デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

フェードアウトする Too Close for Comfort

2015-02-22 09:02:49 | Weblog
 「屋根の上のヴァイオリン弾き」で有名なジェリー・ボックが、1956年に発表した曲に「Too Close for Comfort」がある。58年のミュージカル「ミスター・ワンダフル」でサミー・デイヴィスJr.が歌って話題を呼んだ。ヴォーカル・ナンバーとして知られるが、インストに不思議な録音が多い。まず、アート・ペッパーだ。オープンリールのテープのみで販売された幻のオメガ・セッションである。今ではレコード化され幻ではなくなったが・・・

 次にジェリー・マリガンとスタン・ゲッツのヴァーヴお得意の組み合わせがある。この録音では楽器を交換しているのだ。ノーマン・グランツ氏には申し訳ないがライブならともかくレコードで聴いたところでこの仕掛けは面白くも何ともない。そして極めつけはウォーン・マーシュのアトランティック盤だ。マーシュというとレニー・トリスターノの門下生という位置付けから格調高いクール、平たく言うとスウィングしないというレッテルが貼られていたが、このアルバムは1957年当時のマイルスのリズム・セクションだったポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズが参加していることからアンチ・トリスターノ派からも支持されている。

 アルバムトップはこの曲だ。ピアノのロニー・ボールの短いイントロから、かすかにテナーが聴こえるのでこのままメロディに入るのかと思うと、何とここでチェンバースのソロが始まる。これが結構長い。チェンバースが一息付いたところでようやくマーシュが出てくる。トリスターノ派らしく思わぬフレーズが出てきて驚くが、展開はススリリングだ。構築されたソロも佳境を迎え、いよいよテーマに戻るというところで何とフェードアウトするのだ。エンディングでミスがあったのか、テープが切れたのか、理由はわからないが尻切れトンボとはいえ収録に値するソロには違いない。

 ペッパーといえば1972年にリリースされた「The Way It Was」で、ペッパー本人がライナーノーツを執筆している。このアルバムにはマーシュとのセッションも収録されていて、ライナーでマーシュが使用するスケール、ノート、フレイジング、タイム、その全てが好きだとべた褒めしていた。そして、マイルスのように常に正しい音を選び演奏すると。ミーツ・ザ・リズム・セクションで目指したものがわかったような気がする。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いつかどこかで聴いた Jazz Band Ball

2015-02-15 09:01:28 | Weblog
 昨夜、札幌駅直結のJRタワー展望室T38で、「そらのバレンタインコンサート」が開かれた。毎年恒例のイベントで、佐藤香織のピアノ、ベースは鈴木由一、そして佐々木慶一のドラムという「DAY BY DAY」のハウスバンドにシンガーの稲川由紀が加わってのミニライブである。ジャズと一面に広がる夜景、チョコレート片手に愛を語るには最高のシチュエーションかもしれない。

 お約束の「My Funny Valentine」も演奏された。このバレンタインは人名で、バレンタイン・デイにちなんだものではないが、いつの間にかこの日の定番になった曲だ。1937年にロジャースとハートの名コンビがミュージカル「Babes in Arms」のために書いたもので、この作品は名曲の宝庫と呼ばれている。ジュディ・ガーランドの名唱が聴こえてくる「I Wish I Were In Love Again」をはじめ、ジョージ・ウォーリントンがカフェボヘミアで毎晩演奏していた「Johnny One Note」、タイトルからはふしだらな女をイメージさせるが、自分に正直な女を表現している「The Lady Is A Tramp」・・・

 そして、「Where or When」、全て同じミュージカルの挿入歌だ。「My Funny Valentine」ほどではないが、ストリングスをバックに美しいメロディを際立たせたクリフォード・ブラウンや、甘いトーンながら刺激的なフレーズで魅了するジョニー・スミス、速いテンポでリズミカルに仕上げたエロール・ガーナー等、インストの録音も多い。面白さで群を抜いているのはヴァイヴ奏者3人の競演だ。テリー・ギブス、ヴィクター・フェルドマン、ラリー・バンカーという1957年の録音当時トップを走る3人が和気藹々とマレットを叩いている。バトルよりも調和を優先した同種楽器の組合せは楽しい。

 展望室は最上階の38階にあり、地上160mだという。ほとんどが若いカップルで、ジャズより360度に広がる札幌の夜景を楽しみに来たと思われるが、演奏中は静かに耳を傾けていた。生のジャズ演奏に初めて接する方もいたであろう。いつかどこかで夜景を眺めたとき、このライブを思い出すかもしれない。その夜の演奏はジャズファンをも唸らせる素晴らしい内容だった。

敬称略
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Little Girl Blue をピンキーで聴いてみよう

2015-02-08 09:03:26 | Weblog
 先週話題にした「Stompin’ At The Savoy」は、ビッグバンド物とコンボ物が分けて挙げられたほど録音が多かった。それもそれぞれの部門でベストが割れるだけ甲乙付け難い名演が揃っている。多くのプレイヤーが取り上げているなら手本となる決定的名演と呼ばれるものがありそうだが、意外にも決定打は見当たらない。それはスウィングからモダンまでどんなスタイルでも様になるし、ソロピアノからビッグバンドまで、どの編成でも形になる曲だからだろう。

 さて、ヴォーカルで録音が多い曲といえば何か?この時期集中して流れる「My Funny Valentine」、毎年売れる「White Christmas」、不朽の名作「Stardust」等、ジャズを聴かない方でも知っているスタンダードは別として、少々地味な曲だが「Little Girl Blue」は意外とカヴァーが多い。リチャード・ロジャースとロレンツ・ハートの名コンビによる楽曲だ。このタイトルで検索をかけると真っ先に出てくるニーナ・シモンをはじめ、ドリス・デイやジョニ・ジェイムスのポピュラーなものからアニタ・オデイやエセル・エニスのジャジーなもの、更にジャニス・ジョプリンと幅広い。

 当地は今、冬の風物詩である「さっぽろ雪まつり」が開催中なので、ピンキー・ウィンターズで聴いてみよう。1954年に録音されたデビュー盤で、オリジナルのVantage10吋盤は恐ろしい価格で取引されていた。バックはバド・ラヴィン・トリオだ。バドといえば同レーベルの「Moods In Jazz」は、文句なしの名盤、いや、ジャケ買いのベスト盤として知られるが、唄伴も上手い。ピンキーはこの時23歳なのだが、デビュー盤らしく瑞々しい一面と、曲によっては大人の色気を匂わせる。例えるなら見た目には初々しいが、味わってみると深いコクがあるピンクシャンパンだろうか。

もしこの曲が収録されている日本盤をお持ちならライナーノーツをご覧いただきたい。他の曲は歌詞に言及しているのに、どういうわけかこの曲の歌詞の意味に触れらているものはない。ハートの歌詞は、この曲が使用されたミュージカル「Jumbo」の筋を知らないと理解し難くなっているようだ。その難解さが逆に面白いのだろう。カヴァーが多いわけはそこにあるのかもしれない。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サヴォイ・ボールルームの収容人数は?

2015-02-01 09:16:00 | Weblog
 エリントンは自伝「A列車で行こう」で、「チック・ウェッブがサヴォイ・ボールルームで聴衆たちをあんなに統制し、思いのまま扱った理由は、彼がいつもダンサーたちとコミュニケーションし、その踊り方を膚で感じていたことにある」と述べている。ドラマーでありバンドリーダーであるウェッブに関心がない方は気に留めない人物評だが、このサヴォイ・ボールルームというダンスホールの収容人数を知って読むと、その偉大さがわかる。

 その数4000人である。劇場のように一列に並んでステージを見ているわけでもなければ、どこぞの国のマスゲームのように整列して同じ動作でダンスを踊るわけでもない。サヴォイのダンスといえばスウィング期に流行したリンディホップと呼ばれる激しい踊りで、即興性が強いので動きもまちまちだ。それを音楽でまとめたのだからカリスマ性があったのかもしれない。このホールから生まれた曲に「Stompin’ At The Savoy」がある。ウェッブ楽団のサクソフォーン奏者エドガー・サンプソンが作曲したもので、ウェッブ楽団のテーマ曲にもなっている。

 ベニー・グッドマンをはじめ多くの楽団が挙ってレパートリーにしたスウィング期の重要な曲だが、ミントンハウスでチャーリー・クリスチャンがホーン奏者に比肩するアドリブを展開したことでモダンジャズ期に引き継がれたナンバーでもある。1969年にはルーマニアのピアニスト、ヤンシー・キョロシーが、「Identification」で取り上げていた。当時考えられるジャズピアノの要素を全て取り入れ、それを昇華したスタイルはエネルギッシュで熱い。MPSというピアノの録音に自信があったレーベルだけあり鍵盤の動きさえ伝わってくる。アルバムタイトルの如く、自分の存在を証明した完璧な作品といっていい。

 サヴォイ・ボールルームは肌の色に関係なく音楽とダンスを楽しめる社交場だった。オープンした1926年という時代背景を考慮すると画期的なことである。エラ・フィッツジェラルドをはじめリナ・ホーン、ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン等のシンガー、バンドではアースキン・ホーキンズ、ラッキー・ミリンダー、バディ・ジョンソン等、ここで腕を磨いている。このホールなければ今のジャズの繁栄はなかっただろう。
コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする