜した

2025-03-09 08:33:14 | Weblog
 ジャズ誌「Jaz.in」に岡崎正通氏が「Close Up ! Jazz Composer’s」を連載している。2月26日発売の017号は「スタン・ケントン楽団を再評価しよう」だ。アート・ペッパーやケントン・ガールズを追いかけた時にかなり聴きこんだ。ジャズ喫茶に置いていないし、国内盤は数枚しか出ていない、輸入盤も多くはない頃だったので音源を探すのに苦労した。

 「Discogs」によるとリイシューを含めてだがアメリカでは500以上のタイトルが並ぶ。一方日本はCD時代でも国内プレスは10枚にも満たないのだ。これほど本国と日本の評価と人気が著しく違うのは珍しい。岡崎氏が指摘している通り、難解さが付きまとっているからだ。エリントンやベイシーのように身体で感じるスウィング・バンドではなく、コンサートホールで厳かに鑑賞する音楽だ。ジャズ喫茶向きでもなければビッグバンドが手本にするスタイルでもないから現在まで大きく取り上げられたことがないのだろう。

 これから聴いてみようという方にお勧めは1955年録音の「Contemporary Concepts」でスタンダードに魔法をかけた演奏だ。前後するがペッパーを始めメイナード・ファーガソンやシェリー・マンの名を曲名にしている50年の「Stan Kenton Presents」は、縦横無尽なソロと耳に鮮やかなアレンジを満喫できる。そしてタイトルからして新しい「New Concepts Of Artistry In Rhythm」は何と52年だ。46年から51年までの音源をまとめたアルバムは「A Presentation of Progressive Jazz」である。常に急進的なスタンスを保っていたのだ。

 斬新な音楽を創造し続けたことが一番に評価されるが、誕生しては消えていく大所帯のビッグバンドを長年に亘り安定経営したのが凄い。ジューン・クリスティとデュエット・アルバムを作るほどのピアニストとしての感性も見逃せない。そしてジャズ史を彩る多くのソロイストやヴォーカリストを育てた。その功績を絶賛されても「彼らの実力です」とケントンは謙遜したという。
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マーシャル・ソラールのテクニックにニューポートの観客は驚いた

2025-02-16 08:47:08 | Weblog
 1年前にミシェル・サルダビーを追悼した時にヨーロッパを代表するピアニストとしてベンクト・ハルベルクにマーシャル・ソラール、アンリ・ルノーを挙げた。1970年前後のジャズ喫茶全盛時代はアメリカのレコードが中心で、欧州盤は滅多にかからないので名盤も知られていないし知名度も低い。その一人マーシャル・ソラールが昨年12月12日に亡くなった。

 74年発行のSJ誌増刊「幻の名盤読本」に1枚紹介されている。ヴォーグ・レーベルの10インチ盤をカップリングした国内盤で、最初のリーダー・セッションとサラ・ヴォーンの伴奏者として渡仏していたジョー・ベンジャミンとロイ・ヘインズがバックの4曲も収録している。仏オリジナル盤は市場に出ないので貴重なアルバムだ。発売した東宝レコードに拍手を送りたいが、プレス枚数が少ないうえ売れなかったようで直ぐに廃盤になり一度も見ないままだ。その後CDで聴いたが、3分ほどの演奏に起承転結が凝縮された見事な内容に驚いた。

 日本でにわかに注目されたのはアメリカにデビューしてからだ。タイトルは「アット・ニューポート '63」だが、バックは同行したガイ・ペデルセンとダニエル・ユメールではなく、テディ・コティックとポール・モチアンがサポートしたスタジオ録音である。おそらくステージが素晴らしかったので、滅多にないチャンスとばかりアメリカ勢と組ませたのかも知れない。「Stella by Starlight」のアドリブの構築や「'Round Midnight」のメロディー・ラインの間は本場のピアニストには出せない独特の味わいがある。そして何より抜群のテクニックに圧倒される。

 アメリカのピアニストがスウィング期はテディ・ウィルソン、バップ期はパウエルに右倣いだったが、その影響が少ないだけにフランスで独自のスタイルを磨いたのだろう。生涯50作以上の意欲的なアルバムを作り、ゴダールの「勝手にしやがれ」をはじめ多くの映画音楽も手がけたフランスを代表するジャズ・ピアニスト。享年97歳。合掌。
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中平穂積氏が聴いたジャズ、視たジャズマン

2025-01-26 08:23:49 | Weblog
 新宿のジャズ喫茶「DIG」とバー「DUG」の創業者、中平穂積氏が昨年12月1日に逝去された。SJ誌の広告欄を頼りに「DIG」に初めて行った時、空席待ちの行列に驚いたものだ。店内は喫茶店というよりジャズ道場と言うほうが相応しい。当時30代半ばのマスターは全身ジャズに染まったオーラがあり近寄りにくかったが、レコードを真剣に聴く学生を優しい目で見ていた。

 氏はジャズ写真家としても著名な方で「JAZZ GIANTS1961-2002」(東京キララ社刊)は50年にわたり撮り続けた貴重なジャズマンの姿が収録されている。音が聴こえてくるステージも魅力だが、普段見ることができないオフショットは貴重だ。モンクと肩を組む白木秀雄、パパ・ジョーに何やら冷やかされている様子のトニー・ウィリアムス、ピアノを弾くデイブ・マッケンナの指先を真剣に見ているサッチモ、ビリヤードに興じるアンソニー・ブラクストン、「Fickle Sonance」のジャケットと同じようなチェックのバケットハットを被って羽田に降り立ったジャッキー・マクリーン・・・

 なかでもニューポート・ジャズ・フェスの観客席の1枚は珍しい。マイルスが振り返って後列にいるニーナ・シモンと話をしているではないか。年代は記されていないが、シモンは70年にアメリカを離れているのでおそらく60年代後半と思われる。音楽の話だろうか。CBSとRCA、ともにメジャーにいる二人、契約のことだろうか。あるいは「シシリーとうまくやっているの?」。「フェラーリの新車買ったから乗せてやるよ」とでも。ビッグネーム二人がいても周りの観客はステージを見ている。これが本場のジャズの楽しみ方なのだろう。この写真集にあるのはファインダーから覗いたジャズの感動である。

 1960年代の新宿は当時ジャズ喫茶と呼ばれていたロカビリーの聖地「新宿ACB」に、ジャズレコード専門店「オザワ」、ジャズ・ライブは「PITINN」、そして「木馬」、「PONY」、「ビザール」のジャズ喫茶が賑わっていた。その中心でジャズ文化を積極的に発信したのが「DIG」だ。ジャズを愛し、ジャズマンに愛された中平穂積氏。享年88歳。合掌。
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SWING 2025

2025-01-05 08:31:01 | Weblog
 明けましておめでとうございます。手元に置きたい絶対的名盤、聴いておきたいジャズシーンを変えたレコード、魂を飛ばす奇盤、不思議な魅力がある珍盤までモダンジャズを中心に幅広く話題にしてきた当ブログは20年目に入ります。ここ数年は不定期更新でしたが毎日多くの方にご覧いただき総訪問者数100万、閲覧数250万を超えました。感謝申し上げます。

 正月恒例の福笑いは「Duke's Big 4」を選びました。録音時、エリントンは73歳です。今年は私も同じ年齢になるせいか顔つきが似てきました。ギターは志藤奨さん。店のマネジメントに黒岩静枝さんのスケジュール調整と多忙ですが、そのピッキングのように軽やかにこなします。バンドリーダーの佐々木慶一さん。魂のこもったスティックの一撃は快感ですし、多くのドラムレッスン生を持つ先生でもあります。そしてこのジャケットを作った鈴木由一さん。安定したベースラインでシンガーを支えます。私の根城「DAY BY DAY」の素敵なメンバーです。

 1973年に録音されたパブロ盤はジャズ界最大のレジェンドが、それぞれの楽器を極めたジョー・パス、ルイ・ベルソン、レイ・ブラウンと組んだ異色のセッションです。3人は当時40代でしたので御大とは親子ほど年の差があります。緊張と興奮、そして感動。ミスター・ヴァーチュオーゾの流麗なラインに絶妙なシンバルのタイミング、歌心満点の太い低音でアグレッシブなピアノをサポートしています。「Prelude to a Kiss 」や「Just Squeeze Me」というエリントン・スタンダードが新鮮に響くのは世代を超えた一体感と適度の張り詰めた空気感がもたらすのでしょう。

 ここ数年ジャズ喫茶の閉店が相次ぎ、それに伴いリスナーも減ったと言われていますが、ジャズ史を彩る名盤がCDと併せてレコードという形で次々と再発されています。レコード店で流れていた4ビートに魅せられて新しいファンが生まれたのも事実です。アルバム選びに迷ったとき、当ブログが指針になれば幸いです。今年もよろしくお願いいたします。
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ビル・ホルマンの名アレンジとジャイヴ・テナーを聴いてみよう

2024-12-22 08:39:46 | Weblog
 今年も多くの愛すべきジャズミュージシャン達が旅立った。拙稿で追悼したのはミシェル・サルダビーにアルバート・ヒース 、デヴィッド・サンボーン、ベニー・ゴルソン 、クインシー・ジョーンズ、ルー・ドナルドソン、そしてロイ・ヘインズとビッグネームばかりだが、ジャズ誌の片隅にしか掲載されないジャズマンや、日本で報じられない人もいる。

 5月6日に96歳で亡くなったビル・ホルマンは、「Band Live」で2006年のグラミー賞ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされたアレンジャーだ。スタン・ケントン楽団時代に素晴らしいスコアを残しているが、なかでも55年録音の「Contemporary Concepts」は70年経った今でも色褪せることがない。「What's New」に「Stella By Starlight」、「Cherokee」という大スタンダードの編曲の見事さよ。こんなにもこのメロディは美しかったのかと驚愕する。チャーリー・マリアーノやビル・パーキンスのソロも一段と映える仕掛けだ。

 テナー奏者としても一流で多くのアルバムをリリースしている。訃報を聞いてまず浮かんだのは「Jive for Five」だ。ジャケットをよくご覧になって欲しい。先頭のホルマンの後ろはメル・ルイスなのだが、このイラスト誰かに似ていませんか?ザ・ドリフターズの仲本工事にそっくりです。訃報記事でこれを出すと「ふてほど」と怒られるので見送った。さて、そのテナー。トップの「Out of This World」を聴いてみよう。スマートなアドリブライン、激しく熱いフレーズに漂うそこはかとない気品、「JIVE」のときめき、この世のものとは思えない。

 訃報を受けて小生同様、レコード棚を探した人もいるだろう。時が経つと持っているはずなのに見つからないとか、買ったことさえ忘れているものもあるが、なかには入手した時期、店名、価格、初めて聴いた印象、当時の情景までをも想い出させてくれる。青春の1ページが1枚のレコードからよみがえるのだ。これがジャズの魅力なのだろう。
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ロイ・ヘインズは霜月の晴れた午後、安らかに眠りについた

2024-12-08 08:33:33 | Weblog
 田舎のジャズ喫茶もどきにもあった「We Three」に「Misterios」、今も邦題の印象が強い「惑星」で、11月12日に亡くなったロイ・ヘインズを聴いた。55年以上も前になる。聴き初めなのでニューボーンやモンク、グリフィン、ドルフィーに集中して、ドラムに耳を傾ける余裕などない。ジャケットのクレジットで名前を知った程度で、ベースとドラムの役割も知らなかった。

 ようやくジャズのコンボ編成やリズム・セクションの重要性が解りかけた頃出会ったのは「Selflessness」だ。「My Favorite Thing」が終わる絶妙なタイミングで入るアナウンス「John Coltrane・・・Roy Haynes」。「Blue Train」や「Ballads」とは違うソプラノサックスのめくるめくソロに驚いたのは勿論のこと、延々と18分全力で叩くスネアに圧倒された。ジャズのライブとはこんなにも激しくて熱いものかと全身で感じたものだ。ナイアガラ瀑布のブレイキーや歌うローチ、ヘヴィー級のエルヴィンとは一味違うジャズドラムの世界を知った。

 数あるリーダー作から1枚選ぶなら62年の「Out of the Afternoon」だ。脂が乗った37歳。オープニングから派手に飛ばすロイは気持ちいい。「Moon Ray」のローランド・カークはおどろおどろしさもなく歌心あふれるフレーズで唸らせる。「Fly Me To The Moon」のトミー・フラナガンはスウィンギーで勢いがある。ロイの代表曲であり、歯切れの良いスネアの音からアル・マッキボンが名付けた「Snap Crackle」は、ロイに呼応するヘンリー・グライムスの端正なビートが力強い。グライムスがアイラーと共演する前なので貴重な録音だ。

 ロイが参加したアルバムは600枚を超えるだろう。レスターやパーカーと共演したのは今となっては伝説だが、パウエルにマイルス、ロリンズ、サラ、マクリーン、シェップ、バートン、チック、メセニー・・・多くの名盤に「Roy Haynes (ds)」のクレジットがある。ロイのディスコグラフィーを紐解くと1949年から2011年までのジャズシーンが見える。享年99歳。合掌。
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ジャズ喫茶でルー・ドナルドソンをリクエストしただろうか

2024-11-24 08:31:33 | Weblog
 「ルーさんのプラスさん」という妙に語呂のいい駄洒落に、ジャケットが浮かぶ「ルウドナのロケット」、「イラストのルー」でも分かるのにピー・ウィー・マーケットよろしく「ルーダーナスンQQS」。11月9日に亡くなったルー・ドナルドソンのレコードをジャズ喫茶でリクエストする時の呼び名である。誰が言い出したのか分からぬが、舌をかみそうな名前なので簡略化されたのだろう。

 ブルーノートとアーゴに数多くのリーダー作があるのに日本のジャズファンの間では敬遠されている。先に挙げたブルーノート前期の作品はパーカーまっしぐらでよく歌い人気もあるのだが、63年以降のアーゴとブルーノート後期はそもそもジャズ喫茶に置いていない。コンガでリズムを刻むラテン調やオルガンをフューチャーしたソウル系は苦手な方が多いことによる。そして「Alligator Boogaloo」。大ヒッしたアルバムはコマーシャリズムだと批判されジャズに非ずという風潮があり、ジャズ評論の名著、粟村政昭「ジャズ・レコード・ブック」にルーは名前すら出てこない。

 小生のサラ回しの経験のなかで一番のリクエストはリード・マイルスのジャケット・デザインが印象的な「Lou Donaldson- Quartet/Quintet/Sextet」だった。ブラウニーと肩を並べた「バードランドの夜」とほぼ同時期の3つのセッションをまとめたもので盤としての統一性はないもののパーカーを凌駕するのではないかと思わせる立て板に水の流麗なアドリブが凄い。同世代のスティットやキャノンボール、マクリーンと比べても何ら遜色のないアイデアに富んだフレーズの連続だ。新人を支えるミッチェルにドーハム、シルヴァー、ホープ、ブレイキーの優しい雰囲気も伝わってくる。

 時代の流れに沿ってスタイルを変えたルーはR&Bやファンク系のファンに受け入れられジャズの間口を広げたのは間違いない。ソウル・ジャズから聴きだし「LD+3」や「Lou Takes Off」が愛聴盤の方もおられるだろう。「Light-Foot」に「The Time Is Right」、「Here 'Tis」とジャケットのルーは柔やかだ。笑顔が長寿の秘訣なのかも知れない。享年98歳。合掌。 
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クインシー・ジョーンズと関わったミュージシャンを並べると音楽人名辞典ができる

2024-11-10 08:28:27 | Weblog
 マイルスにエリントン、ベイシー、シナトラ、レイ・チャールズ、ダイナ・ワシントン、レスリー・ゴーア、ドナ・サマー、スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソン・・・11月3日に亡くなったクインシー・ジョーンズと仕事をしたビッグネームだ。1950年以降のミュージシャンのほとんどがクインシーの編成したバンドに参加したり、編曲を依頼したり、プロデュースされている。

 アレンジャーに注目するのは音楽学校で編曲を学んでいる方か、吹奏楽を練習している人で、ほとんどのジャズリスナーはソロイストを目当てにアルバムを選ぶ。そのせいかトランペッターとしての実績がないだけにジャズファンの間で話題になることは少ないが、誰でもが知っている「Helen Merrill with Clifford Brown」の編曲はクインシーなのだ。メリルのため息がより艶っぽくなるスコアだ。特にイントロの数秒でそれとわかる「You’d be so nice to come home to」は素晴らしい。名イントロは数あれどこれほどインパクトが強いものはない。クインシー、何とこの時21歳。

 ジャズよりのレコードでは「This Is How I Feel About Jazz」に「The Birth of a Band!」、アート・ペッパーをフューチャーした「Go West, Man!」という傑作もあるが、生涯の作品で選ぶなら89年の「Back On the Block」だ。メンバーの豪華さに圧倒される。大御所ガレスピーにエラ、サラ。この時絶好調のハンコックにジョージ・ベンソン。ジェームズ・ムーディにボビー・マクファーリンという懐かしい名前もクレジットされている。クインシーの音楽人生の集大成ともいうべきスケールの大きなアルバムで、楽曲は勿論のこと練り上げられたアレンジと熱い演奏に聴き惚れる。

 ジャズからソウル、ヒップホップ、ボサノヴァ、ポップスまで音楽のジャンルを超えて幅広く才能を発揮し、活躍した音楽家はこの先出てこないかも知れない。マイルスの奥方フランシス・テイラーも惚れたというクインシーをマイルスが自伝で評している。「どの家の庭に入っても犬にかまれない新聞配達の少年がいる。クインシーがそれだ」享年91歳。合掌。
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黒岩静枝さんの歌手生活60周年と「DAY BY DAY」40周年を祝う

2024-10-27 09:16:48 | Weblog
 先週24日に黒岩静枝さんの歌手生活60周年とオーナーであるジャズクラブ「DAY BY DAY」のオープン40周年を記念したディナーコンサートが札幌パークホテルで開かれた。全国からお祝いに駆けつけた300人を超えるファンは、歳とともにますます磨きがかかったヴォーカルと、老舗ホテルの料理を堪能した。

 大きなブランクやスランプもなく60年のキャリアを持つシンガーは世界を見ても多くはいない。道内から東京、九州と各地で今も精力的にコンサートを開く。季節や天候、お客様の年齢層、その日の喜怒哀楽までをも考慮して2000曲持つレパートリーから最も相応しいナンバーを選ぶ。楽しい一日だった人は勿論、辛いことや悲しいことがあった方もステージが終わると笑顔に変わっている。歌手として勿論のこと、人として大きいからこそ為せる黒岩マジックに包まれたのだろう。

 そして「DAY BY DAY」。バブル前夜の1983年9月13日に開店した。間を明けて行くとビルのフロアを間違えたかと思うほど店が変わるススキノで40年、それも同じ場所で営業しているのは数店しかない。ハンク・ジョーンズ、アニタ・オデイ、ヘレン・メリル、渡辺貞夫、日野皓正・・・壁には所狭しにサインが並ぶ。また、多くのミュージシャンが黒岩さんに鍛えられて此処からプロとして、指導者として育っていった。この店は札幌のジャズの聖地なのである。

 翌25日に「DAY BY DAY」でオープンマイクが開かれ、パーティに参加した黒岩さんのレッスン生が歌って華を添えた。次の大きなコンサートは3年後の傘寿と決めている。今回の案内状に「老いるヒマなんかない」とあった。黒岩さんも歌を盛り上げるバック・ミュージシャンもファンも若くありたい。
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We Remember Benny Golson

2024-10-13 08:29:26 | Weblog
 トランペッターなら一度は吹く「I Remember Clifford」に、思わず歩速を揃えたくなる「Blues March」、レナード・フェザーが歌詞を付けた「Whisper Not」、カメオ出演したトム・ハンクス主演の映画「ターミナル」で演奏した「Killer Joe」、ジャズ喫茶で一番人気の「Five Spot After Dark」・・・作曲者のベニー・ゴルソンが9月21日に亡くなった。

 作編曲家として評価が高い一方、奏者としてはウネウネ・テナーと酷評され人気がない。コード理論はともかくこの「ウネウネ」こそ「シーツ・オブ・サウンド」の源流だと思う。アイラ・ギトラーが名付けたことからコルトレーンの象徴とされるが、形になるまでには高校の時一緒に練習したゴルソンのアイデアがあったからだ。功績を挙げたら切りがないが、JMは音楽監督のホレス・シルヴァーが56年に抜けたあと音楽的にも営業的にも不振に陥る。その窮地を数々の名奏者を輩出する名門バンドに立て直したのがゴルソンなのだ。

 更にコルトレーンがマイルス・バンドから独立し、コンボを組むときマッコイ・タイナーをメンバーにしたいとゴルソンに申し出る。ようやく育てたピアニストだが、友人の門出に快く送り出す。因みにコルトレーンとマッコイの出会いはジャズテットを編成するとき、ゴルソンが同郷の後輩マッコイを呼び寄せる。途中、車が故障したのでゴルソンの代わりに迎えに行ったのがコルトレーンだ。そしてエルヴィン・ジョーンズを薦めたのもゴルソンだ。ジャズ史に残るカルテットはこの立役者がいて誕生した。

 「Lee Morgan Vol. 3」に、サン・ジェルマンのJM、ウィントン・ケリー「Kelly Blue」、アート・ファーマー「Modern Art」、クインシー・ジョーンズ「 The Birth of a Band」、カーティス・フラー「Blues-ette」、サラ・ヴォーン「Sassy Swings Again」・・・ゴルソンのテナーなくして名盤と呼ばれなかっただろう。We Remember Benny Golson 享年95歳。合掌。  
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